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不可解な「クリスマスガンマ線バースト」

ガンマ線バーストの放射は、1日に約2回、宇宙のランダムな方向から地球に届く。1997年、短時間のガンマ線バースト放出後に「残光」が発見されたことがきっかけになり、ガンマ線バーストを起こす天体は、私たちの銀河系(天の川銀河)の外の、遠い銀河にあることが明らかになった1。ガンマ線バーストとその残光を説明するためにこれまでに提案されたメカニズムは、どれも複雑で、内容も異なっている。しかし、ガンマ線バーストの起源を説明する理論は、個々のガンマ線バーストの共通点だけでなく、相違点についても説明できるものでなければならない。

クリスマスガンマ線バーストは、2010年12月25日に起こったためにこう呼ばれている。このバーストは特に異常な現象である。イタリア国立宇宙物理学研究所(INAF)ブレラ天文台(イタリア・ミラノ)のSergio Campanaらとアンダルシア宇宙物理学研究所(スペイン・グラナダ)のChristina Thöneらは、それぞれ、この現象を説明する異なるモデルをNature 2011年12月1日号に報告した2,3

ガンマ線バーストは1つ1つ、どこかしら異なっているが、ガンマ線放出の持続時間によって、「長いもの」と「短いもの」の2つのグループに分けられている。持続時間の長いガンマ線バーストは、2秒から数分にわたって持続し、大規模な超新星爆発である極超新星が原因と考えられている。このグループは太陽の100倍重い大質量星の崩壊によって生じるもので、超新星爆発を起こすだけでなく、反対方向を向いた2つの高速粒子のジェットが生まれ、ブラックホールが残る。ジェットの1つがたまたま地球の方向を向いているとき、明るい放射(短時間のガンマ線放出)が観測されると考えられている。

ガンマ線バーストの残光は、最初のバーストの後、数分間続き、数週間から数か月かけて衰えていく。残光はジェットが周囲の星間物質に衝突して起こり、さまざまな波長を含む。ガンマ線バーストが衰えると、崩壊した星を擁していた暗い銀河を検出できるようになる。その銀河のスペクトルから、地球からガンマ線バーストまでの距離を求めることができる。

一方、持続時間の短いガンマ線バーストは、バースト時間が2秒未満のものが多い。この現象は、強く束縛し合った連星系をなす2つの中性子星によって生じる、という説明のほうが当てはまる。2つの中性子星は重力波を出し、やがて合体してブラックホールができ、合体の過程でガンマ線バーストに伴うジェットと残光が生まれる。

ガンマ線バーストを説明する理論モデルは、常に、観測結果と合っているかどうかチェックされてきた。1個の観測結果が、あるモデルを消し去ることもありうる。逆に、観測結果の中に、ガンマ線バーストと似て非なる現象が含まれていて、それが研究者を困惑させてきた可能性もある。そんなものの1つがクリスマスガンマ線バーストかもしれない。これは正式にはGRB 101225Aと呼ばれ、ガンマ線バースト観測衛星「スウィフト」によって発見された。

クリスマスガンマ線バーストのガンマ線放出は非常に長く、少なくとも30分間続いた。ところがX線残光は、通常よりもずっと速く衰えた。これらの事実は、広く受け入れられているガンマ線バーストの理論モデルと矛盾する。さらに、残光のエネルギースペクトルはプランク分布を示しており、これは、プラズマが平衡状態に達して、電子が特定の温度を持つといえる状態になっていることを示している。ところが典型的なガンマ線バーストの場合、バーストおよび残光のエネルギースペクトルは、べき乗則に従うのだ。これは、爆発が周囲に広がるときのように、物質どうしが高速で衝突するときに見られるエネルギー分布である。

クリスマスガンマ線バーストが、もしも持続時間の長いガンマ線バーストのように遠くの極超新星が原因であるなら、なぜこれほど風変わりなのだろうか。見かけがガンマ線バーストに似ているだけの、全く異なる現象だという可能性はないのだろうか。今のところ、ガンマ線バーストを起こした天体が含まれる銀河は、観測でははっきりしていない。ガンマ線バーストの位置によると、銀河系のペルセウス腕に属している可能性があるが、アンドロメダ銀河の伴銀河に属している可能性もある。Campanaら2とThöneら3は、こうした問題に取り組み、このガンマ線バーストの原因を説明しようと試みた。

