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鳥は恐竜から進化した ー 論争についに終止符

田村 宏治

Nature ダイジェスト Vol. 8 No. 6 | doi : 10.1038/ndigest.2011.110624

鳥類が恐竜の子孫、と言い切るには、解決しなくてはならない問題が横たわっていた。生き物の形が、どのように作られていくのかを探っている発生学者、田村宏治教授(東北大学)が、その難問を解いた。ニワトリの指の発生を調べていくうちに、大昔に生きた恐竜と現在の鳥類とのつながりが、はっきりと見えてきたのだ。

––Natureダイジェスト:鳥と恐竜の進化をめぐる論争に終止符を打ったと、今回の研究は大変な話題ですね。

田村:反響の大きさに驚いています。

150年前に始祖鳥の化石が発見されて以来、「鳥類の祖先は恐竜」という仮説が提唱されてきました。反論はあったものの、現在では証拠が揃い、恐竜(獣脚類)から鳥類が進化してきたことは、99%確からしいといわれています。

しかし、100%ではない。なぜか。それは、鳥類と恐竜では「指の番号」が違う、という指摘があったからです。最後に残されたこの問題点を、今回、解くことができたわけです1

––指の番号とは?

指は、親指から小指に向かって、5本の各指を、1~5の番号で呼びます。鳥類、恐竜、あるいはカエルやヒトなど、動物の指の本数は多様ですが、進化の過程で、もともと5本だった本数が変化したと考えられています。

恐竜と鳥類の前肢には、指が3本ありますが、どの番号の指が残っているかが、問題になっていたのです。

鳥類の前肢とは、翼のこと。羽毛の下には、3本の指のついた腕があります。

––指の番号が、どのように一致しなかったのですか?

恐竜(獣脚類)の場合、前肢の指は、1-2-3指というのが一貫した定説です。ところが鳥類の前肢の場合は、恐竜と同じ1-2-3指という説がある一方で、恐竜とは異なる2-3-4指という説もあり、対立していたのです。前者は、化石を研究する古生物学者から、後者は、生物の体がどのように作られていくかを研究する発生学者から提示されていました。発生学者たちは、一番外側の指に着目して、そう結論しました。そして、この結論をもとに、鳥類の祖先が恐竜であるとする仮説に反論する人がいたわけです。

新たな基準で問い直したら

––田村先生も発生学者として、そのようにお考えでしたか?

私は、生物の形がどのようにしてできるかを研究してきました。特に、ニワトリの四肢形成を、20年以上研究してきています。

その中で、いつごろからか、「鳥類の前肢は2-3-4指」説が間違っているのではないかと、少しずつ思い始めるようになりました。実は、ほかの発生学者の中にも、この説に反対する人は何人もいたのですが、完全に論破できる証拠を提出することはできていなかったのです。

––ついに、それを実証されたのですね。どんな方法で?

2004年、ある論文を読んだときに、その方法を思いつきました。

それは、マウスの指の形成についての論文です。発生の初期、ZPAと呼ばれる細胞群を基準にして、指を作る細胞の位置関係が調べられていました。ZPAは、ほかの細胞に指の形成を誘導する「形態形成因子」を作り出す細胞群です。

この論文の方法に照らし合わせると、鳥類の前肢は2-3-4指ではないはずだと、気がついたのです。さっそく、ニワトリの前肢の指の位置を、この基準で詳しく調べてみようと実験を開始しました。

––思った通りの実験結果でしたか?

図1:田村教授と野村さんの実験結果をホワイトボードに描いて比較し、研究室で討論した。 | 拡大する

はい。恐竜と同じ、1-2-3指であることが、きれいに証明できました。

さらに、ここで、もう1つの幸運な出来事がありました。大学院生の野村直生君が、「先生の実験結果は間違っています。やはり、2-3-4指です」と、言い出したのです。

野村君は別なテーマで実験を行っており、私のより、少し若いニワトリ胚の前肢を観察していました。各指を作る細胞の位置を、ZPA細胞を基準に見ると、2-3-4指の位置を示していたというのです。

––それが、なぜ、幸運なのですか?

