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父親の年齢が高いほど、多くの変異が子に伝わる

Nature ダイジェスト Vol. 9 No. 11 | doi : 10.1038/ndigest.2012.121113

原文:Nature (2012-08-23) | doi: 10.1038/488439a | Fathers bequeath more mutations as they age

Ewen Callaway

最新のゲノム研究により、子どもの自閉症などが、父親の年齢と関連するらしいことが明らかになった。

1930年代、遺伝学研究のパイオニアであるJ. B. S. Haldaneは、血友病の家族歴を持つ家系に、ある特有の遺伝パターンがあることに気が付いた。血液凝固障害の原因となるこの変異は、母親からよりも、父親から娘に伝えられるX染色体の中に多く現れる傾向がみられたのだ。そこで彼は、子どもには母親よりも父親から多くの変異が伝えられる、という仮説を提唱した1。しかしHaldaneは、「この仮説が証明されるか、あるいは反証されるかは、何年も経たないとわからないだろう」とも認めていた。

その時がついに来た。多数のアイスランド人家系の全ゲノム配列解読から、Haldaneの正しさを示す証拠が得られたのだ。そのうえ、Natureに発表された研究で、男性が子どもを持つ年齢が、子に伝わる変異の数を決定することが明らかになった2。30代、40代と父親の年齢が上がるにつれて、その子どもが、自閉症や統合失調症など、新規の遺伝的変異と関連する疾患を発症する確率が上昇する。デコード・ジェネティクス社(アイスランド・レイキャビク)の最高経営責任者で、この研究を率いたKári Stefánssonは次のように言う。「父親の年齢が高くなるほど変異が増え、子に伝わる変異も多くなります。多くの変異が伝われば、そのうちの1つが有害である可能性も高まるのです」。

Haldaneの研究はDNA二重らせんの発見より何年も前になされたものだったが、父親からより多くの変異が受け継がれる理由を、正しく理解していた。精子は前駆細胞の分裂によって絶えず産生されているため、その分裂のたびに、新しい変異が生じる。対照的に、女性はその生涯に排卵する全卵子を持って生まれるので、子どもに伝わる変異は少ないのだ(編集部注:最近、成人女性の卵巣から、卵を形成する幹細胞が見つかった。Nature ダイジェスト 2012年6月号7ページ参照)。

デコード・ジェネティクス社はアイスランド人の多くの遺伝学的情報を保持しており、Stefánssonの研究チームは、母親・父親・子の核家族3人の全ゲノム配列78組を比較した2。そして、どちらの親にも存在せず、卵子、精子あるいは胚で自然に生じたであろう新規変異を、子どものゲノムの中から探し出した。このようなゲノム研究は、核家族としては最大規模のものだ。

結果を見ると、父親からは、母親の4倍近くの新規変異が子に受け継がれていた(平均で、父親から55個、母親から14個)。また、子どものゲノムにみられる新規変異数のばらつきも、父親の年齢でほぼ説明が付いた。父親の年齢が高くなると、受け継がれる新規変異の数は指数関数的に上昇する。20歳の父親よりも、36歳の父親は2倍、70歳の父親は8倍多くの変異を子どもに伝えると、Stefánssonの研究チームは推定している。

Stefánssonの研究チームは、1980年に生まれたアイスランド人の子が60個の新規変異を持つのに対し、2011年に生まれたアイスランド人の子は70個の新規変異を持つと推定している。これは、男性が子を持つ平均年齢が、この期間に28歳から33歳に上昇したからだ。

新規変異のほとんどは無害であるが、Stefánssonの研究チームは、そのうちのいくつかの変異が、自閉症や統合失調症などの疾患に関連していることを明らかにした。今回の研究は、高年齢の父親が、若い父親よりも、疾患に関連した遺伝子やほかの有害な遺伝子を伝える可能性が高いことを“証明”した訳ではないが、その可能性が高いことを強く示唆している、とStefánssonやほかの遺伝学者は言う。

これまでの研究で、父親の年齢が高くなると、子が自閉症と診断されるリスクが上昇することが示されていた。また、2012年に発表された3つの論文3-5で、自閉症に関与する新規変異が多数明らかにされ、そのような新規変異は母親起源よりも父親起源である可能性が4倍高いことが示されている。

こうした結果は、自閉症スペクトラム障害の発症が明らかに増えていることをうまく説明してくれるかもしれない。2012年、米国の疾病管理予防センター(ジョージア州アトランタ)は、米国人の子ども88人に1人が自閉症スペクトラム障害と診断されていると報告している(2007年から78%の増加)。このような増加は、自閉症の診断が、より高い精度で、より包括的に行われるようになったのが一因と考えられるが、おそらく新規変異も要因の1つであろうと、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(米国)の神経生物学者Daniel Geschwindは言う。「実際に年を取ったお父さんがいる地域で、自閉症の有病率が高いことが明らかになると思います」。

(翻訳:三谷祐貴子、要約:編集部)

参考文献

  1. Haldane, J. B. S. Ann. Eugen. 13, 262–271 (1947).
  2. Kong, A. et al. Nature 488, 471–475 (2012).
  3. Sanders, S. J. et al. Nature 485, 237–241 (2012).
  4. O’Roak, B. J. et al. Nature 485, 246–250 (2012).
  5. Neale, B. M. et al. Nature 485, 242–245 (2012).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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