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「何も考えていない」ときの脳活動

何も考えていないときでも、脳は盛んに活動していることがわかってきた。なぜなのか、その理由を解き明かすべく研究が始まったが、そこには本質的な難しさが横たわっている。

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Matthias Clamer /Getty Images

Nature ダイジェスト Vol. 9 No. 12 | doi : 10.1038/ndigest.2012.121210

原文:Nature (2012-09-20) | doi: 10.1038/489356a | Idle Minds

Kerri Smith

脳の活動を画像化する実験では、被験者にさまざまな要求をすることが多い。例えば、数学の問題を解いてもらったり、画面の中にある顔を探してもらったり、好きな政治家のことを考えてもらったりする。

ところが、ここ数年の間に、一部の研究者の間で、実験の合間に脳の「休憩時間」を差し挟むようになった。のんびりしているときの脳で何が起こっているかを知りたいため、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)のスキャン装置に横たわっている被験者に、頭の中を空っぽにするよう頼むのだ。その結果わかったのは、何も考えないようにしているときでも、脳はすごく働いている、ということだった。

もちろん、呼吸や心拍数などの自発的活動を制御している一部の脳回路は、何も考えないときであっても活動状態でいる必要がある。しかし、残り部分の脳も、たとえ意識はしなくても、買い物メモを思い浮かべたり、会話を思い返したり、空想にふけったりして、機能を停止させていないことがわかってきた。脳のこうした活動は、「安静状態(resting state)」もしくは「安静時脳活動」と呼ばれている。

もし、安静時の脳活動にたくさんのエネルギーが注がれているのであれば、この活動には何か重要な意味があるに違いない。事実、安静時の脳への血流量は通常、課題を課した実験でみられる血流量よりもたった5〜10%少ないだけなのである1。また、安静状態に関与する神経ネットワークが、課題遂行中の活動的な脳状態とよく似ていることを示す証拠も、神経科学者たちによって得られている。

安静時の脳の活動を調べることは、活動時の脳機能を解明するうえでも有用だ。例えば、脳の領域のうち、どことどこが連絡し合う傾向が強いのか、また、疾患があるとそのパターンにどういう違いが現れるのか、といったことから、脳に内在するネットワークの接続マップを作る際のヒントが得られる。

では、この安静時脳活動は、いったい何のために行われているのだろうか。この研究をしている神経科学者に尋ねても、多くはため息をつくか、肩をすくめるだけだ。「研究はまだ始まったばかりで、ほとんどが仮説の段階です」と言うのは、マギル大学(カナダ・モントリオール)の脳画像化研究の専門家Amir Shmuelだ。安静時の脳活動は、頭を使っていないときでも、脳の接続を起動状態に保っておくためかもしれない。あるいは、将来受け取るかもしれない刺激にすぐ応答できるよう、脳の準備を整えたり、作業遂行時に協同して働くことの多い領域どうしを交信状態に保っている可能性もある。また、通常の活動時に取り込まれた記憶や情報を、統合して整理している可能性もある。

「この分野には、現在、強い関心が寄せられていますが、基本的な部分の解明はまだほとんど進んでいません」と、スタンフォード大学(米国カリフォルニア州)の神経科学者Michael Greiciusは言う。彼が安静時の脳内ネットワークの研究を始めたのも、ほんの10年ほど前だ。

安静時脳活動の発見

安静時の脳が実際には全く休んでいないことが初めて示唆されたのは、1990年代半ばである。当時、ウィスコンシン医科大学(米国ミルウォーキー)で博士課程の学生だったBharat Biswalは、fMRIを用いた実験で課題遂行に由来する信号の精度を高めるため、スキャン像から背景信号を特定して、それを取り除く方法を考えていた。「背景信号は、すべてノイズだという前提でした」と、現在はニュージャージー工科大学(米国ニューアーク)で生物医学工学の研究をしているBiswalは話す。そこで、彼は装置内で安静にしている人の脳のスキャン像を撮ってみた。すると意外にも、規則的な低周波の波動が目に入ってきたのだ2。Biswalの実験結果は、こうした波動が神経細胞(ニューロン)の活動によって引き起こされていることを示唆していた。

