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ゲルのシートを貼ると、トランジスタ

Nature ダイジェスト Vol. 9 No. 12 | doi : 10.1038/ndigest.2012.121222

原文:Nature (2012-09-27) | doi: 10.1038/489510a | ‘Cut and stick’ ion gels

川崎雅司、岩佐義弘

イオン液体と高分子を混ぜ合わせると、ゴム状のイオンゲル材料ができる。このゲルシートをカミソリで切って固体の半導体材料に貼り付け、トランジスタが作られた。

図1:イオンゲル・トランジスタ
Leeらが半導体表面にイオンゲルを貼って作製したトランジスタ2。イオンゲルは、ゲート絶縁体、つまりトランジスタのゲート電極と半導体を隔てる役割を果たしている。基板上の半導体は、ソース電極とドレイン電極の間にチャネルを形成する。トランジスタのスイッチを入れると、イオンゲルと半導体の界面に電気容量の大きい電気二重層(EDL)が形成される。
図2:イオンゲルを用いたトランジスタの例。写真提供は川崎雅司研究室。

K. Ueno et al., Nature Nanotechnology 6, 408 (2011)

携帯電話は、電池と何十億個もの微小電子スイッチ(トランジスタ)がなければ機能しない。トランジスタは、半導体中の電子の流れを制御することにより、情報の処理と記憶を可能にする。また電池は、トランジスタを動作させるための電気化学エネルギーを貯蔵している。世界初のトランジスタは、William Shockley、John Bardeen、Walter Brattainの3氏によって1947年に発明されたが、興味深いことに、トランジスタ誕生に結びついた初期の実験では、半導体中の電子輸送の制御に、液体の電解質(液体溶媒とイオンの混合物)が用いられた。つまり、本物のトランジスタ第一号は、全固体デバイスではなく、電気化学デバイスだったのだ1

固体エレクトロニクスが大成功をおさめたため、トランジスタの初期の歴史や液体電解質の有用性については、忘れられることが多かった。ところが、この10年で、電解質や電気化学的コンセプトを利用したトランジスタが、再び注目を集めるようになった。従来の全固体型トランジスタを超える機能を約束しているからである。今回Leeらは、イオン液体(室温で液体状態の塩)と高分子からゴム状材料を作製し、それを切って半導体に貼り付ければトランジスタができることをAdvanced Materialsで報告している2

電解質は、イオンを伝導する(イオン伝導性)が電子を伝導しない(電子絶縁性)という性質を持つ。電子伝導性の固体表面に電解質が存在すると、その界面に電気二重層(EDL)が形成される(1853年にHelmholtz3が初めてモデル化)。2つの荷電層の間にナノスケールのギャップがあるため、EDLは1~10µF/cm2程度の巨大な電気容量(電荷貯蔵能力)を持つ。この値は、固体絶縁体(一般的に二酸化シリコンや酸化アルミニウムでできている)を用いた従来型キャパシターの10~1000倍もある。

過去に固体絶縁体の代わりにEDLを用いてトランジスタを作製した例があるが、意外なことに、絶縁体-金属転移4などの電界誘起相転移、超伝導5、強磁性6といった将来役立ちそうな効果が見いだされた。ほとんどの場合、電解質としてイオン液体が使われているが、それはイオン伝導度が高く、EDLの容量を大きくできるからである。しかし、電子デバイス用材料には機械的・構造的信頼性が求められるため、多くの場合、液体材料は望まれてこなかった。

だが、21世紀になった今、固体材料だけを頼りにしなくても、信頼性は得られるようになった。イオンゲル(イオン液体と高分子成分の混合物)が代替候補として現れたのだ。イオンゲルは、室温で操作できるなど、イオン液体と固体絶縁体の長所を兼ね備えている7。今回Leeらは、ゴム状イオンゲルシートをカミソリの刃で切って半導体材料に貼り付ければトランジスタが作れることを示した2。巧妙なトランジスタ作製法を開発した訳だ。

イオンゲルの高分子成分は、化学的に異なる2つ以上のモノマー単位がつながったブロック共重合体である。Leeらは実験で、ブロック共重合体とイオン液体を1:4の重量比で混ぜ合わせ、厚さ0.6mmのイオンゲルシートを作製した。半導体とイオンゲルとの界面に形成されたEDLの電気容量は大きく、10µF/cm2であった。過去に、リチウムイオン電池の固体電解質として、同様のイオンゲルシートが用いられた例がある。しかしLeeらは今回、トランジスタの半導体チャネルとゲート電極を隔てるゲート絶縁体として、イオンゲルシートを用いたのである(図1)。

さらにLeeらは、一般的な有機半導体と無機半導体を用いたトランジスタも実現させた。有機半導体の場合は正孔(電子が抜けたことによってできた概念上の粒子)が流れ、無機半導体の場合は電子が流れた。したがって、この方法はあらゆるタイプの半導体材料に適用できるといえる。

イオン液体と高分子の種類は豊富なので、さまざまなイオンゲルが作製可能である。多くのイオンゲルを用いれば多様なデバイス構造と機能を実現できるであろう7。例えば、イオンゲルを基板上に印刷する技術がすでに実証されている8。イオンゲルとさまざまな電子伝導体(半導体だけでなく金属、超伝導体、磁性体)を組み合わせる研究を進めることによって、イオントロニクス9、つまりイオン機能を利用したエレクトロニクスは、充実した材料科学の場となるであろう。

(翻訳:藤野正美)

川崎雅司と岩佐義弘は、東京大学量子相エレクトロニクス研究センター、物理工学科、および理化学研究所基幹研究所に所属。

参考文献

  1. Brattain, W. H. & Gibney, R. B. US patent 2,524,034 (1948).
  2. Lee, K. H. et al. Adv. Mater. 24, 4457–4462 (2012).
  3. von Helmholtz, H. Pogg. Ann. LXXXIX, 211 (1853).
  4. Nakano, M. et al. Nature 487, 459–462 (2012).
  5. Ueno, K. et al. Nature Mater. 7, 855–858 (2008).
  6. Yamada, Y. et al. Science 332, 1065–1067 (2011).
  7. Lodge, T. P. Science 321, 50–51 (2008).
  8. Cho, J. H. et al. Nature Mater. 7, 900–906 (2008).
  9. Leger, J., Berggren, M. & Carter, S. Iontronics: Ionic Carriers in Organic Electronic Materials and Devices (CRC, 2010).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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