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皮膚細菌叢も免疫応答に重要

Nature ダイジェスト Vol. 9 No. 10 | doi : 10.1038/ndigest.2012.121004

原文:Nature (2012-07-26) | doi: 10.1038/nature.2012.11075 | The skin’s secret surveillance system

Virginia Gewin

長い間、外部からの病原体に対して単なる物理障壁と考えられてきた皮膚。その皮膚に共生する細菌が、宿主の免疫系の活性化に重要であることが明らかになった。

皮膚の表層には、しわや毛包、皮脂腺などが存在する。こうした多種多様な環境にさまざまな細菌が共生しており1、外部からの病原体の侵入を妨げているとされてきた。だが、それ以上の役割があるようだ。米国立アレルギー・感染症研究所(メリーランド州ベセスダ)のYasmine Belkaid率いる研究チームが、皮膚に常在する細菌叢の役割を調べ、宿主の免疫応答に影響を及ぼすことを明らかにし たのだ2

論文筆頭著者のShruti Naikは、「今回我々は、皮膚での免疫細胞の適切な機能に、皮膚常在細菌からのシグナルが必要であることを初めて示しました」と語る。

常在細菌が免疫系や炎症を制御する仕組みについての研究は、腸管に焦点を当てたものがほとんどである。というのも、腸管は細菌に最もよくさらされている器官であり、常在細菌の種類も非常に多様だからだ。一方、皮膚にも多様な細菌叢が存在する。Belkaidたちは、皮膚細菌叢が腸内細菌叢と同じような機能を発揮するかどうかを突き止めようと考えた。

「皮膚細菌叢について、免疫反応に関与しているのか、同様に独自の常在細菌叢を持つ腸管内での免疫の作用機序と似ているのか、誰も知りませんでした」。ハーバード大学公衆衛生大学院(米国マサチューセッツ州ボストン)の計算生物学者で、ヒトマイクロバイオームプロジェクト(HMP)のメンバーであるCurtis Huttenhowerは、こう話す。「今回の論文により、皮膚細菌叢が腸内細菌叢と同様に免疫応答作用を持つことが、初めて明らかになりました」。

細菌からのシグナル

研究チームは、皮膚細菌叢の影響を調べるため、無菌環境で飼育された無菌マウスと皮膚常在細菌を持つ通常マウスで、免疫細胞の1つであるT細胞が産生する炎症に関与する分子IL-17AとIFN-γを比較した。すると、無菌マウスは通常マウスに比べ、これらの分子の産生が少ないことがわかった。

これが、腸内細菌叢がないことではなく、皮膚細菌叢がないことが原因であることを確かめるため、研究チームは、通常マウスに抗生物質を経口投与し、腸内細菌叢のみについて構成や密度を変化させた。その結果、皮膚のT細胞のIL-17AやIFN-γの生産性に影響は見られなかった。このことから、皮膚細菌叢は皮膚の免疫細胞が適切に機能するために必要であることが示唆された。

次に研究チームは、無菌マウスに、 ヒトの皮膚に常在する表皮ブドウ球菌Staphylococcus epidermidisを植え付けた。するとそれだけで、皮膚のT細胞はIL-17Aを産生できるようになったが、腸管ではそうした現象は起こらなかった。また無菌マウスは、病原微生物リーシュマニア(Leishmania major)に対する免疫応答(IFN-γがかかわる)を引き起こすことができなかったが、表皮ブドウ球菌を植菌すると回復した。「我々は、皮膚の免疫が皮膚細菌叢により活性化されることを示したのです」とNaikは言う。

またさらなる実験から、無菌マウスでは、IL-17A産生を制御している別の炎症関連分子IL-1の産生が減少しており、IL-1受容体アンタゴニストのRNAも増加していることがわかった。これらは、表皮ブドウ球菌の植菌で回復できた。一方、IL-1受容体とMYD88(IL-1受容体のアダプタータンパク質)の欠損マウスでは、皮膚のT細胞のIL-17Aの産生は減少するが、腸管のT細胞のIL-17A産生には影響が見られなかった。こうしたことから、皮膚細菌叢はIL-1/MYD88を介したシグナル伝達に必要であることが示唆された。

「これまでにも、皮膚に共生する細菌に抗炎症作用があるという報告はありました。今回の研究は、さらに一歩前進し、細菌がT細胞の成熟に影響を及ぼすことを示しています」と、カリフォルニア大学サンディエゴ校(米国)の皮膚科科長Richard Galloは言う。つまり、皮膚細菌叢は、宿主の免疫細胞の応答制御に寄与しているということだ。

腸内だけでなく

「今回我々は、腸内ではなく皮膚の細菌叢に依存した防御免疫を発見しました。皮膚細菌叢は、今まではないと思われていた特異的な役割を持っていたのです」と、論文共著者で、米国立ヒトゲノム研究所(メリーランド州ベセスダ)のJulie Segreは言う。「腸内と皮膚の細菌叢には、共通の役割があるかもしれません。でも、重要な違いもあるでしょう」。

Segreは、今回の発見は皮膚細菌叢と免疫系の研究における第一段階であると言い、今後、腸内や皮膚、口腔内の細菌叢がお互いに直接情報をやりとりしているのか、それとも単に皮膚の細菌叢が免疫系を活性化するのかを詳細に調べたいと考えている。「ここ10年、腸内細菌叢が注目されてきました。今度は皮膚細菌叢の出番です」と、Sergeは語っている。

(翻訳・編集:編集部)

参考文献

  1. Grice, E. A. & Segre, J. A. Nature Rev. Microbiol. 9, 244–253 (2011).
  2. Naik, S. et al. Science http://dx.doi.org/10.1126/science.1225152 (2012).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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