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南極の氷底湖についに到達

Nature ダイジェスト Vol. 9 No. 5 | doi : 10.1038/ndigest.2012.120508

原文:Nature (2012-02-16) | doi: 10.1038/482287a | Russians celebrate Vostok victory

Nicola Jones

南極の氷の底にあるボストーク湖をめざして1990年代から掘削を進めてきたロシアチームが、とうとう、この湖に到達した。

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極寒の地で20年にわたって続いた掘削作業と激しい議論の末、ロシアの調査チームが、ついに南極の厚い氷床の底にあるボストーク湖に到達した。ボストーク湖は、南極の氷底湖の中で最も大きく、最も深いところに埋もれている。この湖は、何百万年もの間、外界から隔離されてきたので、そこに微生物がいれば、特別に適応した仕組みを持っている可能性が高い。ロシアの研究チームと交流のあるモンタナ州立大学(米国、ボーズマン)の南極研究者John Priscuは、「彼らは今週、ウォッカを飲み続けるに違いありません」と言う。

ロシアの南極調査プログラムの責任者であるValery Lukinによると、ドリルが氷床の表面から3769.3m下にある湖水に到達したのは、現地時間2012年2月5日午後10時25分のことだった(『長い道のり』参照)。すでに南極の夏は終わり、気温が急激に低下してきていた。気温が下がりすぎると、飛行機が安全に飛べなくなってしまう。したがって、ボストーク湖に到達した翌日には、もう科学者たちは現地を後にした。「本当にぎりぎりでした。この2週間ほど、本当にハラハラさせられました」とPriscuは言う。

ロシアの科学者はサンプルを採取したが、それは湖のすぐ上にある水たまりのものであった可能性が高い(サンプルが入った容器の1つは、華々しいファンファーレとともにウラジーミル・プーチン首相に贈呈された)。したがって、彼らが間違いない形でボストーク湖の氷のサンプルを採取するには、2012年12月まで待たねばならない。また、凍っていない水のサンプルを採取するのは、2013~14年のシーズンとなるだろう。「ボストーク湖への到達は技術的な偉業です。ただ、ここから科学的な成果が得られるのは、まだ何年も先のことなのです」と、南極研究科学委員会のMahlon Kennicuttは言う。

ボストーク湖掘削プロジェクトは、もともとは、古代の気象条件を調べるための氷床コアの掘削として始まった。しかし、1990年代半ばに、ボーリング孔の下に巨大な湖が潜んでいることが確認され、その水のサンプルを採取できれば、そこに古代の生命の徴候が見つかる可能性があると期待されるようになった1

ところで、長期にわたって掘削を続けるためには、掘削孔に灯油やフロンを満たして、それを維持する必要があるが、灯油は殺菌されていない。1990年代末になると、研究コミュニティーの中で、掘削液がボストーク湖を汚染することはないという確証が得られるまで、掘削を進めてはならないという合意が形成された。そして新しい計画に基づいて掘削が再開されたのは、2005年のことだった。この計画では、ドリルが湖に近づいたら、熱プローブつまり、氷を溶かしながら掘り進んでいく先端部品と交換する。また、清浄なシリコーン油を栓として使うことにより、そのより上方にある灯油が湖の水を汚染するのを防いでいる2

ロシアの調査チームが実際に熱プローブとシリコーン油を使用したかどうかは不明だが、おそらく、湖を汚染するのは避けられたと思われる。ドリルが氷を掘り抜いて湖に到達した途端、掘削孔の底から水が30~40mも上昇してきて、最上部から1.5m3の掘削液があふれ出たという。「彼らの言うとおりのことが起きたのであれば、ボストーク湖から出てきた液体はあっても、入っていった液体はなかったはずです」とKennicuttは言う。

掘削孔に入ってきた湖水はそのまま凍りつくので、研究者らは次のシーズンにそれを掘り出す計画を立てている。底に近い数百mの氷は、氷河ではなく、ボストーク湖の湖水が凍った「湖氷」であり、これまでの調査では、その湖氷のサンプル中から細胞が発見されている3。ただし、これが「汚染」によってもたらされた可能性は、排除できていない。掘削孔に新たにできた氷の栓も、この問題に決着をつけるものとは言いがたい。なぜなら、そのサンプルを地表に引き上げる際に、どうしても掘削液の灯油の中をくぐってこなければならないからだ。Kennicuttはそう指摘するとともに、さらに、湖水が凍結する過程で、そこに含まれていた微生物が外に出てしまったり死んでしまったりする可能性もある、と語っている。

ロシアチームは2013~14年シーズンに、各種のプローブ、カメラ、採水器を密封容器に入れて掘削孔に下ろし、湖の探査を実施する予定である。プローブには、湖の水温や酸性度などの物理的条件を測定する機器や、分光計を使って水中の有機化合物を調べる装置も入っている。

一方、英国と米国は、ロシアより1年早い2012~13年のシーズンに、南極の別の氷底湖から水と堆積物のサンプルを採取しようと計画している。どちらのプロジェクトも、氷河の融解水を加熱して氷を溶かすという方法で、一気に湖まで掘り進めていく。氷を溶かした孔は24時間後にはふさがってしまうので、ロシアのプロジェクトよりも環境に優しく、短時間ですむという長所がある。英国チームはこの方法で3.1kmの氷床を掘り進み、わずか3日でエルズワース湖という氷底湖に到達する予定である。もっとも、この方法は、ボストーク湖には使えなかった可能性が高い。ボストーク湖は、エルズワース湖よりも厚い氷床の下にあり、温度も低いため、湖に到達するには莫大な量のエネルギーが必要となるからだ。

Kennicuttは、ロシアチームのボストーク湖、英国チームのエルズワース湖、アメリカチームのウィランズ湖のプロジェクトが先駆けとなって、今後、南極に数百個ある氷底湖から広くサンプルが採取される時代が来ることを期待している。「南極の氷底湖は、地球上で最も圧力が高い場所でも、温度が低い場所でもありません。しかし、栄養分とエネルギーが非常に制限されているという意味で、きわめて重要な場所なのです」とKennicuttは言う。今後、このような過酷な環境に生物が生息していることが確認されたら、「次は、微生物たちはそこでどうやって生きているのか、という問題と取り組むことになるでしょう」。

(翻訳:三枝小夜子)

参考文献

  1. Kapitsa, A. P., Ridley, J. K., Robin, G. de Q., Siegert, M. J.& Zotikov, I. A. Nature 381, 684-686 (1996).
  2. Lukin, V. & Bulat, S. Geophys.Monogr.Ser. 192, 187-197 (2011).
  3. Karl, D. M. et al. Science 286, 2144-2147 (1999).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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