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無人航空機の悪用を防げ

無人航空機には、民間航空機並みの大きさと速さのものから、空中にとどまって広大な領域を監視する飛行船、小鳥や昆虫のように人々に気付かれずに飛び回りながら動画を撮影したり着地したりするものまである。

無人航空機によって米国の戦闘方法は様変わりした。ほとんど検知不能な無人機を使って大量の航空画像を集め、操縦士を危険にさらすことなく目標を攻撃することが可能になった。しかし、それが米国の利益を守るためだけに使われると考えるのは甘い。小型で安価な無人機が増えるにつれて、敵国や、おそらくはテロリストにも入手可能になる。軍事技術の歴史に照らせば、そう考えざるをえない。実際、イスラエル、中国、イランを含む多くの国が無人航空機を使用・開発し、他国に販売している。今後10年以内に、世界の無人機購入費は1000億ドル近くになるとみられる。

もしもテロリストが米国内に無人航空機を展開したら、見つけるのは非常に難しいだろう。無人機は塀や壁のすぐ上を飛行でき、在来のレーダーシステムでは見えない。自動車のトランクやバックパックに入れて運べるため、一般に立ち入ることができる場所なら、どこからでも飛ばすことができる。

米国政府や民間企業が無人機を使って市民生活をのぞき見ることも懸念される。米国最高裁は1986年、警察当局が自家用機を使って密かに栽培されているマリファナを見るのは「公に航行可能な空域」からなされる行為なので構わないとする判決を下した。この解釈からすると、政府は無人機を使って自由に監視できることになりそうだ。

無人航空機の入手を規制するのは非常に難しい。超小型ビデオカメラや動画処理チップ、高速無線通信システムなど、使われている主な情報技術は、安価な家庭用電化製品にごくふつうに見られるものだからだ。

だからといって打つ手がないわけではない。無人航空機に自爆スイッチや秘密の追跡ソフトウエアを装備すれば、行方不明になっても破壊したり追跡したりできるだろう。国内の規制と国際的な不拡散の取り組みによって、無人機が悪人の手に渡る可能性を下げることもできると考えられる。また、機密に関わる政府機関の建物などには、低空飛行で接近してくる無人機を検知する新システムを装備し、必要なら電磁的または動力学的に交戦することも可能だろう。

しかしそうした取り組みを実行しても、いずれは、上空に無人機がいないのが当然という時代は終わるであろう。

翻訳:鐘田和彦

Nature ダイジェスト Vol. 9 No. 2

DOI: 10.1038/ndigest.2012.120206a