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睡眠中に匂いと音を学習

Nature ダイジェスト Vol. 9 No. 11 | doi : 10.1038/ndigest.2012.121110

原文:Nature (2012-08-26) | doi: 10.1038/nature.2012.11274 | How to learn in your sleep

Mo Costandi

睡眠中にいい匂いをかがせると、目覚めた後もそのいい匂いを嗅いだときの条件を記憶している。

この世のすべての学生にとって夢のような話であるが、睡眠中に全く新しい情報を学習できるとする研究結果が、このほど Nature Neuroscience に発表された1

ワイツマン科学研究所(イスラエル・レホヴォト)のAnat Arziの研究チームは、古典的条件付けと呼ばれるシンプルな学習形態を用いて、55人の健康な被験者に、睡眠中に匂いと音を関連付けることを学習させた。

睡眠中に学習した関連付けは、目覚めた後にも記憶されている。

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つまり、睡眠中の被験者に、消臭芳香剤やシャンプーなどのいい匂い、あるいは腐った魚や肉などの嫌な匂いをかがせるのと同時に、それぞれの匂いに対応する特定の音を聞かせるという実験を、繰り返し行った。

睡眠が既存の記憶の強化に重要な役割を担っていることはよく知られている。また、起きているときに、匂いと音を関連付けることで、かぐ行為が変化することも知られている。つまり、古典的条件付けにより、被験者は、いい匂いに関連付けられた音を聞くと呼吸が深くなるが、嫌な匂いに関連付けられた音を聞くと呼吸が浅くなる。

今回、Arziたちの研究により、睡眠中に匂いと音の関連付けを学習させると、目覚めた後でもこの条件付けを記憶していることが示された。すなわち、匂いがなくても、匂いに関連付けられた音を聞くことで、呼吸が深くなったり、浅くなったりするのだ。被験者は睡眠中に匂いと音との関係を学習したことを全く覚えていなかった。なお、睡眠周期の中のどの段階でこの条件付けを行った場合でも、この効果は認められた。ただ、この関連付けを夜間の睡眠周期の後半によく見られるREM(急速眼球運動)期に学んだ被験者のほうが、応答はわずかによかった。

臨床応用の可能性

Arziは、睡眠中により複雑な情報も学習できるかもしれないと考えている。ただ、「これは、宿題を枕の下に置いて寝れば、翌朝には宿題をやり終えているという意味ではありません」と彼女は話す。「睡眠中に学べることには明確な限界があるでしょうが、今回私たちが示した以上のことができると思っています」。

2009年に、医学研究会議(MRC)認知脳科学ユニット(英国ケンブリッジ)の神経科学者Tristan Bekinschteinの研究チームは、ごくわずかに意識のある状態、もしくは植物状態の患者に対し、音を鳴らした後、目に空気を吹きかけ、まばたきさせるという古典的条件付けを行った。すると一部の患者は、音を聞くことで、目に空気を吹きかけなくても、まばたきができた2。このような条件付けされた応答は、最終的に、臨床医がこうした患者の神経学的状態を診断し、後に患者が回復する可能性を予測するのに役立つかもしれない。「睡眠中の学習にかかわっている神経ネットワークは、覚醒時の神経ネットワークと同様であるかどうかわかっていません」と、Bekinschteinは言う。

今回のArziの研究チームの知見は、このように、診断や回復の予測目的にも役立つかもしれない。また、恐怖症のような症状の行動を変化させるのに役立つ「睡眠療法」につながる可能性もある。

「現在、行動の改善につながるような睡眠中の学習について、研究を進めています」と、Arziは言う。 「私たちは、睡眠中の学習に関与する脳機構や、植物状態や昏睡のような、ほかの意識変化状態でも、今回用いた学習形態を研究したいと考えています」。

(翻訳:三谷祐貴子)

参考文献

  1. Arzi, A. et al. Nature Neurosci. 15, 1460–1465 (2012).
  2. Bekinschtein, T. A., et al. Nat. Neurosci. 12, 1343–1349 (2009).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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