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海王星の1日は15時間57分59秒

1989年8月にボイジャー2号が接近したときに撮影した海王星。 Credit: NASA

7月中旬、海王星は、1846年の発見以来、初めて太陽の周りを1周した。

太陽系の一番外側にある青い惑星、海王星。地球の隣人たちの中で最も謎に包まれた惑星の1つである。これまで、海王星の1日の長さは約16時間6分とされていた。しかし今回、アリゾナ大学月惑星研究所(米国トゥーソン)のErich Karkoschkaは、15時間57分59秒とはじき出した1

火星や水星など、岩でできた天体の自転速度の決定は簡単だ。画像で表面を観察し、特徴的な地形の動きを追跡すればよいのだ。しかし、海王星は厚い雲に覆われていて、地表面は見えない。外側から見える唯一の特徴は大気中の嵐だ。この嵐は移動するが、それは惑星の自転と大気中の前線の移動があいまったものだ。これまで海王星の1日の長さは、米国航空宇宙局の惑星探査機ボイジャー2号が1989年にフライバイ(接近通過)を行った際に観測した電波信号をもとに見積もられていた。しかし、土星の研究から、こうした信号はかつて考えられていたほど惑星の自転と明確には関係しないことがわかってきた。

そこでKarkoschkaは基本的な方法に立ち戻った。海王星には「South Polar Feature」と「South Polar Wave」と呼ばれる2つの雲の擾乱がある。今回、この2つの擾乱の惑星上の位置はきわめて安定していることがわかった。こうした擾乱は、雲の下深くにある地表面の特徴、おそらく固体の中心核のホットスポット(高温部)に関係していると思われる。「これらは、山の上に発生する雲に似ています。雲そのものは移動してしまいますが、その現象自体は惑星上の一つ所にとどまります」とKarkoschkaは説明する。

Karkoschkaは、20年にわたってハッブル宇宙望遠鏡で撮影された500枚の画像から、2つの擾乱の位置を丹念に調べ、海王星の自転速度を±0.0002時間(約0.7秒)の精度で決定した。

惑星の自転速度を正確に調べるのは興味だけが理由ではない。「自転速度は惑星の内部構造モデルに制限を加えます。自転速度を知れば、海王星内部の質量分布を決定できるのです」とKarkoschkaは話す。

また、海王星が、内部の固体部分とこれほど強く関連した大気の特徴を持つことも興味深い。「太陽系には、海王星を含め4つの巨大惑星がありますが、こうした現象は見つかっていませんでした」とKarkoschkaは話す。

誕生もまた謎

海王星は多くの謎に包まれている。Karkoschkaの発見も、新たな謎をもたらした。常に雲の擾乱を作り続ける熱源だ。

さらに不思議なのは、海王星の磁場の源だ。木星と土星の磁場は、金属水素の運動の結果、生じていると考えられている。金属水素は、地球大気の数百万倍もあるガス惑星内部の圧力により形成されているとみられる。しかし、海王星は木星や土星より小さく、内部の圧力も低い。ミシガン大学アナーバー校(米国)の惑星科学者Sushil Atreyaは、「海王星で金属水素が形成されているとは思えません」と話す。

海王星の存在そのものにも疑問がある。海王星は、地球の30倍も太陽から遠く離れている。カリフォルニア大学サンタクルーズ校(米国)の惑星科学者Francis Nimmoは、「惑星形成モデルでは、これだけ遠く離れていると原始太陽系星雲はきわめて希薄だったと考えられます」と話す。太陽系の惑星は原始太陽系星雲が凝縮してできた。このため、海王星は原始太陽系星雲がもっと濃い太陽の近くででき、その後外側へ移動したと考えられている。しかし、Nimmoによれば、ほかの惑星系の海王星質量の惑星の多くは、外側ではなく内側へ移動したようだという。カリフォルニア大学バークレー校(米国)の天文学者Geoffrey Marcyは、「海王星の謎は、海王星に外見上似ている数百個の太陽系外惑星の謎でもあるのです」と話す。こうした謎の解明には、「将来、海王星の大気中に進入できる探査機を送ることが最善の策です」と、Atreyaは語る。

願わくば、海王星が太陽の周りをもう1周するまでに。

翻訳:新庄直樹

Nature ダイジェスト Vol. 8 No. 9

DOI: 10.1038/ndigest.2011.110903

原文

Neptune begins to give up its secrets
  • Nature (2011-07-07) | DOI: 10.1038/news.2011.403
  • Richard Lovett

参考文献

  1. Karkoschka, E. Icarus doi:10.1016/j.icarus.2011.05.013 (2011).