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福山型筋ジストロフィーの治療に光明

Nature ダイジェスト Vol. 9 No. 1 | doi : 10.1038/ndigest.2012.120128

原文:Nature (2011-10-06) | doi: 10.1038/478046a | A hidden ancestral legacy trumped

Masayuki Nakamori & Charles Thornton

日本人に多い「福山型」の筋ジストロフィーが、予想外のスプライシング異常で発症することがわかった。さらにこの知見に基づく治療法に関して、マウスで有望な結果が得られ、患者にとって希望の光となるかもしれない。

福山型先天性筋ジストロフィー(FCMD)として知られる遺伝性疾患は、日本で最も一般的な劣性遺伝性疾患の1つだ。幼児期から症状が現れ始め、ほとんど歩くことができず、青年期までに死亡してしまう1。原因は、フクチンと呼ばれるタンパク質をコードする遺伝子の異常である。このほど、神戸大学の池田真理子ら2は、異常fukutin遺伝子から変異タンパク質が発現する分子機構を明らかにし、さらにアンチセンス導入により回復できたことを、Nature 2011年10月6日号に発表した。

FCMDの起源は、2000年以上さかのぼる。約100世代前に、1人の日本人の先祖で、あるゲノム部位から1つのDNA断片がコピーされて、fukutin遺伝子3の最終エクソン(後述)の後(タンパク質をコードしていない領域)に再び挿入された。これは、レトロトランスポゾンと呼ばれるDNA断片がコピーされて同じゲノム内のさまざまな場所に挿入される現象で、まれではなく、出生児20人当たりおよそ1人の頻度で起こっていると推定されている4

このような遺伝学的事象が起こっても、おそらく、すぐには子孫に有害な影響はなかっただろう。fukutin遺伝子は1コピーが異常になっても差し障りはないからだ。しかし、現代の日本人に与えた影響は非常に大きい。現在、日本人約90人に1人が、この知られざる祖先に由来するレトロトランスポゾンの挿入を持っているのだ。この挿入を持つ人どうしの子どもは異常な遺伝子を2コピー受け継ぐリスクがあり、この場合はフクチンの活性が喪失する。フクチンの正確な機能は明らかになっていないが、α-ジストログリカンタンパク質への糖鎖分子の付加に関与することが知られている5,6。α-ジストログリカンは、グリコシル化と呼ばれる糖鎖付加の過程を介して適切に糖鎖修飾を受けると、細胞表面に繋留され、細胞内の細胞骨格と細胞外マトリックスとをつなぐ重要な連結軸を形成する。フクチンが存在しないと、グリコシル化が不完全で、この連結軸が形成されない。その結果、発生過程でのニューロンの移動異常、精神遅滞、筋細胞の進行性変性が引き起こされる。

FCMDは非常に重症であるが、これまで、原因となる変異が同定されればおのずと治療法の開発につながるだろうと期待して、原因遺伝子の探索が行われてきた。しかし、fukutin遺伝子にレトロトランスポゾンが挿入されていることが原因だとわかっても7fukutin遺伝子の正常コピーを回復することを目的とした遺伝子治療以外に、これといった治療法の開発にはむすびつかなかった。だが、研究者たちはあきらめずに研究を続け、原因遺伝子の発見から13年後の今、治療法への道を開いた。

当初、レトロトランスポゾンの挿入によってfukutinのmRNAがほぼ完全に存在しなくなることが示されており、レトロトランスポゾンが遺伝子発現を抑制できるという観察に合致していた。研究チームはまず、この結果を再検討しようと、レトロトランスポゾンによるfukutin遺伝子の発現への影響を詳細に調べた。その結果、転写産物に欠損している領域はあるが、fukutin mRNAの全体量はあまり減少していなかった2。ところが、fukutin転写産物のスプライシングは、劇的な影響を受けていた。(編集部註:遺伝子はタンパク質をコードしているエクソンとコードしていないイントロンという領域からなる。このイントロンも含め、まず、全体がmRNA前駆体に転写される。その後、イントロンが除去されて一続きの完全なタンパク質をコードするmRNAが生成される。この過程をスプライシングという。)

図1:fukutin遺伝子のスプライシング異常
a 正常なfukutin遺伝子は最終エクソン(10番目)内に潜在的なスプライス供与部位(青のアスタリスク)を含んでいるが、スプライシングで生じるmRNAは正常なフクチンタンパク質をコードしている。開始コドンおよび終止コドンはタンパク質をコードするmRNA配列の最初と最後を示す。
b FCMD患者では、最終エクソンの後に挿入されたレトロトランスポゾンによって、その内部にあるスプライス受容部位(赤い星)と最終エクソン内の潜在的スプライス供与部位が活性化される。このような「エクソントラッピング」のため、mRNAスプライシングが正常に行われず、翻訳後、フクチンタンパク質のカルボキシ末端の修飾やα-ジストログリカンのグリコシル化異常が引き起こされる。池田らは、スプライシング阻害アンチセンスオリゴヌクレオチド(示していない)を用いることで、スプライシング異常を修正し、正常なフクチンの発現を回復させた2

