インド洋でプレートが分裂中?
2012年4月11日にインド洋を揺るがせたマグニチュード8.6と8.2の巨大地震は、地球の表面を覆うプレートに、新たな境界が形成されつつあることを示しているのかもしれない。2012年9月26日にNatureオンライン版に発表された3本の論文によると1-3、2つの地震や関連する現象を引き起こしたのは、1枚のインド・オーストラリアプレートを引き裂こうとする地質学的応力であったようだ。
インド・オーストラリアプレートの分裂については、1980年代から議論されていた4。高等師範学校(フランス・パリ)の地球物理学者で1本目の論文の筆頭著者Matthias Delescluseは、「4月11日の地震は、その劇的な例でした」と語る。「新たに形成されたプレート境界の例として、最も明白なものだと言えます」。
プレートテクトニクス理論によれば、インド・オーストラリアプレートの内部で変形が始まったのは約1000万年前だった。このプレートは北に向かって移動しているが、インド側部分はユーラシアプレートに激しく押しつけられており、ヒマラヤ山脈が隆起してインド亜大陸の動きも遅くなっている。一方、プレートのオーストラリア側部分は、何の障害も受けずに前進を続けている。このようなアンバランスのため、インド・オーストラリアプレートには張力によるねじれが生じ、中間のインド洋部分でプレートが引き裂かれつつある、と考えられている。
Delescluseのチームは、今回の地震が起こる少し前から、応力変化のモデルを作り、地震応力について検討した。インド・オーストラリアプレートの東側のスンダプレートとの境界では、2004年と2005年にも地震が発生している。特に2004年のマグニチュード9.1の超巨大地震はインド洋全域に大津波を引き起こした。Delescluseらは、プレートの中心部分にもとから閉じ込められていた応力が、この2つの地震によってさらに高まり、2012年の地震が発生した可能性が高いことを明らかにした。
大地震のほとんどは、2枚のプレートが境界で衝突し、その一方が他方の下に沈み込む所で発生する。一方、プレートどうしやその一部が断層線に沿って水平にすべるときは、普通、小規模な横ずれ地震が発生する。しかし、4月11日の最初の地震は、記録史上最大の横ずれ地震であり、プレート境界から離れた場所で発生した地震としても最大級であった。要するに、予想を裏切る巨大地震だったのだ。
2本目の論文2では、プレートの内部に広く蓄積していた応力が4月11日の最初の地震で解放され、前例のない複雑な断層パターンができたことを明らかにしている。ほとんどの地震が単一の断層に沿って揺れるのに対して、今回の地震では4つの断層に沿って破壊が生じ、そのうちの1つは、実に20~30mもすべっていた。執筆者の1人、カリフォルニア大学サンタクルーズ校の地震学者Thorne Layは、「あいた口がふさがりませんでした」と語った。
以前の研究でも、複数の横すべり断層は特定されていた5。しかし、すべり量がここまで詳細に明らかにされたのは今回が初めてだ。スタンフォード大学(米国カリフォルニア州パロアルト)の地震学者Gregory Berozaは、「Layのチームの論文は、この非常に重要な地震を、見事に解剖して見せています」と言う。
3本目の論文では3、4月11日の巨大地震に続く6日間、世界中で発生したマグニチュード5.5以上の地震の回数が、ふだんの5倍も多かったことが明らかにされている。通常、余震は、主震の発生場所のすぐ近くで起こるのが一般的だ。ところが4月11日の地震の後に起きた余震は、時期も範囲も、従来の定義に疑問を投げかけているわけだ。
カリフォルニア工科大学(米国パサデナ)の地震学者金森博雄は、「2012年4月11日の地震は、研究対象としてきわめて重要な地震です」と言う。検証すべき異例の特徴をいくつも備えたこの地震は、地震が発生する仕組みに関して、従来の考え方を覆す可能性が高い。
翻訳:三枝小夜子、要約:編集部
Nature ダイジェスト Vol. 9 No. 12
DOI: 10.1038/ndigest.2012.121208
原文
Unusual Indian Ocean earthquakes hint at tectonic breakup- Nature (2012-09-26) | DOI: 10.1038/nature.2012.11487
- Helen Shen
参考文献
- Delescluse, M. et al. Nature 490 240–244 (2012).
- Yue, H. et al. Nature 490 245–249 (2012).
- Pollitz, F. et al. Nature 490 250–253 (2012).
- Wiens, D. A. et al. Tectonophysics 132, 37-48 (1986).
- Meng, L. et al. Science 337, 724-726 (2012).