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海底にはお宝がザックザック

Nature ダイジェスト Vol. 8 No. 9 | doi : 10.1038/ndigest.2011.110902

原文:Nature (2011-07-03) | doi: 10.1038/news.2011.393 | Sea holds treasure trove of rare-earth elements

Nicola Jones

太平洋海底の泥は、現代技術に欠かせないレアアースを大量に含んでいる。

ランタンやネオジムなどのレアアース(希土類)は、パソコンから洗濯機まであらゆる現代機器に重要な資源である。需要は増加の一途をたどっており、1980年代の3万tから、2010年には約12万tまで拡大した。これは、年間生産量の約11万2000tを上回っている。名前に「レア(希少な)」という言葉が入っているが、レアアースは地質学的に希少な元素ではない。ところが、世界生産の約97%を占める中国が、近年、輸出を厳しく制限し、価格の高騰と各国の備蓄の減少を招いている。このため現在、米国、カナダ、オーストラリアなど、世界中で新しい鉱床の開発が進んでいる。

そんななか今回、東京大学地球システム工学専攻の加藤泰浩らの研究チームが太平洋の海底資源を調査し、海底の泥に含まれるレアアースの濃度が高い「ホットスポット」のリストをNature Geoscienceに発表した1。彼らの見積もりによると、含有量が最も高い地点周辺1km2の泥には、現在の世界の年間需要の20%に当たるレアアースが含まれているという。これは、陸上の小規模な鉱床の産出量に相当する。だが、海底に堆積している資源の大規模な採取は、多額の費用を要するだけでなく、海底の生態系に悪影響を及ぼすおそれもある。

海底に眠る宝

海に大量のレアアースが存在している可能性は、ずっと前から知られていた。海底の熱水噴出孔からは熱水に溶けたレアアースが吹き出し、それはやがてほかの元素とともに海底で集積してジャガイモ大のマンガン団塊になる。こうした元素は海底の泥にも堆積するが、これまで、泥に含まれるレアアースの量の測定は、少数の地点でしか行われていなかった。

研究チームは今回、海底の泥に含まれるレアアース量を広い範囲で評価した。太平洋全域の78の地点から採取した2000の海底堆積物試料を調べ、南東太平洋の泥には0.2%、ハワイ付近では0.1%のレアアースが含まれることを明らかにした。研究チームによれば、これは、現在中国で操業中のある粘土鉱床の含有量と同じか、それ以上なのだという。一部の海底堆積物の厚みは70m以上あり、研究チームは、ハワイ付近のホットスポットの周囲には1km2当たり2万5000tのレアアースが含まれると見積もっている。

さらに、海底全体の合計は、陸上の推定埋蔵量1億1000万tよりずっと多いと考えられるという。そのうえ、海底堆積物は特に重いレアアース(重レアアース)も豊富に含んでいる。重レアアースは、より希少で高価な金属である。

採算は取れるか?

加藤は、レアアース資源泥に商業的な採算性があるかどうかはわからないという。

Technology Metals Research社(米国イリノイ州カーペンターズビル)というコンサルタント会社の設立者で産業アナリストのGareth Hatchは、「昔から、小惑星や月の鉱物を採掘するという話はあります。それに比べれば海底の泥を採取することは容易でしょうが、似たようなものです」と言う。また、現在採掘されている陸上の鉱床や、将来の採掘が予定されている鉱床のレアアースの含有量は3~10%であると指摘する。確かに、前出の中国の粘土鉱床の含有量はこれよりずっと低いが、資源が固い岩の中ではなく粘土の中にあるので容易に採掘でき、採算が取れているのだ。深さ4000~5000mの海底の泥からレアアースを採取するには、船の使用時間を考えても必要設備を考えても高額になるため、採算が合うとは考えにくい。

ハワイ大学マノア校(米国)の海洋学者Craig Smithによると、現在、複数の企業が、海底のマンガン団塊を採取して、銅やニッケル、レアアースなど、商業的に価値のある資源を抽出する方法を模索しているという。彼によると、マンガン団塊の商業的な採取が始まるのは「おそらく10年先」であるという。海底の泥は、今後、価値を増していく元素の供給源の1つになるかもしれない。

一方でSmithらは、深海の泥の採取が、環境、特に熱水噴出孔の周囲に及ぼす影響を心配している。熱水噴出孔の周囲には、ほかの場所にはいない、珍しいチューブワームや二枚貝などが生息しているからだ。加藤は、海底の泥から金属を採取しても熱水噴出孔に影響を及ぼすことはないという。今回見つかったホットスポットのうち、レアアースの含有量が最も高いものは、熱水噴出孔がある場所から数千kmも離れており、それよりも近いところでは、ほかの堆積物のせいでレアアースの濃度は低いからだ。けれどもSmithは、熱水噴出孔から離れた場所でも海底生物に影響を与えるおそれがあると指摘する。海底の生態系の再生には非常に長い年月がかかるため、ダメージを受けた場合、回復するまでに数十年から数百年という長い歳月を要するというのだ。

(翻訳:三枝小夜子、要約:編集部)

参考文献

  1. Kato, Y., et al. Nature Geosci. 4, 535–539 (2011).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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