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海藻で作るバイオ燃料

海藻は、サトウキビやトウモロコシなどの食用作物よりも、バイオ燃料の原料として持続可能的であると考えられる。

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海藻からエタノールを生産する方法が、バイオアーキテクチャーラボ社(米国カリフォルニア州バークレー)の吉国靖雄らにより考案された。大腸菌を遺伝子操作し、褐藻類を分解してエタノールを生産できるようにしたのだ1。これは、食用作物を使わないバイオ燃料の実現に向けた一歩である。

吉国らが褐藻類を選んだのは、持続可能性と拡張性という2つの理由からだという。「海藻は、すでに世界中で大量に生産されていますし、生育には真水や土地が必要ありません」と吉国は語る。さらに、褐藻類は、紅藻類や緑藻類と比べて生育も速い。代表例がカリフォルニア沖に生育するジャイアントケルプで、1日に1mも伸びる。

現在、サトウキビやトウモロコシからバイオ燃料が生産されているが、このために食物の供給量が減るばかりか、広大な耕作地も奪われている。トウモロコシの場合、栽培と収穫には、生産されるエタノールから得られる燃料よりも多いエネルギーが必要となる。そこで多くの研究者が、サトウキビやトウモロコシなどの食用作物を使わずにエタノールを生産する方法を研究しており、スイッチグラス(キビの仲間)やジャトロファ(ナンヨウアブラギリ:多肉植物の一種)、シアノバクテリア、緑藻類など、さまざまな原料が対象となっている。

しかしこれまで、海藻からのバイオ燃料生産は難題だった。海藻は、ラミナリン、マンニトール、アルギン酸塩、セルロースという4種類の糖類を生産する。特にアルギン酸塩は、褐藻類が最も多く生産するのだが、複雑な多糖類で、微生物が容易に分解できない。「この炭水化物は、トウモロコシやサトウキビのような従来の陸上起源のものと比べてちょっとやっかいなのです」と吉国は語る。「褐藻類の潜在能力を引き出すには、アルギン酸塩の分解がカギになります」。

海藻の解決法

吉国らは、まず、褐藻類を分解することができる海洋微生物Vibrio splendidusを用いて、アルギン酸塩を分解する生化学的経路を同定した。そして、その経路で働く遺伝子をある種の大腸菌に組み込むと、大腸菌がアルギン酸塩を単糖類に分解できるようになった。次に、その大腸菌の遺伝子をさらに操作して、できた単糖類がエタノールにまで変換されるようにした。こうして、褐藻類からエタノールを直接生産できるようになった。理論的には、この大腸菌は、エタノール以外にも、種々の有用な化合物や燃料を生産するように遺伝子を組み換えることができるはずである。

イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校(米国)のゲノム生物学研究所で海藻からのバイオ燃料生産を研究しているYong-Su Jinは、「これはとてもすばらしい研究です。本当に革新的な成果なんですよ」と話す。Jinは紅藻類を扱っているが、紅藻類は褐藻類ほど大量には存在しない。だが、アルギン酸塩の含有量が低いために、「酵母による発酵が比較的容易」なのだとJinは言う。

一方、カリフォルニア大学サンディエゴ校(米国)サンディエゴ藻類バイオテクノロジーセンターの所長Stephen Mayfieldは、吉国の研究について、「非常に巧妙な遺伝子組み換え技術」ではあるが、「これだけではバイオエネルギー生産にはほとんど役立たない」と考えている。「バイオ燃料分野の課題で重要なのは、複雑な炭水化物を単糖類に分解することではなく、バイオマスの栽培と輸送という段階にかかわる残りのステップなのです」とMayfieldは説明する。

大きな問題として残されているのは規模の拡大だ。海藻は何百年にもわたって食用として養殖されてきたが、生産量は年間数千tにとどまっている。だが、バイオ燃料の生産には何十億tもの海藻が必要である。「大規模な養殖に向けては、まだ大きな技術的関門が立ちはだかっているのです」とJinは語る。

吉国も、それを認めている。今年、吉国らは、チリで建設中のパイロットプラントで、このエタノール生産工程の実現の可能性を示そうとしている。

翻訳:小林盛方

Nature ダイジェスト Vol. 9 No. 4

DOI: 10.1038/ndigest.2012.120405

原文

Biofuel from beneath the waves
  • Nature (2012-01-19) | DOI: 10.1038/nature.2012.9860
  • Zoe Cormier

参考文献

  1. Wargacki, A. J. et al. Science 335, 308–313 (2012).
  2. Ha, S.-J. et al. Appl. Environ. Microbiol. 77, 5822–5825 (2011).