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地球サイズの惑星が見つかった

太陽系外惑星が初めて見つかってから約20年がすぎた1,2。今では、私たちの住む銀河系(天の川銀河)のかなりの数の星が惑星を伴っていることがわかっている。当初見つかった惑星の大半は、巨大で質量も大きさも木星に似た星たちだった。しかし、ドップラー偏移法(視線速度法)という地上からの惑星探索技術の進歩3と、トランジット法(食検出法)を用いるケプラー宇宙望遠鏡の打ち上げにより、状況は一変した。小さくて低質量の惑星からなる惑星系が次々と見つかり、銀河系では、こうした惑星系がありふれたものであることがわかってきたのだ4

そして今回、ハーバード・スミソニアン宇宙物理学センター(米国マサチューセッツ州ケンブリッジ)のFrancois Fressinらが、ついに、ケプラー20という星の惑星系に、地球とほぼ同じ大きさの2つの惑星が存在することを見つけ、Nature 2012年2月9日号195ページに報告した5。今回の発見は、系外惑星探索の目標が、地球よりも小さな天体へと移りつつあることを示している。

図1:ケプラー20の惑星の軌道配置
Fressinらが発見した地球とほぼ同じ大きさの惑星、ケプラー20eとケプラー20fは、5つの惑星(b~f)が密に集まっている惑星系の一部である5。これらの惑星は親星ケプラー20の周りを回っており、親星との距離は、太陽と水星の距離よりも近い。なお、ここでは惑星の大きさは距離と同じ縮尺では描いていない(宇宙関連ニュースサイトSpace.comのK. Tateによる図を改変)。

ケプラー20は太陽に似た星で、地球から約300パーセク(約1000光年)のところにある。ケプラー宇宙望遠鏡のトランジット法による観測で、海王星より少し小さい3個の惑星(ケプラー20b、ケプラー20c、ケプラー20d)と、地球ほどの大きさの2個の惑星候補(ケプラー20e、ケプラー20f)が、この星の周りを回っていることが明らかになった6。公転周期は順に3.7、10.9、77.6、6.1、19.6日で、ケプラー20eの半径は地球の0.87倍、ケプラー20fは1.03倍と見積もられている。この5つの惑星と親星の距離は、水星と太陽の距離よりも近いが(図1)、このように惑星が密集しているケースは、太陽系外惑星系では珍しいことではない。

2006年、HD 69830という星の周りを、海王星ほどの質量の3個の惑星が密集した軌道で回っていることが発見された7。それ以来、同様に軌道配置が密集した惑星系が、ドップラー偏移法で多数見つかっている。軌道を回る惑星の重力によって親星が引っ張られるため、親星の光は小さなドップラー偏移を起こす。ドップラー偏移法とは、この変化を測定して惑星を探し出す方法のことだ。最も密集した惑星系としては、HD 10180を回る7個の惑星系と8、ケプラー11の前を通過する6個の惑星系が見つかっている9

密集した惑星系では、その軌道に関連した力学的効果によって互いに影響を及ぼし合う場合がある。この現象のために惑星の軌道が乱され、親星の周りを一周して同じ場所に戻ってくるタイミングがわずかに遅れる。これは、惑星が親星の前面を通過するタイミングのずれとして検出することができ、トランジット(前面通過)タイミング変動と呼ばれている。

ドップラー偏移とトランジットタイミングの測定によって惑星が親星に及ぼす力学的効果を観測し、これとトランジット観測(惑星が星の前を通過するときに星が暗くなる現象を観測する)の結果とを組み合わせると、惑星の平均密度が計算できる。その結果、惑星の構造、つまり巨大ガス惑星なのか岩石惑星なのかといったことがわかる。

しかし、質量が土星規模よりも小さい惑星で、密度のわかったものはほとんどない。親星が暗く、惑星候補も小さい場合は、ケプラーなどの宇宙望遠鏡で惑星の前面通過は観測できても、ドップラー偏移による地上からの追跡観測では正確な観測ができないことが多いからだ。トランジットタイミングの検出もすべてのケースでできるわけではなく、特定配置の惑星系にのみ限定される9

