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ねじれを感知できる電子センサー

ナノファイバーがブラシの毛のように整列したシートを2枚向かい合わせにかみ合わせることによって、圧力、せん断、ねじりを検知できるようになる。スケールバーは1μm。

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2枚のブラシマットを向かい合わせにかみ合わせたような構造を持つフレキシブル触覚センサーが、ソウル国立大学(韓国)のKahp-Yang Suhの研究チームにより開発された1。この触覚センサーは、テントウムシが歩くのを検知できるほど感度が高く、人間の皮膚のようにせん断力とねじり力を区別できる。手首に取り付ければ心拍計として使用することも可能だ。

「このセンサーは、甲虫の翅の構造からヒントを得て設計されました」と、Suhは言う。止まっている甲虫の翅は、翅に生えた多数の毛が、ファンデルワールス力という一種の静電引力によって、体に生えた多数の毛とかみ合うことで固定される。Suhのセンサーは、甲虫の翅の毛のような多数のポリマーナノファイバーが「生えた」シートを用いている。ナノファイバーは、直径100nm、長さ1µmで、電気を通すよう金属でコーティングされている。2枚のシートをナノファイバーが向かい合うようにくっつけると、甲虫の翅の毛のようにナノファイバーどうしが互いにかみ合う。そして、センサーには電流を流せるよう配線が施され、柔らかい保護ポリマーが貼られている。

センサーを押したり、ねじったり、こすったりすると、金属でコーティングされたナノファイバーの位置が変化し、センサーの電気抵抗が変わる。この設計で、わずか5パスカル程度の微小圧力が検知できる。これは、人が感知できる最も弱い触覚より小さい圧力だ。Suhらは、電気抵抗が機械的応力に応答してどのように変化するか、また応力を除去するとどのように回復するかを解析し、3つのタイプの機械的ひずみ、つまりまっすぐ押す圧力、表面をこするせん断、ねじる動きを区別することに成功した。「これらの信号を分離することができるのです」とSuhは説明する。

人間の皮膚はこれら3種のひずみを区別できるが、ほとんどの人工センサーは区別できない。スタンフォード大学(米国カリフォルニア州パロアルト)で別のタイプのフレキシブルひずみセンサーを開発している材料科学者のZhenan Baoは、「せん断とねじれを区別して検知することは難しいのです」と話す。Suhによれば、ほかのセンサーは力をまとめて検出するだけなので、力の方向については何もわからないのだという。「電気的読み出しによってひずみの性質を調べるSuhの方法は今後も研究が必要ですが、フレキシブルセンサーからひずみの情報を得るというアイデアは独創的です」と、Baoは言う。

応用に向けて

こうした微妙な触覚の入力は、人間とやりとりするロボットの開発に大いに役立つであろう、とロボット開発に取り組むウィローガレージ社(カリフォルニア州メンロパーク)の研究者Matei Ciocarlieは言う。カメラは、周囲環境に関する情報を多く収集できるが、障害物に妨げられることがある。また、情報量が多すぎる傾向もある。ところが、触覚センサーは接触点のみでデータを集めるので、情報収集が妨げられることはない。

「皮膚は、ロボット工学の分野で見過ごされてきた部分なのです」とCiocarlieは言う。それは難しい課題があるからだ。丈夫さ、高い感度、柔軟さだけでなく、大面積化が必要なのである。しかし、大きい鋳型を作れば大型シートセンサーの作製は容易だし、コストもそれほどかからないはずだ、とSuhは反論する。

さらに、電子皮膚に応用する場合、圧力がかかる位置を特定するために高い空間分解能が必要であるが、Suhらは、64ピクセルからなる8×5cmのセンサーネットワークを用い、高い分解能を実証している。センサー表面を歩く2匹のテントウムシの位置を検出できたのだ。そのうえ、跳ねる水滴による動的負荷を検出・記録でき、センサーシートを手首に取り付ければ脈拍を測定することも可能だ。Suhによると、現在、この材料を使った心拍モニターの開発について、ヘルスケア会社と話を進めているとのことである。

翻訳:藤野正美

Nature ダイジェスト Vol. 9 No. 10

DOI: 10.1038/ndigest.2012.121005

原文

Electronic sensor rivals sensitivity of human skin
  • Nature (2012-07-29) | DOI: 10.1038/nature.2012.11081
  • Katherine Bourzac

参考文献

  1. Pang, C. et al. Nature Mat. 11, 791-801 (2012).