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赤色巨星の内なる鼓動

Nature ダイジェスト Vol. 8 No. 6 | doi : 10.1038/ndigest.2011.110634

原文:Nature (2011-03-31) | doi: 10.1038/471580a | The inner lives of red giants

Travis S. Metcalfe

赤色巨星を輝かせているエネルギー源は何なのか。その重要な手がかりは赤色巨星の明るさの脈動から得ることができる。米航空宇宙局(NASA)が打ち上げたケプラー宇宙望遠鏡による赤色巨星の明るさの観測で、星の進化を記述する理論の予測が正しいのかを調べることが可能になってきた。

ハリウッドスターと同様、星の年齢もその表面を見ているだけではよくわからない。恒星の大きさと明るさは、その一生のある段階では極めて一定している。しかし、内部の奥深くでは変化が進行している。恒星は、その一生の大半の期間、水素をヘリウムに変える核融合反応が出すエネルギーで輝いている。しかし、やがて中心核のヘリウムを燃やして炭素や酸素などのより重い元素を合成し始める。オーストラリアのシドニー大学シドニー天文学研究所のTimothy Beddingをはじめとする国際共同研究チームは、変化が最も顕著に起こっている恒星の最深部を、連続した「星震」(星で起こっている振動)を使って探り、恒星がその生涯のどの段階にあるかを知る新たな方法が実際に実行可能であることを示した。彼らはこの研究成果をNature 2011年3月31日号608ページに発表した1

Beddingらが調べた天体は赤色巨星と呼ばれる。私たちの太陽など、星の主要なエネルギー源は、中心近くの水素の核融合だ。こうした星が中心近くの水素を使い果たして膨張したのが、赤色巨星だ。水素の核融合の結果できるヘリウムは中心核に蓄積し、水素はヘリウムを取り囲む殻に押しやられる。水素はそこで前よりももっと激しく燃焼する。こうしたプロセスにより、今から約50億年後、私たちの太陽は徐々に現在の大きさの100倍以上に拡大して赤色巨星になり、太陽系の内側の惑星の一部を飲み込む2。太陽よりも前に生まれた星や、太陽よりも重く、より速く進化する星はすでに進化のこの段階に達している。

赤色巨星では、太陽と同じように対流によって内部から熱が運び上げられ、宇宙空間に放射されるので、その表面は沸き立っていると考えられている。こうした乱流運動は連続した星震として作用し、音波を作り出す。この音波は星の内部へ伝わり、再び表面に戻ってくる。音波の一部は、星全体の明るさを星の大きさに応じた数時間から数日の周期で変える定在波(太陽類似振動と呼ばれる)を起こすのにちょうどよい周波数(人間の耳に聞こえる音の周波数の100万分の1)を持っている。この周期的な明るさの変化から星の性質を推測するのが、星震学と呼ばれる研究分野だ3

図1:赤色巨星の振動
赤色巨星内部の乱流運動は連続した星震として作用し、音波を作り出す。音波は内部へ伝播し、再び表面に戻って来る。こうした音波は、ある条件下ではヘリウムでできた中心核内部に閉じ込められた浮力波と結合することがある。Beddingらはケプラー宇宙望遠鏡で観測された数百個の赤色巨星でこの「混合振動モード」を見いだし、星の進化の理論をこれまでにない方法で検証する道を開いた1。 | 拡大する

赤色巨星の表面近くで作られた音波は、ヘリウムでできた中心核の中に閉じ込められている浮力波(海の波と似た波)と相互作用することがある。ある条件のもとでは、この2種類の波は互いに結合(相互作用)することが可能で、表面の明るさの変化の周期を変える。この「混合振動モード」は、星の外層のみを通過する結合していない音波よりも、中心核の構造に大きく依存する(図1)。

Beddingらが進化の異なる段階にある赤色巨星を見分けることができたのは、2009年3月に打ち上げられたケプラー宇宙望遠鏡の正確な観測のおかげだ1。ケプラー宇宙望遠鏡の目標の1つは、地球に似た惑星の発見だ。ケプラーは、はくちょう座の近くの空の大きな区画を見つめ、15万6000個を超える星の明るさを監視している。ケプラーは、宇宙人が住んでいるかもしれない世界を見つけるという任務に関しては大きな成功をおさめてきたが4、数千個の星の明るさの何か月も連続したデータが得られるため、星の振動の研究にも革命を起こしている5,6。これまでの研究では地上の望遠鏡で赤色巨星を調べていたが、昼間は太陽の光が邪魔になること、連続して観測できる時間は限られていることが障害になっていた。

冒頭でも述べたように、赤色巨星のやっかいな点はその質量や年齢に関係なく、外側からはほとんど同じように見えるということだ。Beddingらは、ある質量の星が殻の水素を燃やす段階から中心核のヘリウムを燃やす段階へいつ移るのかを正確に測定するため、ケプラー宇宙望遠鏡が観測した数百個の赤色巨星の特性を決定しようと試みた1。定在波の規則的なパターンだけでは、特定の赤色巨星がどのエネルギー源で輝いているかを正確に知るには不十分だが、混合振動モードは星のエネルギー源に応じて特有のパターンを示す7。Beddingらは、星震学でこのパターンを解読することにより、赤色巨星の進化の2つの段階を見分けることができることを示した1

赤色巨星の状態や一生は、理論的にはその年齢だけではなく質量にも依存する。太陽の質量の約2倍よりも小さな星では、ヘリウムフラッシュと呼ばれる突然の点火現象が起こる。ヘリウムの核融合を起こすのに必要な温度は、水素の核融合に必要な温度よりも著しく高い。質量の小さな星では、中心核のヘリウムは非常に高い密度になるまで蓄積し続け、臨界質量に達すると、ほとんど瞬間的に点火する。一方、大きな星では中心核でのヘリウム燃焼への移行はゆるやかで、星の中心核の大きさのばらつきは大きく、ヘリウムフラッシュは起こらない。Beddingらは、それぞれの振動モードを観測で調べて、これら2つのタイプの星を区別する方法を明らかにするとともに、これまで検証できなかった、星の進化に関する理論の予測の正しさを確かめることができる新たなデータをもたらした。

Beddingらは赤色巨星の内部で起こっている現象を特殊な方法でのぞき見たわけだが、この研究はケプラー計画の最初の年の観測結果だけで可能だった。ケプラー宇宙望遠鏡は少なくとも3年半は運用される計画で、NASAは計画をさらに2年半延長するかもしれない。観測の継続とともに星震学でわかることは着実に増えていくだろう。Beddingらが調べた星のより詳しい結果や1、近い将来にはほかの赤色巨星に関する同様の測定結果も得られるだろう。

(翻訳:新庄直樹)

Travis S. Metcalfe、米国コロラド州ボールダーの米国立大気研究センター(NCAR)高高度天文台(HAO)

参考文献

  1. Bedding, T. R. et al. Nature 471, 608–611 (2011).
  2. Silvotti, R. et al. Nature 449, 189–191 (2007).
  3. Aerts, C., Christensen-Dalsgaard, J., Cunha, M. & Kurtz, D. W. Sol. Phys. 251, 3–20 (2008).
  4. Borucki, W. J. et al. Astrophys. J. 728, 117–137 (2011).
  5. Gilliland, R. et al. Publ. Astron. Soc. Pacif. 122, 131–143 (2010).
  6. Chaplin, W. J. et al. Science (in the press).
  7. Beck, P. G. et al. Science doi:10.1126/science.1201939 (2011).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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