News & Views

進化の空白を埋める昆虫化石

Nature ダイジェスト Vol. 9 No. 11 | doi : 10.1038/ndigest.2012.121124

原文:Nature (2012-08-02) | doi: 10.1038/488034a | An insect to fill the gap

William A. Shear

デボン紀の完全な昆虫化石と思われる化石が発見された。これにより、有翅昆虫がいつ進化したのかについて、断片的だったさまざまな知識や情報が有機的につながるかもしれない。

図1:デボン紀の昆虫 Strudiella devonicaの化石。

NEL ET AL.

種数の面からいえば、昆虫は史上最も繁栄した動物群だ。しかし、その進化的起源は議論の種となっており、昆虫の始まりを裏付ける明白な証拠が化石によって最終的に示されないかぎり、その議論が終わることはない。Nature 8月2日号82ページでは、まさにその化石を発見したとする研究成果が、Garrousteたちによって発表された1。保存状態が良好とは言いがたいが、その化石には、脚が6本生えた胸部、長くて枝分かれしていない触角、三角形の顎、そして10個の節からなる腹部が認められる(図1)。解剖学的にこの組み合わせを有することが知られている節足動物(脚に関節を持つ無脊椎動物)は昆虫しかないことから、研究チームは、その化石が昆虫のものであることを強く主張している。

図2:有翅昆虫の起源
3億2500万年前頃の有翅昆虫については、たくさんの発見例がある。石炭紀のムカシアミバネムシ目はその代表例だ。しかし、それ以前の年代の昆虫進化を示す証拠はほとんど存在せず、トビムシ類の現生節足動物と外見が似ている4億200万年前のRhyniella praecursorなど、発見されている化石はごくわずかだ。しかし、そのわずかな例の中に、3億8500万~3億2500万年前のものはない。その年代は、昆虫の証拠がないことから六脚類の空白(斜線部分)と呼ばれている。しかし今回、Garrousteらが、Strudiella devonicaの化石を発見したと発表した1。その年代は3億7000万年前であり、また、その標本には昆虫に特徴的な複数の解剖学的特徴が認められる。

Strudiella devonicaと命名された長さ8mmのその化石は、ベルギーの採石場で発掘された小さな岩の板の中から発見された。Strudiellaは約3億7000万年前、デボン紀後期のものと特定された(図2)。それは、水中の祖先をもとにして陸上の生態系が最初に形作られていった年代2で、最初の森林が形成され、最古の四足脊椎動物が淡水の湖沼から陸上にはい出してきていた。これまでこの年代の岩石からは、昆虫だと思われる痕跡はあるものの、明確な証拠は見つかっていない。4億200万年前の堆積層である有名なライニーチャート(英国スコットランド)には、粘管目の化石が含まれている3。粘管目というのは、現在どこにでも生息しているトビムシ類を含む動物で、昆虫にきわめて近いとされている。ライニーチャートからは1対の顎の化石も発見されている。それはRhyniognathaと呼ばれ、先進的な有翅昆虫のものだった可能性がある4。そのほか、米国ニューヨーク州では、特徴的なクチクラ(体表を覆う細胞が外表面に分泌する固い膜構造。昆虫などで見られる)の化石片がいくつかと、複眼の基本構造の化石片が1つ発見されている。それはおそらく原始的な無翅昆虫のもので、3億8500万年前の岩石の中から出てきた5。しかし、地球の歴史上できわめて重要なこの年代の昆虫に関しては、このような断片しか知られていなかったのだ。

誤報もあった。例えば、そのニューヨークの堆積層よりもいくぶん古いカナダの地層で発見された無翅昆虫の頭部の化石6,7は、夾雑物と考えてほぼ間違いなく、岩石の割れ目に閉じ込められていたその昆虫は、もっと新しい年代、または現代のものと考えられた。ライニーに近いスコットランドのチャートから出たLeverhulmia mariaeは、昆虫か、その近縁生物か、はたまたそのどちらでもない可能性もある。脚が多すぎて、分類が困難なのである8

今回発見されたStrudiellaは、昆虫の祖先と考えるには新しすぎるような年代のものでもあり、ちょうど最古の昆虫と考えられるような年代のものでもある。それでも、最古の完全な昆虫化石である可能性が高く、実物の化石資料として大きな意味を持っている。これが、第一の、かつ最も重要なポイントだ。

