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漂流する大震災の瓦礫

2011年3月11日の東日本大震災では、推定2500万トンの瓦礫が生じ、多くが海に流された。大震災の後、海面を埋め尽くす建築材や船、日用品などが海岸から離れて漂流していく様子を人工衛星が撮影・追跡した。そして、ハワイ大学のNikolai Maximenkoと米国海洋大気庁(NOAA)の研究グループが開発したコンピューターモデルから、これらが今年前半にハワイ諸島の北西部に到達することがわかった。

浮遊ごみがもたらす危険性は広く知られており、科学者たちは事態を深刻にとらえている。すでに世界の海面の40%にごみが浮いており、その大きさも船舶用コンテナから遺棄された漁具、小さなプラスチック片までさまざまで、海生哺乳動物に絡まったり有害物質で悪影響を与えたりするおそれがある。新たにハワイに漂着するごみが危険を及ぼすかどうかだけでなく、すでにハワイ沿岸に存在しているものとどう相互作用するか、科学者たちは知りたいと考えている。

津波漂流物は海流と気流によって細かく砕かれているので、すでにNOAAの衛星ではとらえられなくなっている。そこでNOAAは、より高解像度の衛星を使って漂流物の位置を特定できるよう準備を進めている。また、海洋ごみの追跡と解析を専門にしている非営利団体ファイブ・ジャイルズの科学者たちは、今年中に北太平洋で津波ごみを調べる予定だ。

すでに津波ごみに遭遇した研究者もいる。昨年9月、ロシアの船が日本の漁船や冷蔵庫、テレビなどの家電製品がミッドウェイ環礁の西に浮いているのを発見した。12月には、日本の大きな漁業用浮きがワシントン州のニアベイやカナダのバンクーバーの海岸に打ち上げられた。

この種の物体がハワイ北西部の島々を囲むサンゴ礁にぶつかると、壊滅的な結果を招くおそれがある。サンゴ礁が物理的に傷つくだけでなく、アホウドリやハワイモンクアザラシ、アオウミガメなど固有の絶滅危惧種の重要な生息地となっている砂浜を汚染する危険性がある。有害物質も懸念されるが、放射能で汚染された漂流ごみの影響はごくわずかであることが最近の研究でわかっている。

NOAA海洋ごみプログラムの責任者Nancy Wallaceは、「最悪のシナリオと最良のシナリオ」を想定して準備を進めているという。NOAAなどの機関は、汚染ごみも含めあらゆるごみに対応する計画を用意している。しかし漂着量の多少にかかわらず、海のどこかに漂流していることは事実であり、問題は深刻だ。

翻訳:粟木瑞穂

Nature ダイジェスト Vol. 9 No. 4

DOI: 10.1038/ndigest.2012.120406b