News

大型動物はなぜ消えた?

化石、気候記録、およびDNAに関する大規模な分析の結果、マンモスやケサイなどの大型動物は、さまざまな致命的な要素が絡み合って絶滅したという発表が、先頃あった1。コペンハーゲン大学(デンマーク)のEske Willerslevをリーダーとする研究チームは、大型動物相の6種について過去5万年にわたって運命を調べ、人類が関与している絶滅は一部であり、大部分は気候の変化と生息地の喪失が関係していると結論付けた。しかし、大量死の理由を説明する明確なパターンは見いだされず、現生種について絶滅のリスクを生息地や遺伝的多様性から予測するのは不可能であるとしている。

Willerslevは、「絶滅はランダムな過程だと思われます。同じ状況を実験で再現したら、マンモスが生き残ってトナカイが絶滅するかもしれません。そうしたら、マンモスがサンタクロースのそりを引いていたかもしれないですね」と話す。

大型動物相の終末

5万年前、地球上には150種類もの大型動物が闊歩していた。マンモスやオオナマケモノ、ホラアナグマがその代表例だ。だが、その3分の2は、4万年の間に絶滅してしまった。研究者の中には、この時期に人類が世界中に広がったために、高度な技術を持つ人類が徹底的に狩り尽くしてしまったと言う者もいる。氷期が終わって温暖になり、生息地が変化したためだとする研究者もいる。このように諸説紛紛あるのは、大型動物相の絶滅に関する一般的な結論を導き出そうと、世界中のさまざまな動物を対象にさまざまな方法で推定したためだ、とWillerslevは言う。今回Willerslevらは、整合性の高いパターンを得るため、マンモス、ケサイ、野生のウマ、トナカイ、ステップバイソン、およびジャコウウシの個体数変化を表す図を作成した。気候記録および数百点の化石から、4万2000年~6000年前までのヨーロッパ、アジア、北米におけるこれらの動物の生息範囲について、経時的な動向を表し、さらに、古代のミトコンドリアDNA配列に基づいて、概算の個体数を推定した。

そこから、研究チームは次のように考察した。これらの動物のほとんどは、ステップ・ツンドラ環境を生息域としており、そうした環境が広がった最後の氷期に隆盛を極めた。その後、気候が温暖になると、ケサイやマンモス、ユーラシアのジャコウウシは、個体群の分断化が進み、絶滅してしまった。ただし、絶滅時期には数千年のずれがあり、それぞれの生息範囲が変化するパターンも一様ではなかった。例えば、ケサイは約1万4000年前に絶滅するまでヨーロッパとアジアの広範囲に生息していたが、マンモスの生息範囲は約6000年前に姿を消すまで徐々に北上して狭まっていった。

一部の種の絶滅は人類と無関係であろう。例えば、ジャコウウシの化石は人類の居住地ではほとんど発見されておらず、生息範囲も人類とほとんど重なっていない。最後の氷期以降に生息範囲が縮小していったことから、おそらく気候の変化のみがユーラシアでの絶滅につながったと考えられる。一方、人類の関与が疑われるケースもある。野生のウマは、ごく最近までヨーロッパとアジアに生息していたが、ヨーロッパとシベリアの人類遺跡の3分の2でその骨が発見されており、人類の関与がうかがわれる。

予測不能

今回、遺伝的多様性や生息範囲から将来的な絶滅を予測する方法は、見いだせなかった。Willerslevは、現生種の絶滅リスクを見極めるのは難しいのだと言う。

これに対し、カリフォルニア大学バークレー校(米国)のAnthony Barnoskyは、こうした絶滅から、気候変化と人類の拡大による現生種の絶滅の予見は可能だと言う。しかし、個々の種を生物学的、生態学的によく観察したほうが、絶滅しそうな種のヒントを得られるだろうとも言う。

一方、マックマスター大学(カナダ・ウェストハミルトン)のHendrik Poinarは、現代の小型動物や植物の絶滅にまで大型動物相の危機を当てはめるのは、誤った結果を導きかねない、と警告する。「マンモスに何が起こったのかは興味深いことです。でも、現代の生物を考えるとき、大型動物相は動物相全体のごく一部にすぎないのです」。

翻訳:小林盛方、要約:編集部

Nature ダイジェスト Vol. 9 No. 1

DOI: 10.1038/ndigest.2012.120105

原文

How mammoths lost the extinction lottery
  • Nature (2011-11-02) | DOI: 10.1038/news.2011.626
  • Ewen Callaway

参考文献

  1. Lorenzen, E. D. et al. Nature http://dx.doi.org/10.1038/nature10574 (2011).