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火星探査ローバー「キュリオシティー」が無事に着陸!

Nature ダイジェスト Vol. 9 No. 10 | doi : 10.1038/ndigest.2012.121007

原文:Nature (2012-08-09) | doi: 10.1038/488137a | Mars rover sizes up the field

Eric Hand

2012年8月6日、火星探査ローバー「キュリオシティー」は、複雑な降下過程を完璧にこなして火星のゲール・クレーターに着陸した。科学チームは、まずはローバーをどちらの方向に動かすべきか、検討を始めている。

火星探査ローバー「キュリオシティー」が着陸直後に送ってきた画像から、シャープ山の北側斜面のほうを向いて着陸したことがわかった。

NASA/JPL-CALTECH

その山は、遅い午後の日差しを浴びてそびえている。ローバーにとっては、気の遠くなるほど大きな踏破目標だ。ローバーが火星の表面に着陸して数分後に撮影した写真では、長く伸びた自分自身の影が、今にも山の斜面に届きそうに見える。NASAの「マーズ・サイエンス・ラボラトリー」ミッションの火星探査ローバー「キュリオシティー」は、この山を登るために製作された。

2012年8月6日、キュリオシティーは、目的地である火星のゲール・クレーターの底に着陸した。クレーター内の面積は、北米のオンタリオ湖(約1万9000km2)ほどある。キュリオシティーの目的は、火星の古い岩石を調べて、有機分子や、生命の生息地となっていた可能性のある水環境の痕跡を探すことである。この調査は、クレーターの中心部にそびえているアイオリス山を登りながら行われることになる。このミッションに従事する科学者たちは、この山を非公式に「シャープ山」と呼んでいる。シャープ山は、火星の数億年分の歴史を刻み込んだ高さ5.5kmの岩石層からできている。その斜面を登る重量900kgのキュリオシティーは、これまでに火星に送り込まれたローバーの中で最も多くの種類の観測装置を搭載している。それとともに、このミッションを将来の火星有人探査の序幕と位置付けている技術者や探検家の、夢と希望も載せているのだ。

NASA/JPL-CALTECH/ESA/DLR/FU BERLIN/MSSS, NASA/JPL-CALTECH/UNIV. ARIZO

キュリオシティーが火星に着陸してまもなく、NASAの長官Charles Boldenがジェット推進研究所(JPL、米国カリフォルニア州パサデナ)で状況説明を行った。彼は感きわまったようすで、「キュリオシティーの車輪が、火星の表面に人類の足跡を刻みはじめました」と語った。400人強からなるキュリオシティーの科学チームは、この25億ドル(約2000億円)のミッションが、これまでに行われたすべての火星ミッションよりも多くの成果を挙げられるように、知恵を絞っていかねばならない。

キュリオシティーをシャープ山とゲール・クレーターの壁との間に正確に着地させるためには、複雑な技術が必要であった。彼らは、熱シールド、パラシュート、逆推進ロケット、「スカイクレーン」を組み合わせて、秒速5900m以上あったローバーの落下速度を7分かけて秒速1m未満まで減速し、火星の表面にそっと着陸させた(Nature 488, 16–17; 2012参照)。

JPLの突入・降下・着陸オペレーションチームのリーダーであるAllen Chenは、緊張が続く中、常に冷静で安定した声を響かせていた。その彼が「着陸確認」と宣言した瞬間、スタッフは感情を爆発させた。一斉に抱擁し合い、ハイタッチをし、安堵の涙を流したのだった。そのすぐあとに、ローバーの前後に取り付けられた障害物回避カメラが最初の写真を撮影し、その画像を、ゲール・クレーターの上空を通過したマーズ・オデッセイ(11年前から火星の軌道を周回しているオービター)を経由して地球に送信した。

NASA本部(ワシントンD.C.)の火星探査プログラムの責任者であるDoug McCuistionは、10年以上の年月をかけて開発した新しい着陸システムを1回きりのものにしてはならないと考えている。彼によると、キュリオシティーのようなローバーは、今ならもっと安価に、短時間で製作することができるという。なぜなら彼は、「同じものを何度も繰り返して製作するつもりで取り組む」ようにJPLを指揮してきたからだ。今回と同じミッションをもう1度実施するなら、ローバーは5億ドル(約400億円)は安く製作できるだろう。とはいえ、それでもまだNASAの惑星科学プログラムの予算を超えている。そもそもNASAは、現時点ではこれ以上の火星着陸を予定していない。しかし、2018年に7億~8億ドル規模の火星ミッションを行う機会がある。NASAの科学チーフJohn Grunsfeldは、この機会を最大限に活用するための探査ミッションを検討しており、2012年8月中に、その結論を明らかにする予定である。

