News

治療可能な珍しい自閉症

栄養補助食品で治療できそうな遺伝性で珍しい型の自閉症が見つかった。きっかけは、自閉症児のゲノム解析研究で、数種類の必須アミノ酸が欠乏しないように働く遺伝子に変異が見つかったこと。この遺伝子を欠損したマウスでも、自閉症に似た神経学的障害が現れたが、餌を変えることで症状が改善されたのだ1

研究チームを率いたカリフォルニア大学サンディエゴ校(米国)の小児神経科医Joseph Gleesonは、「これらの症例は、初の治療可能な自閉症となるかもしれません」と話す。「今回の成果は、自閉症患者のいる家族を元気付けることになり、自閉症の発症機序の解明を一歩前進させると思います」。

その一方で、この遺伝子変異で説明がつく症例は自閉症のごく一部にすぎない点も強調する。「今回の成果を、一般的な自閉症患者にも広く適用できるとは思っていません」とGleesonは言う。しかも、サプリメント投与で6人の自閉症児のアミノ酸血中値は正常化したが、症状改善に役立ったという証拠はまだ得られていない。

今回の研究では、6人の自閉症児のエキソーム(ゲノムのうち、タンパク質をコードする部分)の塩基配列を解析して、変異が見つかった。6人は中東系の3つの家族に属しており、いずれも両親が従兄弟どうしである。こうした家族では、子どもが劣性変異を2コピー持って生まれてくる確率が高くなる。そのため、まれな劣性変異を探し出すことができる。

Gleesonのチームは、それぞれの家族で、BCKDキナーゼという酵素を不活性化する変異を見つけた。この酵素が正常に働けば、ロイシン、イソロイシン、バリンという3種の分枝鎖アミノ酸は摂食後に体内で分解されずにすむ。いずれも必須アミノ酸で、ヒト体内で合成できず、食物から摂取する必要がある。

Gleesonは、これらの患者では分枝鎖アミノ酸がどんどん分解されてしまうと予想した。予想は正しく、食後、子どもたちの分枝鎖アミノ酸の血中値は低かった。BCKDキナーゼ遺伝子を欠損したマウスも、やはり血中や組織内の分枝鎖アミノ酸の値が低かった。

輸送問題

しかし、こうしたアミノ酸欠乏が自閉症を起こす仕組みは、まだよくわかっていない。分枝鎖アミノ酸は、「血液脳関門」にある特殊な輸送体を介して脳内に入る。その輸送体タンパク質は、ほかの大型アミノ酸も運び込んでおり、分枝鎖アミノ酸の値が低くなると、大型アミノ酸がより多く通り抜けていくことになる。Gleesonのチームは、BCKDキナーゼ遺伝子を欠損したマウスの脳内では、こうした大型のアミノ酸の量が多いことを見つけた。

Gleesonの考えによれば、自閉症の症状は、分枝鎖アミノ酸が少ないこと、大型のアミノ酸が多いこと、あるいは、これら2つの組み合わせで起こるという。変異マウスの脳内で値が上昇していたアミノ酸類は、2種類の神経伝達物質の原材料となるもので、これらの神経伝達物質が放出される部位であるシナプスが、自閉症と関係する。

成分のアンバランスは、少なくともマウスでは治すことができる。BCKDキナーゼ遺伝子を欠損した変異マウスには、震えやてんかん性発作など、自閉症のマウスに典型的な神経学的異常があった。しかし、分枝鎖アミノ酸を多く含む餌をマウスに与えたところ、そうした症状が1週間もしないうちに消えてしまった。

Gleesonのチームは試しに、この型の自閉症児に、分枝鎖アミノ酸を含む筋肉増強サプリメントを摂取してもらった。すると、子どもたちのアミノ酸値は正常に戻った。自閉症の症状に関しては、「患者たちはいっさい悪化せず、親御さんたちは、子どもたちの状態が前よりよくなったと言っていました。ただし、これはあくまで事例証拠です」とGleesonは話す。研究チームは、サプリメントの効果をきちんと比較検討する臨床試験を実施したいと考えている。

ベス・イスラエル・ディーコネス医療センターおよびハーバード大学医学系大学院(米国マサチューセッツ州ボストン)の医師であり研究者でもあるMatthew Andersonは、今回の研究によって、代謝経路を研究する人が増えるだろうと話す。フェニルケトン尿症(アミノ酸の一種であるフェニルケトンを体内で分解できない病気)など、いくつかの代謝異常症は、治療しないままだと自閉症スペクトラム障害につながる場合がある2。臨床現場でそうしたつながりが気付かれずにいる例はもっとあるのかもしれない。

カリフォルニア大学ロサンゼルス校のDaniel Geschwindは「代謝障害で生じ、サプリメントで改善する単純な自閉症は、10年以内にヒトでも見つかるでしょう」と言っている。

翻訳:船田晶子、要約:編集部

Nature ダイジェスト Vol. 9 No. 11

DOI: 10.1038/ndigest.2012.121108

原文

Amino-acid deficiency underlies rare form of autism
  • Nature (2012-09-06) | DOI: 10.1038/nature.2012.11375
  • Ewen Callaway

参考文献

  1. Novarino, G. et al. Science http://dx.doi.org/10.1126/science.1224631 (2012).
  2. Baieli, S., Pavone, L., Meli, C., Flumara, A. & Coleman, M. J. Autism Dev. Disord. 33, 201–204(2003).