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研究室発のサルモネラ感染

Nature ダイジェスト Vol. 8 No. 8 | doi : 10.1038/ndigest.2011.110819

原文:Nature (2011-05-12) | doi: 10.1038/473132a | Salmonella hits US teaching labs

Erika Check Hayden

微生物研究室からの感染多発を受け、バイオセーフティーの実態調査が始まった。

2010年、米国各地の研究機関でサルモネラ感染が相次ぎ、これを受けて公衆衛生当局は、研究機関が感染防止策の手順をどの程度守っているのか、調査に乗り出した。

「こうした事例は米国全体で起こっているとみられるので、研究施設の安全性や研修方法に問題があるのではないか、という疑問が浮上したのです」とニューメキシコ州保健局(米国サンタフェ)の疫学者Mack Sewellは話す。

米国疾病対策センター(CDC;ジョージア州アトランタ)の2011年4月28日付の報告書によれば、2010年8月から2011年3月までの間に、サルモネラの中でも比較的ありふれたネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)の感染によって、35の州で73名が発症し、1名の死者が出た。この流行は現在は収束したとみられており、新たに報告される感染例は週に0~4件程度で、平常時の数値まで下がったとCDCは説明している。

ネズミチフス菌は食中毒をよく起こす菌で、過去何回かの集団食中毒との関連が明らかになっている。しかし、今回の多発感染が違っているのは、CDCの報告にあるように、感染源をたどっていくと、発症例の多くが医療もしくは学生実習を担う研究機関に行き着いたことだ。

CDCは、今回の感染で発症した32名について徹底的に調査し、その60%が発症前の1週間に、微生物研究施設と何らかの形でつながりがあったことを見つけた。これに対して、当局に報告されたほかの感染症の場合(発症者64名)、微生物研究施設とつながりがあったのは2%だった。また、今回のネズミチフス菌株は、発症した職員や学生と関係のある複数の研究室で使われていた市販の菌株と、遺伝学的に同一であることがニューメキシコ州保健局によって明らかになった。発症者の中には、研究や実習の現場でサルモネラを扱っていたと話す者もいた。

研究室での感染は珍しいことではない。2002~2004年に行われた88の研究室の自主的調査では、この期間中に33%の研究室が、研究室を感染源とする1件以上の感染を経験しており、その中にはサルモネラ感染が6件あった(E. J. Baron and J. M. Miller Diagn. Microbiol. Infect. Dis. 60, 241–246; 2008)。2008年、CDCは研究室起源のサルモネラ感染の発生について調査するために委員会を招集したが、報告書はいまだに公表されていない。

それでも、研究室発の感染が米国各地で相次いで起こるというのは異例のことだ。CDCは現在、これがどのようにして起こった可能性があるのか調査中であり、その一環として、米国微生物学会(ASM;本部はワシントンD.C.)や公衆衛生研究所協会(APHL;メリーランド州シルバースプリング)の会員を対象に、バイオセーフティー対策の実施状況を調査している。

CDCが危惧している点はほかにもある。今回の一連の感染で発症した人のうち、幼児など一部の患者は、本人は研究施設を一度も訪れたことはないが、研究施設で作業していて発症しなかった人と同居していたのだ。これはつまり、研究施設で作業する人間が病原性細菌をバッグや衣服その他の物に付着させて帰宅したことを意味している。このことを指摘したのは、CDCのCasey Barton Behraveshだ。

さらに、学生実習をする研究施設で、果たして病原性を持つサルモネラ菌株を使う必要があるのか、という疑問も提起されている。「代わりに使える非病原性もしくは弱毒化したサルモネラ菌株がありそうなものですが」とBarton Behraveshは言う。

差し当たって公衆衛生当局は、すべての研究機関の職員らに、適切なバイオセーフティー対策手順をもっときちんと順守するよう勧告している。Sewellは、そうした予防策の重要性を強く印象づける方法の1つとして、かつて、自身の指導教授に言われた言葉を引き合いに出した。「先生は僕らにこう言っていました。実習で扱っている病原体に感染した学生には、問答無用で『不可』をつけるから、覚悟しておくように、ってね」。

(翻訳:船田晶子)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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