まずThöneら3は、クリスマスガンマ線バーストの残光が減衰する勾配と色の変化を、バーストの10日後、残光がほとんど消えた頃に現れた別の超新星のためだと解釈した。彼らはこの系を、よく似た超新星とガンマ線バーストの組み合わせと比較し、今回の系は1.6ギガパーセク(約52億光年)の距離にあり、エネルギーは約1.4╳1051エルグと結論した。これは典型的なガンマ線バーストと矛盾しない。

さらにThöneらは、今回のガンマ線バーストそのものは、中性子星とヘリウム超巨星が強く結合した連星系が起こしたものだと考えた。ヘリウム星から中性子星に質量が移動し、ヘリウム星の外層の広がりからできた共通のガス外層に連星系が取り囲まれた段階へと進化する。そして、中性子星とヘリウム星中心核とが合体し、ブラックホールかマグネターと呼ばれる強く磁化した中性子星が形成され4、やがて共通の外層からガンマ線バーストに似たジェットが現れる。Thöneらは、このモデルが今回のガンマ線バーストの熱放射スペクトルの観測データと一致することを見いだした。

ただし、後に現れた超新星について言えば、それは異常に暗く、このモデルの説得力は弱い。このため、ガンマ線バーストの地球からの推定距離も不確かだ。さらに、ガンマ線バーストを起こした天体を含む銀河が存在するかどうかも、はっきりしない。ガンマ線バーストが起こった位置に近い、光で見える唯一の天体は、点状で極端に暗い。もしそれが銀河だったら、ガンマ線バーストを起こした天体を含む銀河としては、これまでで最も暗いものになる。

一方、Campanaら2は、ガンマ線バーストが最初に発見された直後の1973年に提案されたモデル5を復活させた。このモデルでは、彗星や小惑星などの小天体が中性子星から5000km以下の近距離を通過し、潮汐力によって破壊されて破片に分裂し、複数のピークを持つガンマ線バーストを作る。Campanaら2は、潮汐力による破壊を記述する最近の理論モデルを使い6、小天体の破片は星の周りに一時的に円盤を作ると考えた。彼らは、このモデルをクリスマスガンマ線バーストのデータと比較し、5╳1020グラムの小天体が私たちの銀河系内にある中性子星に落下するモデルが、時間的振る舞いと空間的振る舞いの両方において、データとよく一致することを見いだした。

2つの研究グループによる仮説2,3は、いずれも、多数の複雑なデータをうまく説明できる。しかし、少なくとも1つは間違っているはずだ。決定的な証拠になるのはガンマ線バーストの地球からの距離だが、それはわかっていない。

Thöneらの研究は、新たな問いを投げかけている。どれだけ多くの連星系が、共通の外層を持つ段階を経てガンマ線バーストに似た爆発を起こすのだろうか。すべてのジェットが外層から現れるのか、それとも限られた場合だけなのか。ジェットはどれほど平行にそろっているのか。

同時に、Campanaらの研究からも新たな疑問が生じている。中性子星の近くを通過する小天体は、どのくらい多くあるのか。また、推定した小天体の質量は妥当な値なのか。ちなみに、提案された質量は太陽系の天体としては比較的大きく、太陽系ではまれにしか存在しないが、実際にはもっと大きな天体が中性子星を回っている例が見つかっている。

クリスマスガンマ線バーストは、ガンマ線バーストと似てはいるが、別の現象らしい。それ以外、ここで述べた以上のことはわかっていない。ただ、キリスト降誕祭の日に起きた彗星の死という可能性には、捨てがたい魅力がある。

翻訳:新庄直樹

Nature ダイジェスト Vol. 9 No. 3

DOI: 10.1038/ndigest.2012.120326

原文

A puzzling γ-ray burst
  • Nature (2011-12-01) | DOI: 10.1038/480047a
  • Enrico Costa
  • Enrico Costaは、イタリア・ローマのイタリア国立宇宙物理学研究所(INAF)ローマ宇宙物理学研究所(IASF-Roma)に所属。

参考文献

  1. Costa, E. et al. Nature 387, 783–785 (1997).
  2. Campana, S. et al. Nature 480, 69–71 (2011).
  3. Thöne, C. C. et al. Nature 480, 72–74 (2011).
  4. Barkov, M. V. & Komissarov, S. S. Mon. Not. R. Astron. Soc. 415, 944–958 (2011).
  5. Harwit, M. & Salpeter, E. E. Astrophys. J. 186, L37–L39 (1973).
  6. Lodato, G. & Rossi, E. M. Mon. Not. R. Astron. Soc. 410, 359–367 (2011).