着陸を成功させた降下チームがスポットライトを浴びている一方で、ミッション技術者たちは自動車サイズのローバーの試験に着手した。ローバーが火星に着陸した当初の数時間は、データを地球に送信する速度が比較的遅かった。データ速度を速くするため、技術者たちは翌日、ローバーに指示を出して、通信アンテナを使える状態にした。さらにその翌日には、予定どおり複数のカメラを搭載したローバーのマストを立てて、着陸地点のカラー写真を次々と地球に送りはじめた。走行に挑戦するのは数日後となる。

ローバーが探査を始めた地点は、ほぼミッション・プランナーが希望した場所だった。着陸の翌日、Malin Space Science Systems社(カリフォルニア州サンディエゴ)の社長で、ローバーの腹側に搭載されたカメラの主任研究者であるMike Malinは、ローバーの降下の最後の150秒間を記録した劇的なビデオを公開した。NASAのマーズ・リコネッサンス・オービターも、パラシュートを開いて火星の表面に降下するキュリオシティーの姿を、上空からとらえていた。Malinは、キュリオシティーのビデオをオービターの高解像度写真と照合することにより、キュリオシティーの着陸地点がシャープ山からちょうど6.5km離れた不毛の平原であることを特定した(『ゲール・クレーターへの着陸』参照)。

キュリオシティーが踏み出す最初の一歩は、どの方向になるのか? それはカリフォルニア工科大学(パサデナ)の地質学者で、プロジェクト科学者であるJohn Grotzingerが決めることになっている。シャープ山のほうを向いて着陸したキュリオシティーを反転させて、クレーターの縁にある興味深い地形に向かわせる可能性もある。この地形は沖積扇状地と呼ばれ、クレーターの縁の堆積物が水に洗い流されたことにより形成されたと考えられるからだ。オデッセイの観測装置は、この扇状地の物質が、火星の寒い夜の間に周囲の土壌よりも長く熱を保っていることを明らかにした。Grotzingerによると、扇状地の物質が、ほかの場所の物質よりも強く固められているせいかもしれないという。「水が、これらを固めた可能性があるのです」。

反対に、キュリオシティーをシャープ山の裾に向かわせることも考えられる。ここの基岩は水によって変性した粘土と硫酸塩を含んでいるからだ。どちらの方向を選ぶにしても、Grotzingerは、着陸地点の近くの岩石を調べて、シャープ山のふもとの堆積物層が沖積扇状地の層とどのように混ざっているかを明らかにし、堆積した順序を明らかにしたいと考えている。その答えは、ローバーの近くの小さなクレーターや、岩層を横切るその他の特徴にあるかもしれない。したがって、ミッション・チームは、これらの地形の観測も考慮してルートを決めることになる。「周回軌道上から特定できる重要そうな地形をできるだけ多く通るルートを決めて、それに沿って移動しながら調べていこうと考えています」とGrotzingerは言う。

キュリオシティーは、NASAのこれまでの火星探査ローバー「スピリット」や「オポチュニティー」よりも馬力があり、平面だけでなく、高低差のある三次元領域を効率よく探査することができる。そして、クレーターとシャープ山の地層は、時間という第四の次元まで、たっぷりと見せてくれる。Grotzingerによれば、スピリットとオポチュニティーは、2004年に相次いで火星に着陸して以来、合わせて42km以上も移動したが、横断した地層の厚さはわずか数十mであったという。シャープ山に登るキュリオシティーは5500mもの地層を横断することになる。

キュリオシティーには十分な持ち時間がある。名目上の寿命は2年だが、エネルギー源である原子力電池が、はるかに長期間の活動を可能にする。キュリオシティーを直ちに山登りに向かわせるのも魅力的だが、Grotzingerは我慢するのも悪くないと感じている。「到達に1年かかったとしても、全然かまいません」と彼は言う。

(翻訳:三枝小夜子)

訳注:2012年8月17日、キュリオシティーが最初に向かう場所は、着陸地点から400m東の、3種類の地形が交差するグレネルグという領域に決まったと発表された。シャープ山に向かうのは、その後になる。

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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