次に研究チームは、人工的に同じレトロトランスポゾンをマウスfukutin遺伝子の同じ位置に挿入してみた。すると、フクチンのスプライシングや機能に与える効果が、FCMD患者と非常に似ていた。さらに、研究チームは、最終エクソン内には潜在的なスプライス「供与」部位があり、それが活性化されて、レトロトランスポゾン配列内に生じたスプライス「受容」部位に連結されることを明らかにした。この過程はエクソントラッピングとして知られている(図1)。レトロトランスポゾンの挿入はエクソントラッピングを引き起こすことが知られているが8、これは、エクソントラッピングと疾患との明確な関連が示された最初の例である。このスプライシングの変化のため、フクチンの本来のカルボキシ末端が除去され、レトロトランスポゾン配列によってコードされるアミノ酸が付加される。このようなフクチンのカルボキシ末端の変化によって、α-ジストログリカンのグリコシル化がどのように影響を受けるのかは正確にはわかっていないが、おそらく変異型フクチンタンパク質は、正常とは異なる細胞内コンパートメント(正常フクチンはゴルジ装置、変異型フクチンは小胞体に局在)に送達されることが原因かもしれない2

さらに、このスプライシング異常を修正することで、正常なフクチンタンパク質の発現が回復できるかどうかを検討するために、研究チームはエクソントラッピングを抑制するアンチセンスオリゴヌクレオチドを設計した。これらのアンチセンス分子は、短いDNA様の断片で、fukutin転写産物がスプライシングを受ける前に、核酸ハイブリダイゼーションの規則に従って転写産物に結合し、スプライシングを修正できる。こうしたアプローチは、これまでにも、別の型の筋ジストロフィー9,10をはじめ、ほかの疾患でもスプライシング部位の抑制や変更を行うために用いられている。FCMD患者由来の細胞に、有害なスプライシングを阻害するために作製したアンチセンスオリゴヌクレオチドを導入したところ、正常なフクチンタンパク質の発現や、α-ジストログリカンと細胞外マトリックスタンパク質との結合が回復した。また、レトロトランスポゾンが挿入されたマウスにこのオリゴヌクレオチドを投与すると、筋組織において正常なフクチンタンパク質の発現が部分的に回復し、α-ジストログリカンのグリコシル化が改善した。

こうした戦略はFCMDの小児患者の治療に適用できるだろうか? おそらく適用できるだろう。しかし、FCMDに伴う脳形成異常を改善するには、子宮内での治療が必要であり、難しい治療になると考えられる。さらに、スプライシングの阻害にアンチセンスオリゴヌクレオチドを使用する場合、スプライシング過程に影響を与えるのに十分な量を細胞内に送り込むことが問題となる。細胞内への送達方法は進歩しているが10、脳や筋組織に適用可能な、一般的な方法はまだないのだ。だが、今回得られた知見は、レトロトランスポゾンの挿入とエクソントラッピングが関連するほかの遺伝性疾患にも、同様のアプローチを適用できる可能性を示唆している。

(翻訳:三谷祐貴子)

Masayuki NakamoriおよびCharles Thorntonは共にロチェスター大学医療センター(米国)。

参考文献

  1. Fukuyama, Y., Osawa, M. & Suzuki, H. Brain Dev. 3, 1–29 (1981).
  2. Taniguchi-Ikeda, M. et al. Nature 478, 127–131 (2011).
  3. Toda, T. & Kobayashi, K. J. Mol. Med. 77, 816–823 (1999).
  4. Xing, J. et al. Genome Res. 19, 1516–1526 (2009).
  5. Hayashi, Y. K. et al. Neurology 57, 115–121 (2001).
  6. Michele, D. E. et al. Nature 418, 417–422 (2002).
  7. Kobayashi, K. et al. Nature 394, 388–392 (1998).
  8. Hancks, D. C., Ewing, A. D., Chen, J. E., Tokunaga, K. & Kazazian, H. H. Jr Genome Res. 19, 1983–1991 (2009).
  9. Dominski, Z. & Kole, R. Proc. Natl Acad. Sci. USA 90, 8673–8677 (1993).
  10. Muntoni, F. & Wood, M. J. A. Nature Rev. Drug Discov. 10, 621–637 (2011).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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