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ツイッターで未来を占うスパイたち

Nature ダイジェスト Vol. 9 No. 1 | doi : 10.1038/ndigest.2012.120115

原文:Nature (2011-10-20) | doi: 10.1038/478301a | Spies to Use Twitter as Crystal Ball

Sharon Weinberger

米国の情報機関は、ソーシャルメディアの動向から、世の中の不穏な動きを予測しようとしている。

2011年秋、「ウォール街を占拠せよ」を合い言葉に、格差是正を求める米国市民が抗議行動を起こした。ネット上の情報からこうした社会現象を予測することは、可能なのだろうか。

Spencer Platt/Getty Images

未来の暴動、政変、戦争の勃発などを予測できるシステムがあったら・・・・・・。これは、すべての政府の夢である。2011年10月中旬、まさに、そうしたシステムの開発研究に対する助成金申請の提出期限が間近に迫り、いくつかの研究グループが書類の作成に追われていた。

研究支援を行うのは、米国の情報機関の研究部門であるIntelligence Advanced Research Projects Activity(IARPA)のOpen Source Indicators(OSI)プロジェクトだ。期間は3年。予算は明示されておらず、道路のウェブカメラからツイッター、テレビまで、幅広い情報源からデジタルデータを収集する。IARPAによれば、その目標は、「ニュースよりも先に」社会的・政治的出来事を予測し、情報機関に提供することにあるという。

OSIプロジェクトは、最初のうちは、ラテンアメリカのみを対象とする。ラテンアメリカでは大量のデータが公開されていて、研究者たちのモデルを試すのに便利だからだ。こうしたモデルの基礎となる戦略は、すでに疾患の流行や消費者行動の予測に関しては有望な成果を挙げており、米国の国家安全保障機関の間で普及してきている(Nature 471,566-568; 2011参照)。

実のところ、OSIプロジェクトは、米国の国家安全保障機関が支援する数多くのプロジェクトの1つにすぎない。こうしたプロジェクトでは、社会科学に数学やコンピューター科学、経済学を組み合わせて社会的・政治的な予測を行うという、新しい研究分野を創造しようとしている。まさに、アイザック・アシモフの小説に登場する「心理歴史学」のようなものだ。

OSIプロジェクトには、さまざまな研究機関や企業の研究グループが申し込んでいる。マサチューセッツ工科大学(米国ケンブリッジ)の集合知センターのコンピューター科学者Peter Gloorらは、ソーシャルメディアをはじめ、ネット上の情報源を利用して消費者行動(例えば、ハリウッド映画のチケットの売上高)を予測するモデルの構築に取り組んでいる。「興行収益の予測の精度は約90%です」とGloorは言う。また、ハーバード大学医学系大学院(米国マサチューセッツ州ボストン)の疫学者John Brownsteinのグループは、国際ニュース、政府のデータ、ソーシャルメディアを分析して、疾患の流行を初期段階で警告しようとしている。「我々が調べている活動パターンは、疾患の流行だけでなく、紛争、環境災害など、さまざまな社会的混乱の予測にも当てはまることが多いのです」とBrownsteinは話す。

しかし、疾患の流行における生物学的監視プログラムの有効性については異論がある。Ascel Bio社(米国ニューヨーク)の共同設立者である医学博士のJames Wilsonは、H1N1亜型インフルエンザの流行のきざしを察知できても、誤った警告を乱発してしまったら、あまり役に立たないと言う。「コンピューターを使ってデータを収集することと、コンピューターを使って情報を動かし人々に行動を起こさせることとの間には、非常に大きな違いがあるのです」とWilsonは言う。Ascel Bio社もOSIプロジェクトの助成金を申請している。

大量のデータを処理する

一方で、こうしたアプローチは金融部門には魅力的だ。同じく、OSIプロジェクトの助成金を申請しているRecorded Future社(米国マサチューセッツ州ボストン)の最高責任者Christopher Ahlbergによると、同社には、1時間に30万の情報源を調べて株式市場の変動予測のてがかりを探すプロプライエタリー・ソフトウェア(フリーソフトウェアの対義語で、さまざまな方法で使用、改変、複製が制限されているソフトウェア)があると言う。同社はすでに米国CIAが設立したベンチャーキャピタルIn-Q-Tel社(米国バージニア州アーリントン)から投資を受けて、ツイッターなどのオンライン情報源のデータマイニングを行い、サイバー攻撃や、最近の「ウォール街を占拠せよ」のような抗議行動の発生を予測しようとしている。

イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校(米国)のコンピューター科学者Kalev Leetaruによると、オープンソースに基づいて株式市場の変動の大きさを予測することについては、すでに多くの論文が発表されているという。しかし、次の水曜日に暴動が起こることを予測できるようになるのは、ずっと先のことであろう。Leetaruのグループでは、OSIプロジェクトの申し込みに際し、特定の出来事に集中するのではなく、「アラブの春」運動のような動向の予測も含めた、もっと幅広いアプローチは考えていないのかと聞いてみた(http://www.nature.com/news/2011/110913/full/news.2011.532.html参照)。返ってきた回答は「そういうものは考えていない」だった。「たとえるなら、米国立衛生研究所が、個々のがんを標的とする薬やがんの進行を遅らせる薬の研究への助成をすべて打ち切り、1錠飲めば翌朝にはがんが治癒する『奇跡の薬』の研究だけを助成すると言い放つようなものです」とLeetaruは言う。

アメリカン大学(米国ワシントンD.C.)の人類学者でラテンアメリカの社会運動の専門家であるRobert Albroは、IARPAはソーシャルメディアから質の高いデータが得られることを前提としているが、それは間違っていると指摘する。「データが利用できるというだけで、その質が高いとは限らず、夢の王国へのカギになるかはわからないのです」。

より大きな疑問は、消費者の選択や疾患の流行の予測に用いられるモデルが、社会変革や政治的事件などの複雑な世界に適用できるのかということだ。Albroは、このようなモデルでは人間に意思決定や行動の動機付けについて不完全な仮定をしていると言う。「IARPAの考え方は、消費者行動を分析する企業に毒されているのです。盲信といってもよいでしょう」。

(翻訳:三枝小夜子)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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