当時はまだ安静時脳活動の研究の初期段階であり、一部の研究者は、何か深遠な現象を発見したのだと思い込んだ。「最初の頃、我々は『意識の流れ』つまり、移ろいゆく脳内の意識処理過程そのものを、今まさに見ているのだと思ってしまいました。でも、その考えはすぐに捨てました」とGreiciusは振り返る。この脳活動が、睡眠時や全身麻酔をかけたときのいわゆる「変性意識状態」でも現れたからだ3,4。つまり、必ずしも意識がある状態の情報処理に関係している訳ではなかったのである。

しかし、こうした考えはいずれも無意味ではなかった。Biswalの発見から数年後、脳の安静状態そのものの研究が登場し始め、安静時ネットワークにみられる活動の特性の1つが、ワシントン大学(米国ミズーリ州セントルイス)の神経科学者Marcus Raichleのチームによって明らかにされた5。課題遂行のさなかには活動が実際に低下し、脳があまり強く集中しなくなると復活するネットワークを発見したのだった5。彼らは、その特性を脳の基本状態と考え、「デフォルト・モード」と名付けた。

このデフォルト・モードのネットワークは、現在では、安静時ネットワークでみられる数十種類の「一過性の脳活動」の集合体とされている。その中には、注意、視覚、聴覚、動作に関与する回路とよく似たものもある。この「一過性の脳活動」は、被験者全員で非常によく似通っており、しかも動的で時間経過につれて変化していく。「常に存在していながら変化も可能であるため、このネットワークがいかに重要であるかわかります」と、小児心理学研究所(米国ニューヨーク州)の脳発達研究センターで所長を務めるMichael Milhamは話す。

ただし、こうした安静時脳活動パターンが、何か実際の働きを表しているのかどうか、今なお疑問視している研究者もいる。結局のところ、fMRIは血流を見ているだけで、脳の電気的活動を直接測ることはできないからだ。観察された低レベルのアイドリング状態は、人工的な産物にすぎないのかもしれない。「かつては、こうしたデータは、性能のよくないスキャン装置のせいか、あるいは呼吸によるノイズのせいだろうと考えられていました」と、フランス国立保健医療研究所(INSERM、ジフシュルイヴェット)・認知神経画像化ユニットの研究部長Andreas Kleinschmidtは話す。しかし彼らは、fMRIと脳波検査(EEG)記録法を使って、さまざまな安静時ネットワークが実際に神経活動と関連していることを確認した6

Shmuelと米国立精神健康研究所(ベセスダ)の神経生理学者David Leopoldも、ほぼ同じ結果を得ている7。サルの視覚皮質に深く埋め込んだプローブを使って、安静時の脳の電気的活動を記録しつつ、脳の画像をとらえたのである。その結果、40ヘルツ付近の周波数帯域で、安静時ネットワークと電気的活動との間の相関を発見した。観察されたγ活動(γ activity)は、離れた脳領域どうしのコミュニケーションと関連付けられていることから、Shmuelは、安静時ネットワークは実際の脳活動を表しているものだと確信した。「安静時ネットワークと言われるものの全体の基盤には、神経生理学的な仕組みが存在すると信じています」と彼は言い切った。

安静時脳活動の役割は何か?

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安静時ネットワークを支えるこの仕組みは、脳疾患で異常をきたしている可能性がある。例えば、アルツハイマー病の初期徴候がある人には、安静時脳活動に 通常とは異なる特徴がみられ、そうした異常は、たとえ認知症が非常に軽度でも検知でき、また、認知症の進行度によって変化することもわかっている8。また、自閉症スペクトラム障害の子どもでは、自閉症でない子どもに比べて安静時ネットワークが「過剰に結合」している場合がある9

こうした差異が生じる理由については、まだよくわかっていないし、医師の関心も薄い。多くの医師は、障害を示すマーカーが見つかるかどうかに、関心があるのだ。「臨床の立場からすれば、それがバイオマーカーとなる理由など、必ずしも知りたいわけではありません」とMilhamは言う。

しかし、安静時ネットワークの変動がどういう作用をもたらすのか、詳しく知りたがっている神経科学者もいる。「考え出すと夜も眠れません」と、テキサス大学健康科学センター(米国ヒューストン)でパーキンソン病患者の安静時脳活動を研究しているTimothy Ellmoreは話す。

