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人間活動を指標に、新たな地質年代

Nature ダイジェスト Vol. 8 No. 8 | doi : 10.1038/ndigest.2011.110814

原文:Nature (2011-05-12) | doi: 10.1038/473133a | Human influence comes of age

Nicola Jones

人類の影響が認められる年代区分「人新世」を設定すべきかどうか、地質学者が議論を重ねている。

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人間の活動が地球に大きな影響を与えていることは否定しがたい。しかしそれは、地質学的な時代区分を変えるほど大きいのだろうか。地質年代区分は、代・紀・世・期で定められており、現在は新生代第四紀完新世である。今、人間活動が地質学的な記録を大きく変えているため、完新世を「人新世」に切り替えようという提案が出されている。2011年5月11日、ロンドンに集まった地球科学者たちは、この提案の妥当性や定義について議論を重ねた。

会議を主催した英国地質調査所(ノッティンガム)の気候変動プログラムのリーダーMichael Ellisは、「現在、その正式な承認に向けて作業を進めているところです」と語る。Ellisらは、この用語が採用されることによって、政策立案者の問題意識が変化することを期待している。「人類が地球に対してどれだけ大きな影響を及ぼしているか、政策立案者に思い起こさせるはずです」とEllisは話す。

しかし、全員がこの考え方を支持しているわけではない。会議の共催者であるレスター大学(英国)の層序学者Jan Zalasiewiczは、「時期尚早と考える人もいれば、傲慢、無意味と考える人もいると思います」と打ち明ける。自身については、「公式には完全な中立を保っている」と言い切るZalasiewiczは、国際層序委員会(ICS)での検討作業グループも取り仕切っている。ここは、地質学的時代の命名を管理する組織だ。

人新世(Anthropocene)という用語を2000年に最初に作り出したのは、現在マックス・プランク化学研究所(ドイツ・マインツ)に所属するノーベル賞受賞者のPaul Crutzenらである。その後、この用語は、学術界の俗語ではなく技術的な専門用語であるかのように、査読付きの論文に現れるようになった。

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Zalasiewiczが言うところの「起訴のための証拠」は、なかなか説得力がある。例えば食糧生産と都市化により、人類は、地球上の氷に閉ざされていない陸地の半分以上に手を加え1(上グラフ「生物圏の変化」を参照)、岩石や土壌を自然のプロセスの10倍の規模で動かしている2。大気中の二酸化炭素濃度の上昇により、海水のpHは、今世紀末には酸性側に0.3~0.4傾くことが予想されている。それが、淡色の炭酸塩の貝殻や海底の岩石を約1000年にわたって溶かし続け、未来の地質学者は、それによって生じた海底堆積物の暗色の帯(地層)をはっきりと目にすることになるだろう。それと似た暗色の縞は、約5500万年前の「暁新世/始新世境界温暖化極大イベント」の目印となっており、このとき、地球の温度は2万年で6℃ほど上昇した。一部の高排出量シナリオ3によれば、気温は2100年までにこれと同じくらい急上昇するという。

化石記録にも大変動があるだろう。Zalasiewiczによれば、今や広い範囲に生息している種の約20%が侵入種なのだという。「世界的に見て、それは全く新しい変化です」。3月3日のNatureに掲載された総説論文4では、現在「絶滅寸前」とされている種が消失すれば、これは過去5億4000万年の間に5回しか起こっていない規模の大量絶滅に該当するだろう、と結論付けている。過去の5回は、いずれも地質学的時代の転換期になっている。

ICSには、新たな「世」を正式に認めることに慎重な声もある。ICSの委員長でカリフォルニア州立大学(米国ロングビーチ)の地質学者であるStan Finneyは、「一番の心配は、それを推進している人々が、必要な科学的検討と評価を行っていないことなのです」と話す。Finneyは、新しい言葉を一般に広めることだけに集中しようという考え方には慎重姿勢をとる。

別の意見として、1つの「世」は数千万年続くのが普通だという声がある。現在の「完新世」は、1万1700年前に始まったばかりだ。もし新たな「世」の幕開けを宣言すれば、地質学的年表を馬鹿げたほど圧縮してしまうことになる。これに対して、人新世の支持派は、近年の歴史は短く細かいまとまりに分けるのが自然だ、と主張する。これらの議論を考えると、「世」の下位区分である「期」の切り替わりとしたほうが、異論は少ないかもしれない。人新世でなく「人新期」にするのだ。

新しい時代区分を認めることに科学者が大筋で合意すれば、次は、その起点となる地質学的標識を設定することが必要になる。それには栽培植物の花粉がいい、という考え方がある。農耕が開始された5000~1万年前に人類の痕跡が見られるというのが根拠だ。一方で、18世紀後半、産業化が始まったときに見られる温室効果ガスと大気汚染物質の増加を支持する意見もある。あるいは、核兵器の開発を示す1945年の放射性同位体の出現を始まりとする考え方もあるようだ。

人新世が「世」としての承認に値するという決定を作業グループが下せば、ICSでの投票に舞台は移る。しかし、最終的に決着がつくまでには時間がかかる。ほかの地質学的時代の決定では、数十年かかったこともあったのだ。したがって、当分の間、この言葉をめぐる議論は、現在と過去の地球の変化を比較して「興味深い科学的追究を進める口実であり続けるだろう」とZalasiewiczは語っている。

(翻訳:小林盛方)

参考文献

  1. Ellis, E. C. Phil. Trans. R. Soc. A 369, 1010–1035 (2011).
  2. Zalasiewicz, J., Williams, M., Haywood, A. & Ellis, M. Phil. Trans. R. Soc. A 369, 1036–1055 (2011).
  3. IPCC Climate Change 2007: The Physical Science Basis (IPCC, 2007).
  4. Barnosky, A. D. et al. Nature 471, 51–57 (2011).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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