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孤独な惑星がいっぱい

Credit: NASA/JPL-Caltech

我々の銀河系には、木星ほどの質量の、自由に漂う惑星が至るところにあるらしい。おそらく、親星の周囲を回る代わりに、銀河系の中心の周りを回っているのであろう。このような惑星はまれな存在ではなく、最もありふれたタイプの恒星の2倍近い数もあるかもしれないという。そんな論文がNature 2011年5月19日号に発表された1

研究チームは銀河系バルジ(銀河系中心部の膨らみ)に望遠鏡を向け、重力マイクロレンズ効果という現象を利用して、恒星から離れたところを漂う木星質量の惑星を10個発見した。さらに、検出効率、重力マイクロレンズ効果の起こる確率、重力マイクロレンズ効果のうち恒星や惑星が引き起こすものの相対的割合に基づいて、銀河系内の浮遊惑星の数を計算し、4000億個もあると結論付けた。

論文著者の1人で、大阪大学の宇宙物理学者、住貴宏は、「親星を持たない惑星の推定数を算出して、私自身驚きました。これまで、自由に漂っている惑星が存在することは予測されていましたが、その数まではわからなかったのです」と話す。

これについてエール大学(米国コネチカット州ニューヘヴン)の天文学者Debra Fischerは、「驚くべき研究結果で、もし正しければ惑星形成理論はもっと奥深いものになるでしょう」と話す。現在の惑星形成理論によると、小質量の惑星は大質量の惑星よりも形成中の惑星系から放り出されやすい。だから、莫大な数の親星を持たない小質量惑星が存在するかもしれないのだ。

重力のレンズ

この研究は、住らのMOA(宇宙物理学における重力マイクロレンズ効果観測)とOGLE(光学重力レンズ効果実験)という2つの国際共同研究プロジェクトによって行われた。重力マイクロレンズ効果を使った測定では、遠方にある恒星の前を天体が通過するときに起こる、明るさの変化を測定する。前を横切る天体の重力が恒星の光をレンズのように曲げて強めるため、恒星の明るさはランダムなきらめきとは異なるパターンで明るくなり、天体の通過後、元の明るさに戻る。この明るくなる時間の長さから、通過した天体の質量がわかるのだ。

カリフォルニア大学サンタクルーズ校(米国)の天文学者Gregory Laughlinは、「住らは、光を曲げる天体が惑星以外のものである可能性をうまく除外することに成功しました」と評価する。しかし、「浮遊小質量惑星の数を、木星質量の浮遊惑星数から推測することには問題があります」とも指摘する。そうした推定は、それらの惑星が太陽系の惑星と同様のメカニズムによって形成されたと仮定しているからだ。「私は、浮遊惑星は別のメカニズムで生まれるのではないかと考えています。それは巨大惑星の形成よりも小さな恒星の形成に似たものではないでしょうか。単なる仮説にすぎませんけどね」とLaughlinは話す。

生命は存在するか

カリフォルニア工科大学(米国パサデナ)の惑星科学者David Stevensonは、惑星系から追い出された惑星の表面温度が親星に束縛された惑星に近くなる可能性について考察している2。もし、木星が太陽系から放り出されても表面温度は15K程度しか低下しないだろう。それでも生命を育むには適さない。しかし、Stevensonは、「きわめて巨大な惑星が放り出される場合、衛星を伴っている可能性があります。その場合、生命存在の可能性は高くなるでしょう」と話す。また、こうも語る。「地球程度の質量の浮遊惑星が低温の星間空間にあったとしても、熱を閉じ込める水素大気を持っていれば、表面温度は300K(約27℃)くらいまで上がる可能性があり、海が存在するかもしれません」。

論文著者の1人、ノートルダム大学(米国インディアナ州)の宇宙物理学者David Bennettも、生命存在の可能性に同意する。そして、「次のステップは、これらの惑星に親星が存在しないことを確かめること、土星や海王星程度のより小さい質量を示すようなデータを得て詳しく調べることです」と話す。

将来、米航空宇宙局(NASA)が計画しているWFIRST(広視野赤外線宇宙望遠鏡)を利用すれば、地球程度の質量の浮遊惑星が見つかるかもしれない。

翻訳:新庄直樹、要約:編集部

Nature ダイジェスト Vol. 8 No. 8

DOI: 10.1038/ndigest.2011.110802

原文

So many lonely planets with no star to guide them
  • Nature (2011-05-18) | DOI: 10.1038/news.2011.303
  • Nadia Draken

参考文献

  1. The Microlensing Observations in Astrophysics (MOA) Collaboration & The Optical Gravitational Lensing Experiment (OGLE) Collaboration. Nature 473, 349-352 (2011).
  2. Stevenson, D. J. Nature 400, 32 (1999).