現在、一部の研究者が考えている仮説は、刺激へすぐに応答できるよう、安静時ネットワークが脳を待機状態にしている、というものだ。「何もせずにただボーッと待っている訳ではないのです」とKleinschmidtは話す。安静時ネットワークに見られる周期的な活動は、脳が意思決定に必要な情報を過去の経験から引き出せるよう、助け船を出しているのかもしれない。「すべてのことをその場ですぐ判断して答えを出すというのは、計算論的にきわめて難しいことです。でも、自分の人生で次に何が起ころうとしているかを予測する活動パターンをいくつか継続させておけば、すべてを1つ1つ決定しなくてもよくなる訳です」と、ワシントン大学医学系大学院(米国セントルイス)のMaurizio Corbettaは説明する。

彼は、脳磁図(神経細胞の電気的活動に伴って生じる磁場を計測する画像化技術)を使って安静状態を研究してきた。Corbettaはこの脳活動を自動車のアイドリングにたとえ、「車を止めてもエンジンを切らずにおけば、エンジンをかけ直すよりもすばやく発進できるのと同じです」と語る。

ネットワークをアイドリング状態に保つ利点は、時間の節約だけではないはずだ。安静時の自発的な脳活動は、無意識下とはいえ、例えば知覚過程にも影響を及ぼすことはないのだろうか。それを調べるため、Kleinschmidtのチームは、顔にも花瓶にも見える「ルビンの壷」の絵を被験者に見てもらい、その脳のスキャン画像を撮った10。顔に見えると答えた被験者では、顔の情報処理をする「紡錘状回顔領域」という脳領域での自発的活動が、絵を見る前よりも活発になっていた。脳は、基底状態でも、自分のいる世界のモデルをいくつか起動させたままにして、その1つが現実となる時に備えているのではないか、とKleinschmidtは考えている。「常に次に起こることに備えていれば、理想的でしょう」と彼は解説する。

Corbettaは、脳損傷を負った人たちで、安静時脳活動が行動に変化を与える証拠を見つけた。研究は未発表の段階だが、脳卒中などによる前頭葉の損傷によって、離れた脳領域の自発的活動に変化が生じる場合があり、そのうえ、こうした安静時脳活動の変化は行動異常にも結びついているようなのだ。「我々が得た結果は、安静時脳活動が損なわれると、課題遂行の際に動員されるネットワーク経路が影響を受けることを示す、実に明確な証拠です」と彼は言う。

脳システムの定常状態を管理?

Raichleが支持しているのは、「安静時の活動は、脳の組織化を維持するのに役立っている」という仮説だ。神経細胞どうしの接続は、加齢や学習に伴って継続的に変化していくが、そうした変動を経る間も、人はずっと自我を持ち続ける。この連続性を維持するのに、自発的な脳活動が役立っているのかもしれない。「神経細胞どうしの接続は数秒、数時間、数日、あるいは数週間で切り替わります。1日後には脳の構造は異なってしまう訳ですが、我々は自分が何者であるか、きちんと覚えているでしょう」とRaichleは話す。

あるいはひょっとして、この脳活動はネットワークの再形成過程の一環であって、アイドリング状態にしておいて接続を微調整しているのかもしれない。言葉による記憶の課題遂行後や運動学習の後、安静時ネットワークの接続性に変化がみられたことを、いくつかの研究チームが報告している。バーミンガム大学(英国)の行動脳科学者Chris Miallのチームは、直前に起こった出来事によって、安静時の自発的脳活動が影響を受ける場合があることを明らかにした11。チームは、まず、安静時の被験者の脳をスキャンし、次に、動く標的をジョイスティックを操って追跡する作業課題を覚えてもらった。そしてもう一度、被験者の安静状態の 脳をスキャンしたところ、安静時ネットワークに運動学習の影響を見つけることができた。この研究をはじめ、同じような実験手法を使った研究結果から、「安静時の脳は、その日の夕飯について考えているだけでなく、ごく最近の過去のことを情報処理して、その一部を長期記憶へと変換しているのではないでしょうか」とMiallは話す。安静時ネットワークに現れる変化は、遂行された課題に特異的なものであったからだ。