化石記録が語りかけてくれることしか、私たちは知ることができない。現在の見方としては、昆虫と陸上脊椎動物の祖先の多様化は、2回の爆発的進化で生じたと考えられている9。昆虫と陸上脊椎動物は、共に4億2500万~3億8500万年前の間に発生し、新たに利用可能となった地表の領域を占め始めたときに、最初の進化的放散が進展したと考えられる。それに続き、脊椎動物には「ローマーの空白」(3億6000万~3億4500万年前)、昆虫にはさらに長い「六脚類の空白」(3億8500万~3億2500万年前)という長い空白期間があり、それぞれの年代にはほとんど化石が発見されていない(図2)。その後、唐突なように感じるものの、2回目の多様化が起こり、多くの新しい形態が爆発的に出現した。昆虫では、大型有翅種の大きな群(絶滅したものも含め、カゲロウや原始的なトンボなど)が、祖先が確認されないまま出現した。昆虫たちは、世界の支配に向けて一斉に飛び立った。

そのような空白、そしてそれが演出した2回の爆発的進化は、実際にあったのかどうかわからない。大気中の酸素濃度が低かった時期がそれらの空白の年代と一致する証拠があるため、そのような環境が空白期間中の新しい解剖学的構造の出現速度を低下させた可能性はある10。しかし、もっと素直な説明は、空白を埋める化石が出てくるような岩石層が単に未発見なだけ、というものだ。例えば、ヨーロッパと北米では、この年代の発掘された地層の多くが、陸地ではなく海洋のものなのである。

このことが、Strudiellaの第二の重要性を示している。Strudiellaの年代は、六脚類の空白のど真ん中なのだ(図2)。Garrousteらによれば、この化石によって空白はかなり狭められるという。そしてもし、研究チームが示唆するように、その化石が、成長して翅を持つようになる動物の幼形のものだとすれば、有翅昆虫はこれまで化石から知られていたよりもはるかに古い年代に出現していたことになる。これまで、多くの有翅昆虫は約3億2500万年前に突然出現したとされてきたが、今回の発見で、それが単なる見かけ上のことにすぎないことになるからだ。それだけでなく、Rhyniognathaの化石が本当に有翅昆虫の大顎だった可能性が高くなり、有翅種の多様化が約4500万年にわたってきわめてゆっくりと進展したことにもなりうるのだ。

現代の生態学において昆虫が果たしている重要な役割を考えたとき、その化石の研究者がいかに少ないか、がく然とする。そのうえ、現在の昆虫化石の研究者が注目しているのは、最古の有翅昆虫化石の年代から7000万年後に端を発する中生代、すなわち「恐竜の時代」の出来事か、現生昆虫とほとんど瓜二つで、より新しい年代の「虫入り琥珀」の昆虫ばかりなのだ11

昆虫の始まりの化石が見つかるとすれば、Strudiellaが見つかったよりもはるかに古い岩石の中であろうが、それを探している人はほとんどいない。Strudiellaと同年代のちっぽけでわずかな昆虫化石は、そしてStrudiella自体も、意図せず幸運に発見されたものである。この事実からもわかるように、六脚類の空白は、依然として私たちの前に大きく立ちはだかっているのだ。

(翻訳:小林盛方)

William A. Shearは、ハンプデン・シドニー大学生物学科に所属。

参考文献

  1. Garrouste, R. et al. Nature 488, 82–85 (2012).
  2. Shear, W. A. & Selden, P. A. In Plants Invade the Land. Evolutionary & Environmental Perspectives (eds Gensel, P. G. & Edwards, D.) 29–51 (Columbia Univ. Press, 2001).
  3. Greenslade, P. J. & Whalley, P. E. S. In Proc. 2nd Int. Semin. Apterygota (ed. Dallai, R.) 319–323 (Univ. Siena, 1986).
  4. Engel, M. S. & Grimaldi, D. A. Nature 427, 627–630 (2004).
  5. Shear, W. A. et al. Science 224, 492–494 (1984).
  6. Labandeira, C. C., Beall, B. S. & Hueber, F. M. Science 242, 913–916 (1988).
  7. Jeram, A. J., Selden, P. A. & Edwards, D. Science 250, 658–661 (1990).
  8. Fayers, S. R. & Trewin, N. H. Palaeontology 48, 1117–1130 (2005).
  9. Labandeira, C. C. & Sepkoski, J. J. Science 261, 310–315 (1993).
  10. Ward, P., Labandeira, C. C., Laurin, M. & Berner, R. A. Proc. Natl Acad. Sci. USA 103, 16818–16822 (2006).
  11. Grimaldi, D. A. & Engel, M. S. Evolution of the Insects (Cambridge Univ. Press, 2005).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

プライバシーマーク制度