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一夜漬けはやめよう

高校や大学の教師はよく、一夜漬けの勉強をしても身につかないと言う。2011年12月にNature Neuroscience誌電子版に掲載された研究は、この教育学の常識を生物学的に実証したようだ。

テキサス大学医学部ヒューストン校の神経生物学者John H. Byrneらは、コロンビア大学のノーベル賞学者Eric R. Kandelの研究室で開発された学習法に、ひとひねり加えた。Kandelの方法はウミウシの一種であるジャンボアメフラシ(Aplysia californica)の尾に一定間隔でショックを加え、その後、時間が経ってから軽いショックを与えて、過剰な反応を示すかどうかを見るというもの。過剰に反応した場合、以前の経験をよく覚えていることになる。

Byrneらが狙ったのは、この反応の背景にある化学反応を調整することによって、学習プロセスを強化できるかどうかを見極めることだった。アメフラシの全身ではなく、少数の神経細胞(感覚ニューロンと運動ニューロン)をシャーレに入れて実験した。神経伝達物質セロトニンのパルス(ショックに相当)を20分間隔で5回加えた。すると、セロトニンの刺激によってニューロン内部で酵素が働き始め、一連の生化学反応が起こって、ニューロンの発火が強まった。「この刺激は覚えている。痛いんだ」と言っているようなものだ。

反応には2種類の酵素が協調して働いていた。標準的な等間隔のパルスを加えた場合、細胞内でこれら2つの酵素の活性が同時に最大になることはなかった。この事実は、このやり方が最善の学習法ではないことをうかがわせる。

そこでByrneらは、コンピューターを使って、パルスの間隔をさまざまに変えた1万通りの方法についてモデル計算した。これらのうち、酵素が両方ともフルに活性化する組み合わせを探したところ、最良の学習法はパルスを等間隔で加えるのではなく、10分間隔を3回、その5分後に1回、さらに30分後に最後の1回を加えるというパターンであることが判明した。このパターンだと2つの酵素の相互作用が50%高まり、学習プロセスがより効率的に進んだのだ。

さて、ではリーマン積分については1日おきに2週間勉強し、次は1か月ほど間をおいてから復習するのがよいのだろうか? そう結論するのはまだ早い。ただ、Byrneの研究は単純な等間隔で学習するのが最善ではないことを示しており、リハビリの方法など、神経科学者が今後追究すべき新たな研究課題が数多くあることを示している。

翻訳:粟木瑞穂

Nature ダイジェスト Vol. 9 No. 4

DOI: 10.1038/ndigest.2012.120406a