より深い探求へと私たちを導いてくれたからです。

驚いた私たちは、2人の手法の違い、あるいは、主観的な解釈が入り込む可能性を可能なかぎり排除し、それぞれで実験をやり直しました。そして結果は、それぞれの実験結果が正しいという確信でした。

さらなるカラクリが見えた!

––どちらの結論も正しいのですね?

図2:1-2-3指の証明は、ニワトリの3本指の前肢と4本指の後肢とを比較することで行った。胚のZPA細胞群(蛍光標識)は、前肢では指にならないが、後肢では第4指になる。右図は、胚における細胞の位置の模式図。 | 拡大する

研究室のメンバー全員で、この実験結果の意味を話し合いました。当事者だけで検討すると行き詰まることが多いので、いつもそうしています。

この話し合いで、私たちが出した結論は、指の番号の違いは、2人が観察した胚の日齢の違いに由来しており、それは発生のある段階で、ZPAと、指を作る細胞の相対的な位置が見かけ上ずれたためではないか、というものです。

そこで、細胞を染めて色を付け、発生段階を追って時間的に追跡観察し、指番号に見かけ上のずれが生じることを確認したのです。

––指を作る細胞の位置がずれるとは、指の細胞が移動するということですか?

私たちは、そうではないと思っています。基準となるZPA細胞の方に変化が起こったと考えています。しかし、それはまだ証明できていないので、これから立証していきます。

––では、ZPA細胞の変化とは?

この場合、形態形成因子を作り出していたZPA細胞群のうちの端の部分の細胞で、ある時期にこの因子の発現(転写・合成)が停止したのだと思います。

指が作られていく際には、ZPA細胞からの距離、すなわち形態形成因子の濃度の高低が重要です。それによって、指の細胞は自らの位置情報を認識します。別な言い方をすれば、この因子が、何番の指になるかの命令を細胞に下すわけです。

発生の時期(日齢)によって、命令する側とそれを受ける側の相対的な位置関係に変化が起こることが見逃されていたので、前述の2-3-4指説を導いた可能性も想像されますね。

––この因子を作る細胞の減少と、指の本数の進化とは関係はありますか?

図3:前肢の指の比較。 | 拡大する

これも証明できていませんが、あるかもしれません。恐竜や鳥類の前肢の細胞では、発生過程のごく初期に、この因子の発現が停止するので、5本指ではなく、3本指になったのかもしれません。

今回の研究から、実験して調べたいことが、さらにふくらみました。ニワトリの卵を調べることで、恐竜の体の仕組みや進化の過程まで推論できるのですから。

地震を乗り越えて

––震災が起こり、しばらくは実験に着手できませんでしたね?

3月11日、5階にある私たちの実験室では、さまざまなものが落下し、破壊されました。4月7日の大きな余震では、整理しかけていたものが再度落下。さすがに、力が抜けました。

試薬は、全貌が把握できないほど失われてしまいました。私たちの研究では、1回の実験で30種類くらいの試薬を使うものもあります。そのうちで1種類抜けても、実験はできません。

––一日も早い復旧をお祈りします。

当初は、いったい何から手をつけていいのか、わからなくなっていましたが、今は、大丈夫です。少し時間をかければやり直せると思えるようになりました。

もちろん、焦る気持ちはあります。ライバルたちは研究を進めているのに、自分たちだけが取り残されてしまっているように感じて……。

でも、1か月半たった今は、先の予測が立つようになってきました。修理・改修も行いながら、5月いっぱいかけて、元の状態に戻していければいい。海岸沿いで被害に遭われた方々のことを思えば、本当にたいしたことではないです。私は、学生やラボのメンバーたちが、元通りの力を発揮できるようにするには何をしてやればいいのか、それを考え、実行していきたいと思っています。

––ありがとうございました。

聞き手は藤川良子(サイエンスライター)。

参考文献

  1. Tamura K., Nomura N., Seki R., Yonei-Tamura S., Yokoyama H. Science. 331: 753-757 (2011)

Author Profile

田村 宏治(たむら・こうじ)

東北大学大学院生命科学研究科器官形成分野教授。1988年、東北大学理学部卒業、93年、同大学博士課程、94年、助手。97年、米国・ソーク生物学研究所博士研究員を経て、99年、東北大学大学院理学研究科助教授、2007年より現職。

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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