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トカゲの尻尾の役割

アガマトカゲはジャンプが得意で、安全に着地する能力がきわめて高い。Thomas Libbyら1は、水平な台から垂直な壁に向かってジャンプするアガマトカゲを撮影し、Nature 2012年1月12日号にその研究成果を発表した。トカゲは壁に接近するとき、空中で尾を動作させて、壁に取りつくのに適切な角度に体を傾けていたのだ。

図1:角運動量の保存
a. 綱渡りでバランス棒を時計回りに回転させると、角運動量保存則の原理に従って、体は反時計回りに傾く。
b. ジャンプしたアガマトカゲも、空中で同じように尾を時計回りに振り上げて、体を反時計回りにのけぞらせる1

その身のこなしは、角運動量保存則、すなわち、外的なトルクが作用しないかぎり系の角運動量は変化しない、という法則に従っている。例えば、長い棒を持って綱渡りをする軽業師は、棒を傾けることで、棒の傾きと反対向きに体を預けることができる。棒の角運動量が少しでも変化したら、体は反対向きの角運動量変化で対応し、全体の角運動量が一定になるようにしているのだ(図1a)。この法則にのっとり、棒を細かく操作することで、軽業師は重心をしかるべく綱の真上に維持することができる。また、棒は太くて短いものよりも細長いもののほうが有利である。というのも、質量が同じならば、細長いほうが慣性モーメントが大きいからだ(物体の角運動量は、角速度と慣性モーメントとの積である)。この単純な説明は、重心の横向きの動きがきわめて小さいために綱の周りの体重のモーメントは無視することができる、と仮定したうえでのものである。

Nature 481, 181–184

Libbyらは、アガマトカゲがジャンプして垂直な壁に的確に取りつくとき、鼻を上げるように体を傾けなければならないような事態になった場合、細長い尾を上に振り上げることを発見した(図1b)。例えば、尾には時計回りの運動量、胴体には同じ大きさの反時計回りの運動量を与えて、保存則に従うように角運動量の合計が変化しないようにしているのだ。Libbyらは、踏み切り台の表面を滑りやすくしてトカゲにジャンプの踏み切りを失敗させ、その失敗を補うように尾の動きを調節できるかどうかを調べた。その結果、トカゲの足が滑ると跳び出し時の体の角度が変化するが、適切に尾を動かすことによって踏み切りの失敗を修正することがわかった(http://nature.asia/lizard-nv1;図2a)。

さらにLibbyらは、数学的モデルを利用して、尾による制御が定量的に説明されることを確かめた。この結果をより確実なものにしようと、Libbyらはおもしろいおもちゃを製作した。それは尾のある車輪付きのロボットで、傾斜台からスキージャンプ選手のように飛び立たせるものだ。ロボットは飛び立つとき、先に前輪が傾斜台から離れて落下しようとするが、後輪はまだ傾斜台上にあるため、先端が下に向かって突っ込もうとする(http://nature.asia/lizard-nv2;図2b)。しかし、ジャイロセンサーによるフィードバックで制御される尾を持ったロボットでは、胴体の角度が着地前に修正された。ロボットは飛び立つときの不完全な体勢を鮮やかに立て直したのだ(http://nature.asia/lizard-nv3;図2c)。それはトカゲよりも見事だった。

優れた研究にはよくあることだが、Libbyらの知見は新たな疑問を提起した。彼らは二次元的課題として尾の利用法を検討したのであり、体のピッチ(鼻先が上向きか下向きか)だけを考慮していた。尾は、ヨー(首振り)やロール(転がり)の角度の調節にも使われるのだろうか。垂直な壁に飛びつくときはピッチが最も重要だが、形が不規則な岩や枝の間を跳び回るには三次元的な調節が必要と考えられる。Libbyらは、落下するヤモリの体勢立て直し反応に関する論文2で3方向すべてを検討の対象としたことがあるが、こうした研究はもっと定量的に行うことができるだろう。

Libbyらは、尾の慣性モーメントを利用する動物として、トカゲ以外にも、キツネザル、カンガルーネズミ、ネコなど、いくつかの例を挙げている。さらに、恐竜の中にも、ジャンプ時にアガマトカゲのように尾を使い、体の角度を制御するものがいた可能性があると考えている。しかし、そうした恐竜は大型ではなかったはずだ。なぜなら巨大な動物は、体の構造が小型の近縁動物と幾何学的に類似していると仮定すれば、体重が体長の3乗に比例して大きくなるのに対し、骨と筋肉の強度は断面積、つまり体長の2乗に比例するにすぎず、遠くまでジャンプすることができないからだ。ウマやエランド(きわめて大型のレイヨウの一種)は、いずれも体重が約500kgあり、ジャンプが得意な動物として最大級のものだ。恐竜の骨の計測値3と筋肉の大きさの推定値4に基づく計算からは、大型の恐竜はそれほど敏捷ではありえなかったことが示されている。

では、大型でない恐竜がジャンプしたことを裏付ける痕跡は残されているのだろうか。肉食恐竜のデイノニクスは、体重が約70kgだったと推定されている。これはヒョウに近く、ジャンプしていたことが十分に考えられる値だ。化石からは、デイノニクスは群れを作り、自分よりもはるかに大型の恐竜を捕食していた可能性が示唆されている5。この考え方には異論もある6が、デイノニクスは獲物の背中や脇腹に跳びつき、巨大な爪でしっかりつかみかかっていたと考えるのが定説となっている。ライオンなど大型のネコ科動物も鋭い爪で獲物の皮膚をつかみながら、牙で弱点の喉を攻撃するのと同じようなことだ。

インターネット上には、宙を舞って大きな獲物に襲いかかるデイノニクスのイラストがいくつも掲載されている。まさかと思われるくらい高く舞い上がっている、ありえないようなイラストもあるが、なかには、Libbyら1が発表したように、アガマトカゲと同じ要領で尾を高く振り上げている姿に描かれているものも見られる。そんなイラストには、思わず喝采を送りたくなってしまう。

翻訳:三谷祐貴子

Nature ダイジェスト Vol. 9 No. 4

DOI: 10.1038/ndigest.2012.120428

原文

Leaping lizards and dinosaurs
  • Nature (2012-01-12) | DOI: 10.1038/nature10797
  • R. McNeill Alexander
  • R. McNeill Alexanderは、リーズ大学統合比較生物学研究所(英国)に所属。

参考文献

  1. Libby, T. et al. Nature 481, 181–184 (2012).
  2. Jusufi, A., Goldman, D. I., Revzen, S. & Full, R. J. Proc. Natl Acad. Sci.USA 105, 4215–4219 (2008).
  3. Alexander, R. M. Zool. J. Linn. Soc. 83, 1–25 (1985).
  4. Hutchinson, J. R. & Garcia, M. Nature 415, 1018–1021 (2002).
  5. Maxwell, W. D. & Ostrom, J. H. J. Vert. Paleontol. 15, 707–712 (1995).
  6. Roach, B. T. & Brinkman, D. L. Bull. Peabody Mus. Nat. Hist. 48, 103–138 (2007).
  7. Manning, P. L., Payne, D., Pennicott, J., Barrett, P. M. & Ennos, R. A. Biol. Lett. 2, 110–112 (2006).