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「ちきゅう」が東北沖地震を掘削調査する

Nature ダイジェスト Vol. 9 No. 2 | doi : 10.1038/ndigest.2012.120217

原文:Nature (2011-11-03) | doi: 10.1038/479016a | Drilling ship to probe Japanese quake zone

Nicola Jones

2012年4月、探査船「ちきゅう」は東北沖地震を引き起こした断層の掘削に挑む。

JAMSTEC/IODP

JAMSTEC地球深部探査センターの地球深部探査船「ちきゅう」は、2011年3月11日に発生した巨大津波に翻弄され、損傷を受けた。修理を終えたこの探査船に、このほど、ぴったりの任務が与えられた。甚大な被害をもたらしたマグニチュード9.0の東北沖地震(東北地方太平洋沖地震)の震央付近の断層帯を掘削し、温度測定を行うのだ。地震発生直後の海底断層の掘削は、これが初めての試みだ。科学者は数十年前から、海底断層が滑って地震や津波を引き起こす過程で摩擦が果たす役割に興味を持っていた。今回の調査の目的は、この謎を解くことにある。「ちきゅう」による掘削調査は、巨大津波を引き起こしやすい断層と、引き起こしにくい断層がある理由を科学者が理解するうえで役立つはずだ。

日本と米国が主導する統合国際深海掘削計画(IODP)の代表である末廣潔は、「我々科学者が、この巨大地震によって加熱された断層帯からできるだけ多くのことを学ばなければ、社会に大きな損失を与えることになるでしょう」と言う。IODPは、2011年9月にこの提案を最初に承認し、2012年4月から「ちきゅう」が東北沖地震の震央の南の海域(下の地図参照)で掘削を行うための資金提供を承認した。

正式には「日本海溝緊急掘削計画」と呼ぶこの遠征の科学的根拠は、プレート境界が1m以上滑るような地震が発生した後、できるだけ早く断層を掘削するよう提案した2009年の報告書で詳しく述べられている。東北沖地震で発生した滑りは、これまで観察された滑りとしては最大の50mという桁外れの大きさであり、理想的な調査対象となる。

「岩盤を何十mも滑らせるにはどうすればよいかという問題は、目下の地震学にとって、きわめて重要です」と、京都大学防災研究所の地震学者James Moriは言う。彼は、緊急掘削に関する報告書の共同執筆者であり、4月からの遠征の共同首席研究者を務める。研究者らは、地震発生時に、岩石の溶融や水圧の上昇などにより、断層の岩盤と砂と水の間の抵抗が極端に小さくなることが、その答えの重要な部分を占めていると考えている。けれどもこれまで、この効果を厳密に測定することはできかった。摩擦は熱として散逸するため、断層の温度を厳密に測定することができれば、知識の隙間を埋められるはずだ。

このミッションに参加するカリフォルニア大学サンタクルーズ校のEmily Brodskyは、「我々はこれまで、どんな地震を調査すべきなのか、よくわからないまま多くの計画を立ててきました」と言う。研究者らはこれまで3度、陸上地震の後に地中の温度をモニターしようと試みてきた。1度目は1995年に日本で発生した兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)、2度目は1999年に台湾で発生した集集地震(台湾大地震)、3度目は2008年に中国四川省で発生した汶川地震(四川大地震)である。けれども、どのプロジェクトでも温度データはわずかしか得られず、温度上昇は非常に小さいか、まったく見られないかのどちらかだった。おそらく、温度上昇が小さすぎて観測できなかったか、モニタリング技術が不十分だったのだろう。「そのたびに明らかになったのは、断層の温度が予想より低い傾向にあるということでした」と、Brodskyは言う。彼女によると、もっと大きな滑りが起きれば、0.5℃程度の温度上昇を追跡できる可能性が高くなるという。「我々は、今この時期に、迅速かつ正確に測定を行う必要があるのです」。

「ちきゅう」は断層を1km掘削し、その掘削孔内に一連の温度センサーを設置する。そして、これまでの試みよりもはるかに長く1~3年にわたって温度を追跡することで、東北沖地震の際に発生した総熱量を算出する予定である。そこから、滑りが発生したときの断層の摩擦抵抗が明らかになり、地震力学のモデルのすき間が埋まることが期待されている。カリフォルニア工科大学(米国パサデナ)の地質学者Jean-Philippe Avouacは、このプロジェクトには関係していないが、「モデルに欠けている要素の中で、これは特に重要です」と言う。

とはいえ、完璧に掘削するのは容易ではない。提案されている掘削サイトでは、問題の断層は7kmの海水と700mの地殻の下にあるため、巨大なドリルストリングが必要だ。これまで、この深さの海底から採取できたコアの長さはわずか15mだったとBroadskyは言う。ほとんどのコアは水深6km未満の海底から採取されている。

今回のプロジェクトでは、温度測定に加えて、掘削した堆積物の調査も行う。堆積物のある種のテクスチャー、例えば、ボールベアリング状の粘土粒子は、大きな滑りを伴う地震と関連しているかもしれない。そのような特徴を特定することは、ほかの断層で大きな滑りが発生する可能性を予想するのに役立つはずだ。

3月11日の巨大津波による犠牲者の数は、最終的には2万3000人以上になるとみられる。東北沖地震から貴重な情報を集めることは、「またとない機会であり、責任でさえあります」とMoriは言う。彼は、地震がもたらした被害のほとんどすべてが津波によるものだったと指摘する。「我々が本当に知りたいのは、何がそれを引き起こしたかということなのです」。

(翻訳:三枝小夜子)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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