理想を言えば、星の前を通過する惑星候補が確かに惑星であることを確かめるには、惑星が親星を重力で引っ張る現象の検出が必要だ。しかし、ほとんどの場合、ケプラーが発見した惑星候補について、この力学的効果を検出するのは難しい。互いに覆い隠し合う2つの星からなる連星系など、ほかの天体でも惑星の前面通過と似た信号が得られる可能性があり、そうした天体ではないことを確かめるには、補足の観測と統計的分析をしなければならない。

Fressinらは今回、まさにそれを実行した5。これまでのケプラー宇宙望遠鏡の観測を統計的に分析し、惑星の前面通過とみられる信号が実際に惑星によるものであることを示し、地球とほぼ同じ大きさの2つの惑星(ケプラー20eとケプラー20f)を発見したのである6

図2:質量と半径の関係
これまで観測されている小型の惑星(スーパーアース)について、その質量と半径の関係をまとめたもの。ケプラー20eと20fの質量推定値と観測半径の範囲が、左下隅に示してある。なお、色の実線は、構成成分が均一組成の場合の関係で、それぞれ、水でできた氷(青色)、MgSiO3ペロブスカイト(赤色)、鉄(紫色)である(Fressinらの論文の197ページ図3を再録)。

Ref.5

Fressinらは、今回の2つの新しい惑星をより広い視点から位置付けるため、すべての既知のスーパーアースについて、質量と半径の分布図を作成した5(図2)。スーパーアースは、地球から海王星までの質量を持つ惑星であり、その内部構造はいろいろなものがありうる。その分布図を見ると、この質量領域の惑星がいかに多様であるかがよくわかる。同じ質量の天体でも、巨大ガス惑星もあれば鉄の中心核を持つ密度の高い惑星の場合もある。そうした多様性がどうして生まれるのか、惑星形成モデルで説明するのは今後の課題であろう。

地球に似た惑星は、この質量・半径分布図の中で、質量も半径もいちばん小さい左下隅にある。ケプラー20eとケプラー20fの質量はわかっていないが、Fressinらは、この2つの惑星も間違いなくこの領域に位置していることを示した5。ただ、質量がわかっていないので、その組成をはっきりと決定することはできない。しかし、興味深いことに、質量の大きなケプラー20bとケプラー20cの組成については、少しだけわかっている。その情報は、この2つの惑星によって引き起こされるドップラー信号の検出とその上限から得られた6。ここから、ケプラー20bとケプラー20cを構成している可能性のある物質は、ケイ酸マグネシウムから水の氷まで幅広いことがわかったのだ。あるいは巨大ガス惑星である可能性もある6

新たな惑星系は着実に発見されており、その数は増えている。ケプラー20eやケプラー20fのような小さな惑星群は、そのリストの中でカギとなる重要な天体だ。太陽系では、太陽の近くには小さな岩石惑星があり、遠くには巨大ガス惑星があるのに、これら太陽系外惑星の軌道位置には、明らかな階層性は見られない。太陽系外惑星研究の次なる重要な課題は、これらの小さな惑星が親星に及ぼす力学的効果を検出し、惑星の質量を決定することだ。

翻訳:新庄直樹

Nature ダイジェスト Vol. 9 No. 5

DOI: 10.1038/ndigest.2012.120510

原文

An Earth-sized duo
  • Nature (2012-02-09) | DOI: 10.1038/482166a
  • Didier Queloz
  • Didier Quelozはスイス・ソーベルニーのジュネーブ天文台に所属。

参考文献

  1. Wolszczan, A. & Frail, D. A. Nature 355, 145–147 (1992).
  2. Mayor, M. & Queloz, D. Nature 378, 355–359 (1995).
  3. Udry, S., Fischer, D. & Queloz, D. in Protostars and Planets V (eds Reipurth, B., Jewitt, D. & Keil, K.) 685–699 (Univ. Arizona Press, 2007).
  4. Pepe, F. et al. Astron. Astrophys. 534, A58 (2011).
  5. Fressin, F. et al. Nature 482, 195–198 (2012).
  6. Gautier, T. N. III et al. Astrophys. J. (in the press); preprint at http://arxiv.org/abs/1112.4514v2 (2011).
  7. Lovis, C. et al. Nature 441, 305–309 (2006).
  8. Lovis, C. et al. Astron. Astrophys. 528, A112 (2011).
  9. Lissauer, J. J. et al. Nature 470, 53–58 (2011).