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カロリー制限しても長生きすることはない

Nature ダイジェスト Vol. 9 No. 11 | doi : 10.1038/ndigest.2012.121115

原文:Nature (2012-08-30) | doi: 10.1038/488569a | Calorie restriction falters in the long run

Amy Maxmen

寿命に影響を与えるのは、遺伝と食事の質のようだ。

食べることが大好きな人にとっては朗報かもしれない。霊長類では、カロリーを徹底的に減らしても、寿命が延びることはないようなのだ。

米国立加齢研究所(NIA;メリーランド州ベセスダ)で行われた、25年に及ぶアカゲザルのカロリー制限の研究結果がこのほど報告された。摂取カロリーを対照群の7割にとどめても、アカゲザルでは特別な延命効果がみられなかったという今回の報告によって、「食餌療法によって老化を遅らせるスイッチを簡単に作動させられる」という説は覆されそうだ。Nature 9月13日号に発表されたその論文1によれば、単なる摂取カロリーの数値よりも、むしろ遺伝や餌の内容のほうが寿命に影響するという。

30年ほど前にNIAでその研究計画を立案した老年学の研究者のDon Ingram(現在はルイジアナ州立大学・米国バトンルージュに所属)は、「摂取カロリーを減らしただけで寿命が大きく変わると考えたこと自体が、おかしな話でした」と語る。

とはいえ、NIAの資金的支援でサルの研究が始まった当時、ライフサイクルの短い動物で行われていたカロリー制限の研究からは、寿命とのつながりをほのめかす結果が得られていた。線虫では、飢餓で寿命が延びることが示されていたし、ラットでは、通常は加齢により毛並みも動きも悪くなるのに、摂取カロリーが少ないと、毛並みがよく活動的であることがわかっていた。さらに最近の分子レベルの研究では、カロリー制限、またはそれを模倣する物質によって、遺伝子群の発現に連鎖的な変化がもたらされ、老化の低速化へとつながる可能性が示唆されている。

一方、ウィスコンシン国立霊長類研究センター(WNPRC;米国マディソン)で1989年から20年間にわたって行われた別の研究2では、カロリー制限によって確かにアカゲザルの寿命が延びたという結論が得られていた。その研究では、死因が加齢に関連する個体の割合が、対照群の37%に対し、食餌療法群では13%だったのだ。

NIAとWNPRCの研究結果に差が生じた原因として、WNPRCのサルが不健康な餌を与えられていたことが挙げられる。カロリーを制限したサルではその摂取量が少なかったため、相対的に健康に見えたというわけだ。餌に含まれていたショ糖は、NIAでは3.9%だったのに、WNPRCでは28.5%もあった。また、NIAの餌には魚油や抗酸化物質が含まれていたのに対し、WNPRCの餌にはそれが含まれていなかった。WNPRCでの研究で中心となっていた老年学研究者Rick Weindruchは、「全体として、私たちの餌はあまり健康的ではなかったのだと思います」と認めている。

さらに、対照群の餌の量にも違いがあった。WNPRCでは餌は制限なく与えられたのに対し、NIAでは餌の量が決められていた。そのため、WNPRCの対照群のサルは総摂取カロリーが多くなっていたと考えられる。事実、成体について見れば、対照群の体重はNIAよりもWNPRCのほうが重かった。総合すると、WNPRCの結果に表れていたのは、長命の処置群というより不健康な対照群としてのものだったのかもしれない。「その研究が始まった当時の定説は、『カロリーはカロリー』ということでした」とIngramは語る。「でも今は、食べたカロリーの質が大きな差を生んだのは間違いないと思っています」。

マウスでカロリー制限の影響を調べている研究者は、当たり前のように複雑な結果に触れるようになった。その原因は、系統間の遺伝的多様性にあると考えられている。サルの研究においても、「遺伝」によって、こうした差の一部を説明できると考えられる。NIAのサルは、インドと中国の系統に由来するのに対し、WNPRCのサルは、すべてインド由来のものだった。

分子レベルでも、カロリー制限の影響は複雑であることがわかってきた。カロリー制限によって活性化されるストレス反応は、疾患から体を守るために重要でないプロセスを遮断するというものだが、これを、赤ワインに含まれるレスベラトロールのような物質によって引き起こす研究が行われた。しかし、「1つの分子経路上の1つの遺伝子やタンパク質に働きかけることで老化を遅らせる」という考えはすぐに行き詰まった。動物によって中心となる経路が異なることがわかったからだ。ハーバード大学医学系大学院(米国マサチューセッツ州ボストン)の遺伝学研究者David Sinclairは、「寿命にかかわるネットワークを選び出すには10年はかかるでしょう」と話す。

一方、カロリー制限によって人間の老化が遅くなるという証拠は少ない。観察研究では、平均的な体重の人がいちばん長生きをする傾向が認められている3。アルバート・アインシュタイン医科大学(米国ニューヨーク)の老年学研究者Nir Barzilaiは、100歳を超えた人の研究から、食事や生活様式よりも遺伝のほうが重要だと考えるようになったという。「あの人たちは太めですし・・・・・・」とBarzilaiは言う。

イセエビなどのごちそうが好きなIngramとしては、もう少しはっきりした構図、すなわち、カロリー摂取量ではなく食餌の内容が老化にどう影響するのかを知りたいのだという。「人間の寿命は決まっているのでしょうか」とIngramは問う。「まだまだそうは思えませんね」。

(翻訳:小林盛方)

参考文献

  1. Mattison, J. A. et al. Nature 489, 318–321(2012).
  2. Colman, R. J. et al. Science 325, 201–204 (2009).
  3. Berrington de Gonzalez, A. et al. N. Engl. J. Med. 363, 2211–2219 (2010).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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