こうした結論は、記憶の固定に関する動物実験からも裏付けられる。従来は、1日の記憶はその日の夜、眠っている間に強化されると考えられていた。しかし、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(米国)の神経科学者Loren FrankとMattias Karlssonは、ラットを使った研究で、たとえ目覚めているときでも、脳は、チャンスがあればいつでも新しい記憶を再生して固定していることを明らかにした12。「こうした出来事は、ラットが大した行動をしていないように見えるときに起こっています」とFrankは解説する。

こうした安静時の脳活動はヒトの脳で起こっているのと同じもので、過去の経験に対応するパターンを再活性化しているのではないか、とFrankは考えている。同時に、安静時ネットワークの活動は、機能を定常状態に戻すシステム管理の役割を担っている可能性がある。

「どうやったら脳を柔軟な状態に保てるでしょうか」とFrankは問いかける。「ランダムな活動パターンがあって、それがネットワーク全体を整理して関係のない情報を洗い流してくれるなら、学習したばかりの経路を強化する必要はなくなります」。同じ経路を何度も強化する労力を、脳は削減できる。「そのためには、ボーッと過ごす時間も重要なのでしょう」と彼は言う。

それでも、「安静時脳活動は、脳が生きて活動していることの副産物にすぎない」という否定論を払拭することは、まだできていないとShmuelは言う。脳が死んでいなければ、電流がそこを流れ、解剖学的な結合が存在すれば、規則的な低周波を発生させる。たったそれだけで、安静時の脳回路に観察されるような電流が流れる可能性がある。でも、「これが事実でないことを願っています。それでは話がつまらないですから」とShmuel。

新しい扉を開く

安静時脳活動という科学的本質そのものが、仮説の検証を難しくしている面がある。たとえ誰か被験者をスキャン装置の中に滑り込ませても、出す指示は「特に何も考えないように」であり、させるべき作業課題もなければ、検討すべき仮説もないのだ。したがって、研究者は大量のデータと向き合わねばならず、それを扱う仮説を用意する必要もある。興味深い「可能性」を絞り込むには、なお時間がかかるはずだ。

それでも、「安静時脳活動は、発見の科学(discovery science)という扉を開けたのです」とMilhamは熱く語る。大量のデータを解析して相関性を見いだし、新たな仮説を導き出さねばならない科学のことだ。Milhamは、仮説が先にありきの認知神経分野で長年研究してきたため、「今は、発見の科学に足を踏み入れてしまって、異端者になった気分です」と打ち明けた。

安静時脳活動が何をやっているにせよ、明白なことが1つだけある。Miallは単刀直入にこう言った。「脳が本当に休めるのは、あなたが死んだときです」。

(翻訳:船田晶子)

Kerri Smithは、Natureロンドンのポッドキャスト担当編集者。

参考文献

  1. Raichle, M. E. & Mintun, M. A. Annu. Rev. Neurosci. 29, 449–476 (2006).
  2. Biswal, B., Yetkin, F. Z., Haughton, V. M. & Hyde, J. S. Magn. Reson. Med. 34, 537–541 (1995).
  3. Greicius, M. D. et al. Hum. Brain Mapp. 29, 839–847 (2008).
  4. Boly, M. et al. Ann. NY Acad. Sci. 1129, 119–129 (2008).
  5. Raichle, M. E. et al. Proc. Natl Acad. Sci. USA 98, 676–682 (2001).
  6. Laufs, H. et al. Proc. Natl Acad. Sci. USA 100, 11053–11058 (2003).
  7. Shmuel, A. & Leopold D. A. Hum. Brain Mapp. 29, 751–761 (2008).
  8. Brier, M. R. et al. J. Neurosci. 32, 8890–8899 (2012).
  9. Di Martino, A. et al. Biol. Psychiatry 69, 847–856 (2011).
  10. Hesselmann, G., Kell, C. A., Eger, E. & Kleinschmidt, A. Proc. Natl Acad. Sci. USA 105, 10984–10989 (2008).
  11. Albert, N. B., Robertson, E. M. & Miall, R. C. Curr. Biol. 19, 1023–1027 (2009).
  12. Karlsson, M. P. & Frank, L. M. Nature Neurosci. 12, 913–918 (2009).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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