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化学賞は、Gタンパク質共役受容体の研究に

Nature ダイジェスト Vol. 9 No. 12 | doi : 10.1038/ndigest.2012.121203

原文:Nature (2012-10-18) | doi: 10.1038/490320a | Nobel work boosts drug development

Richard Van Noorden

ノーベル化学賞は細胞表面の受容体タンパク質の研究に贈られる。

Robert Lefkowitz(左)とBrian Kobilkaは2012年のノーベル化学賞を共同で受賞した。

S. D. DAVIS/GETTY; (RIGHT) K. WHITE/GETTY

10月10日、2012年のノーベル化学賞は、Gタンパク質共役受容体(GPCR)の構造と機能を明らかにしたRobert LefkowitzとBrian Kobilkaの2人に授与すると発表された。彼らの研究によって、医薬品の開発には大きな恩恵がもたらされた。GPCRは、細胞の情報伝達の中心となるタンパク質であり、現在までに多くの薬剤開発が促進されたばかりでなく、将来的には、より選択性の高い薬剤の開発にもつながると期待されている。

ニューヨーク出身で話し好きなLefkowitzは、デューク大学医療センター(米国ノースカロライナ州ダーラム)で、一方、非常に控え目なKobilkaは、スタンフォード大学医学系大学院(米国カリフォルニア)で、研究を行っている。2人は、ともに医師としての教育を受けたが、細胞のシグナル伝達に魅せられて、基礎研究の道に進んだ。そしてその研究生活をGPCRの解明に捧げてきた。GPCRは、細胞膜に存在する受容体で、ホルモンや神経伝達物質などの細胞外からのシグナルを細胞内に伝達する役目を担っており、細胞内の生化学的シグナル伝達カスケード開始のスイッチとなる。

またGPCRの構造には、細胞膜を7回貫通するという共通の特徴がある。このファミリーに属するタンパク質は約800にも及び、全薬剤の少なくとも30%がGPCRを標的としている。その中でもβ遮断薬は、20世紀に発明された医薬品のうち最も優れたものの1つといわれており、アドレナリンが作用するGPCR(β2アドレナリン受容体;β2AR)に結合して、細胞内へのシグナル伝達を遮断することで心拍数を低下させる。しかし、英国の薬理学者James Black(1988年にノーベル医学・生理学賞を受賞)によって開発された最初のβ遮断薬(プロプラノロール)が臨床的に成功をおさめた1964年にはまだ、その分子機構はよくわかっていなかった。

Lefkowitzは、1960年代後半から、GPCRの中でもβ2ARに着目して、詳細を解明しようと取り組んでいた。1980年代には、このタンパク質をコードする遺伝子のクローニングに成功し、そのアミノ酸配列を明らかにした(その時、Kobilkaは特別研究員としてこの研究に参加していた)。β2ARの構造が、すでに解読されていたロドプシン(眼の光受容体)と非常に類似した7回膜貫通型であったことは、「本当に衝撃的でした」とLefkowitzは言う。しかし、これが、7回膜貫通型の受容体がファミリーを形成しているかもしれないという発想のヒントとなった。

一方、Kobilkaは、Lefkowitzの研究チームを離れた後、GPCRの結晶構造の解明に20年を費やした。GPCRは、細胞膜から抽出されると構造が不安定になるため1、その解明は恐ろしく難しいものであったが、2007年、彼はついにβ2ARの結晶構造の解明に成功した2。この研究により、ようやく2つ目のGPCRの結晶構造が明らかになった(2000年に、ほかのGPCRよりも安定なロドプシンについて解明されていただけであった3)。彼の成果を口火に研究が進み、これまでにさらに13個のGPCRの構造が明らかにされた。またKobilkaの研究チームは、2011年、さらに見事な仕事をした。アドレナリン様の化合物との結合に加え、細胞内のGタンパク質とも相互作用している「活性化状態のβ2AR」の結晶構造を明らかにしたのだ4Nature ダイジェスト 2011年10月号12〜13ページ参照)。

GPCRが数多く同定されるにつれ、薬剤開発での利用が増えてきたと、GPCRに特化した医薬品探索企業ヘプタレス・セラピューティクス社(英国ハートフォードシャー州、以下ヘプタレス社)の最高科学責任者Fiona Marshallは言う。有効な化合物を探索するのに、動物実験ではなく、GPCRに対する化合物の親和性を指標にすることで、試験管内で何千個もの化合物のスクリーニングが可能になったのだ。このような方法で発見された薬剤には、ファイザー社(米国)の抗レトロウイルス薬マラビロク(HIVの細胞への結合を阻害。2007年に米国食品医薬品局に承認された)がある。

しかし、GPCRに作用する薬剤の多くは、標的の受容体だけでなく、構造が類似するものにも影響を与える。例えば、統合失調症治療薬のオランザピン(ジプレキサ)は、12個ものGPCRに影響を与えるが、有効な効果に関与するものは少数で、多数は体重増加などの副作用に関与している。

GPCRの結晶構造の解明がさらに進めば、より選択性の高い化合物の設計が可能になる。そうした情報をもとに作られた化合物の1つに、ヘプタレス社のアルツハイマー病の治療薬候補がある。これは、脳のアセチルコリン受容体にのみ作用して、心臓と腸にある近縁の受容体には影響を与えない。

2005年に、Lefkowitzは、GPCRが細胞内で常にGタンパク質と共役しているわけではなく、β-アレスチンとも会合できることを発見した5。彼は、このβ-アレスチンとの相互作用が、いくつかの薬剤で見られる副作用に関与していると考えている。現在、LefkowitzとKobilkaは共同で、GPCRと結合したβ-アレスチンの結晶構造の解明に取り組んでいる。しかし、この変性しやすく扱いにくいタンパク質の構造解析が成功する保証はない。Kobilkaは受賞後の会見で、彼の忍耐力について、「根拠のない楽観主義、つまり、うまくいくとただ信じ続けているだけです」と語った。

(翻訳:三谷祐貴子)

参考文献

  1. Buchen, L. Nature 476, 387–390 (2011).
  2. Rasmussen, S. G. F. et al. Nature 450, 383–387 (2007).
  3. Palczewski, K. et al. Science 289, 739–745 (2000).
  4. Rasmussen, S. G. F. et al. Nature 477, 549–555 (2011).
  5. Lefkowitz, R. J. & Shenoy, S. K. Science 308, 512–517 (2005).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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