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思慮に欠ける日本の研究所統廃合計画

世界最速のスーパーコンピューター(上)を運営する理化学研究所も、新たに作られる機関の監督を受けるようになるかもしれない。

JIJI PRESS/AFP/GETTY IMAGES

景気低迷に苦しむ日本政府が、研究開発制度を抜本的に改革して経費節減を進めるという名目のもと、日本屈指の研究機関を一緒くたに統合しようとしている。

1月20日の閣議で了承された計画によれば、基礎科学技術に関する総合研究所である理化学研究所、物質・材料研究機構(NIMS)、海洋研究開発機構(JAMSTEC)、防災科学技術研究所(NIED)、それに、公的研究資金を配分する科学技術振興機構(JST)などを統合するという。

「支出のむだは削っていかなければなりませんので、できるだけコンパクトにしながら中身を重視する必要があります。世界をリードする科学技術分野を確立したい。そんな期待からこのような結論になりました」。文部科学省の奥村展三副大臣は、1月下旬に行われた記者会見でこう語った。今後、これら5つの研究機関を1つの傘下に入れて統括管理する組織が新設される可能性が高く、5機関の間で研究資源と管理組織の共同利用が促進され、役員数は削減されることが予想される。

しかし、これはあくまでも机上の政治論理にすぎない。統廃合の実施時期、経費節減の規模、改革の真の意味といった詳細情報が完全に欠如しており、逆に、研究資金の大幅削減や官僚主義の肥大という「改悪」に大義名分を与えてしまう危険性のほうが高い。憂慮の念が研究者の間に広まっている。

日本の科学技術政策の最高決定機関である総合科学技術会議の元議員で、京都大学に所属する分子生物学者の本庶佑名誉教授は、次のように語る。「この計画は、研究開発体制をよくしようという視点から出てきたものではないと思います。統合の候補となっている研究機関の組み合わせから見て、本質的に統合するのは非常に難しいのでは・・・・・・」。

これに対して、科学技術振興機構の中村道治理事長は、今回の変革を楽観視している。「新たに生まれる組織は、日本でのイノベーションを主導するうえで中心的な役割を果たすことが期待されています。我々は、統合後の研究資金配分過程の独立性を維持する一方、学界や産業界との協力関係を強化するためにできるかぎりの努力をしていきます」と彼は話す。

今回の計画には、5法人統合とは別に、放射線医学総合研究所(NIRS)と日本原子力研究開発機構の統合も含まれている。日本政府は、これによって、福島原発事故の影響を軽減するという政府公約の実行が迅速化、強化され、原子力安全対策の改善にも役立つとする見解を示している。

民主党が政権を奪取した2009年以降、首相を議長とする行政刷新会議(GRU)は、予算に目を光らせ、政府系事業と政府系機関の再評価によって予算節減の余地を検討してきた(Nature http://doi.org/bs75dv; 2010参照)。しかし、歳出削減は思うように進まず、それでも増税を断行したい日本政府が、独立行政法人の統廃合の一環として今回の統廃合計画を持ち出し、国民の支持を得ようとしたふしがある。

「行政刷新会議で統廃合の話が出てきたのはここ1か月くらいで、ほとんど議論もせずに計画を押し通したのです」。こう明かすのは、科学政策の専門家で、政策研究大学院大学(東京都)の角南篤准教授だ。統廃合を実施するための法案は、今期の通常国会に提出され、議会で可決されれば、2014年4月にも統廃合が実施される予定だ。今後の国会での議論次第では、統廃合計画の対象機関が増える可能性もある、と複数の政策専門家は話している。

日本政府は、独立行政法人の管理体制と業績の評価をさらに厳格に行うため、第三者機関による監査制度の創設も意図している。しかし、物質・材料研究機構の潮田資勝理事長は、ガバナンスの強化という発想全体に危惧を感じている。「現在、物質・材料研究機構の理事長には、十分な権限が与えられていて、意思決定のプロセスは迅速に進められています。理事会の直後に新たな施策が実行されることも多くなっています。しかし、もし既存の機関の上に新たな管理組織が加わるとなると、意思決定が遅くなり、ダイナミックな対応をとることが難しくなると思います」。

翻訳:菊川 要

Nature ダイジェスト Vol. 9 No. 5

DOI: 10.1038/ndigest.2012.120518

原文

Japan plans to merge major science bodies
  • Nature (2012-02-02) | DOI: 10.1038/482019a
  • 冬野 いち子