Editorial

科学者が高校教育の現場に入る

Nature ダイジェスト Vol. 8 No. 8 | doi : 10.1038/ndigest.2011.110827

原文:Nature (2011-05-12) | doi: 10.1038/473123a | Those who can

1000人の科学者が高校を訪問して、理科教師に力を貸し、米国の教育の質の向上をめざす取り組みが始まる。

多くの先進国が、高校における科学教育という慢性的な問題を抱えている。特に米国の研究者は、STEM(科学、技術、工学、数学)教育における生徒の成績低下をいやというほど感じている。1人の科学・数学教師が気付いたように、この問題の解決には、実は強力な助っ人がいる。その人材とは、そう、あなたのような科学者自身なのだ。

しかし、あなたはこう考えるかもしれない。多くの教師や政策担当者が苦労してもうまくいかないのに、どうしてこの私が、子どもたちにインスピレーションを与えて、科学好きにさせられると思うのか。研究や助成金申請書作成で忙しいのに、こんなことのために時間を割けると思うのか、と。

あなたの経験はきっと役立つはずだし、助けてくれる人たちもいる。それがScientific Americanの新プロジェクト「1,000 Scientists in 1,000 Days(千日に千人の科学者を)」で、「Change the Equation(方程式を変える)」プログラムの一環として進められている。このプログラムは、STEM教育に対して博愛精神に基づく個人参加を促そうというオバマ大統領の政策ミッションを実現する手段の1つだ。参加申込書はwww.scientificamerican.comの「Education」のタブをクリックすると見つかる。

Scientific AmericanNatureの姉妹誌であり、Natureとしてもこの取り組みを後押しできてうれしく思う。

科学者が地元の学校で自らの典型的な一日について語れば、科学に対する神秘性や垣根を取り除けるかもしれない。教育委員会にカリキュラムや特定の研究分野について助言することもありうる。電子メール、テレビ会議やスカイプで質問に答えるだけでもよい。参加の方法や頻度は、自身が決めればよい。Scientific Americanとしては、新学期が始まる9月頃に研究者と教師を引き合わせたいと考えている。

科学者が高校を訪れる価値を知ってもらうために、もう少し背景事情を説明したい。昨年発表された全米アカデミーの報告書によれば、理工学分野の大学卒業者比率で、米国は富裕国29か国中27位の低さだった。報告書は、連邦政府と州政府に対して、特に重要な科目の教師養成を支援し、幼児教育と公立学校カリキュラムに的を絞って、数学と科学の教育を改善するよう求めた。

米国では、初等教育の低学年を担当する理科の教師は、科学教育を受けていない。米国立科学財団(NSF)の最新統計(2004年)によれば、数学と科学の教育課程の学位ないしは修了証を持った教師の授業を受けた生徒は、5年生でわずか40%、8年生(中学2年生)でも80%だった。

教師には、機械的な大量の学習が必要な「試験のための教育」も求められる。それと同時に、科学の感動を伝え、プロセスを重視した批判的思考法を教え、正当な研究に必要な証拠収集の仕方を教えることも求められる。これら2つは矛盾することが多く、教師は苦労している。さらに、進化や気候変動のようなテーマについては、論争も教えろという要求に取り組まねばならない。全米科学教育センターによれば、2011年1月以降、米国の州議会には進化論に反対する趣旨の反科学的議案が8本も提案されている。

オバマ大統領は、窮地に立つ米国経済の「将来的な勝利」のためには、研究、イノベーション、教育への投資が必要だと演説した。また、この1月の一般教書演説では、科学博覧会の優勝者は、スーパーボウルの優勝チームと同じくらい称賛されるべきだと述べ、1878年以降毎年ホワイトハウスの芝生で行われている子どものためのイベント「イースター・エッグロール」で体験型の科学活動を始めた。

オバマ大統領は、2010年9月に「Change the Equation」プログラムを発表した際に、「我々の国家としての成功は、世界の新発見とイノベーションの推進者としての我が国の役割を強化できるかどうかにかかっている」と語った。

ネイチャー・パブリッシング・グループは、「Bridge to Science(科学への橋渡し)」という広範なプロジェクトを展開しており、親・教師・政策担当責任者のニーズをくみ上げ、究極的には科学全体の発展に取り組もうとしている。その6プロジェクトの1つが「1,000 Scientists in 1,000 Days」で、当面は米国のニーズに応えることを目標としており、すでに230 人以上の科学者が参加を申し込んでくれている。

(翻訳:菊川要)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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