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ちょうどよい形のギター

神奈川工科大学の電気工学者、板子一隆(電気電子情報工学科教授)は6歳からギターを弾いている。また板子哲は電気工学の修士号を持つギター製作者だ。2人は兄弟で、最適なギターの形を研究している。

バイオリンの最適形状に関しては多くの専門家がさまざまな問題を解決してきたが、ギターについてはほとんど研究されていない。5月に香港で開かれた音響学会「アコースティクス2012」で発表された板子兄弟の予備的研究では、1つの変量に注目した。それがギターの厚さだ。形はほとんど同じで厚さだけが異なる4台のギター(厚さは58mmから98mmまで)を製作した。

この4台について演奏者に2種類の異なる奏法で開放弦を弾いてもらい、その音質と倍音を客観的基準と主観的基準の両方で評価した。倍音(周波数が基音の整数倍の音)の測定に使ったのは、客観的な基準であるオシロスコープだ(純粋な波形は1つの周波数しか含んでいないが、平板で不自然に聞こえる。倍音が多く含まれるほど、音質は豊かになる)。一方、主観的基準としては、音楽的に耳の肥えた9人に音質を評価してもらった。

その結果、厚さ68mmのギターが、倍音が最も豊かで、9人の評価者のうち6人が最高と評価した。板子兄弟は現在、響孔の大きさによって音質がどう変わるかを調べている。その後、ガラス繊維などの合成材料で木製ギターと同じ響きのよい楽器を作れるかどうか、突き止める計画だ。木製ギターは製作に細心の注意を要し、時間がかかる。

兄弟の目標はプロレベルに準ずる高品質のギターのための理想的な寸法と材料を特定すること。実現すれば、より多くのアマチュア演奏家が優れたギターを手ごろな価格で入手できるようになるだろう。

翻訳:鐘田和彦

Nature ダイジェスト Vol. 9 No. 11

DOI: 10.1038/ndigest.2012.121112a