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緊縮予算のしわ寄せを受ける米国の物理学研究

Nature ダイジェスト Vol. 8 No. 6 | doi : 10.1038/ndigest.2011.110622

原文:Nature (2011-03-17) | doi: 10.1038/471278a | US physics feels the squeeze

Eugenie Samuel Reich

米国オバマ政権の2012年度予算案は科学研究の推進をうたっているのだが、物理学者にとって苦い薬がいくつか隠されている。

ウィスコンシン大学マディソン校シンクロトロン放射センター(米国)のJoseph Bisognano所長の声がぎごちない。40名のスタッフのうち13名を解雇しなければならないからだ。

同センターでは、赤外や紫外の放射光を利用して、毎年およそ300人の科学者が、半導体や高温超伝導体などの材料の構造を調べている。Bisognanoの話では、「専門家による最新の評価で、この施設を閉鎖することが大変な過ちだと判定された」にもかかわらず、国立科学財団(NSF)は、2012年度予算で機器設備関連予算の15%削減を求められ、このセンターの運営費を減らすことを決めたのだという。解雇者の数は今後も増える可能性が高い。

この例から垣間見えるのは、緊縮予算のしわ寄せを受け始めた米国の物理学研究の現場の姿だ。3月中旬の時点で、米国議会とオバマ大統領との間で2011年度予算についての最終合意がなされておらず、予算関連のつなぎ法案が可決されている状況にある。そのため、NSFやその他の政府機関は、研究プログラムの削減に取りかからざるを得なくなっている。しかも、大統領の2012年度予算案にも引き続き削減圧力がかかっている。この来年度予算案では、重要な政府機関の予算の確実な増額とエネルギー研究予算の大幅な増額が確かに請求されているが、この増額部分は議会によって縮小させられる可能性が高い。現在の案においても、政府機関は、成熟した科学事業を終了させ、新しい科学事業に道を譲るよう迫られている。

これでは物理学の複数分野における米国の優位性が損なわれてしまう、と研究者は警告する。

2012年度予算案で犠牲になる施設として最も有名なのが、米国イリノイ州バタビアにあるフェルミ国立加速器研究所の粒子加速器「テバトロン」だ。ヨーロッパの大型ハドロン衝突型加速器(LHC)の運用が拡大されるため、エネルギー省は、今年中にテバトロンを廃止する計画を立てた。これに対して、米国の研究者は、テバトロンが優れた成果を挙げていることを理由として、その存続を求めた。しかし、エネルギー省は存続の申し立てを却下した。

エネルギー省がテバトロンの廃止に踏み切った理由の1つは、ほかの実験、例えば、未知の粒子である暗黒物質の捕獲を目指すプロジェクトやニュートリノの特性を調べる研究に重点を移すためだ。ところが、最近になって、予算上の懸念が、これらの計画にも打撃を与えている。エネルギー省とNSFは、こうした実験の多くが行われることになるサウスダコタ州ホームステークに建設される大深度地下科学工学研究所(DUSEL)への資金提供方法について合意に達していない。このプロジェクトの費用は、8億~9億ドル(約680億~770億円)と予想されている。

日本の「すざく」にも影響

宇宙科学も厳しい時代を迎えている。3月7日、審査委員会は、NASAによる火星へのサンプル回収ミッションを惑星科学研究の最優先事項とするよう勧告した。ただし、審査委員会は、NASAが受け取ることになっている額よりも相当に高額な予算を前提としており、NASAの担当者は、このミッションの費用を負担しきれない可能性があると話している。

また、ハッブル宇宙望遠鏡の代わりとなるジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡によって、NASAの予算はますます圧迫されている。その費用は65億ドル(約5500億円)に膨れ上がって、NASAの天体物理学研究予算のほぼ半分に達し、そのほかの優れたミッションにしわ寄せが及んでいる。例えば、2012年予算案では、NASAと日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)が共同で運用しているX線天文衛星「すざく」に対する米国政府からの財政支援250万ドル(2億1000万円)がカットされる。この天文衛星は、X線スペクトルの高いエネルギー領域における観測で最高の分解能を達成している。JAXAが米国からの支援なしに「すざく」の運用を続けるかどうかはわからない。

「すざく」のユーザーグループの会長を務めるミシガン大学(米国アナーバー)の天体物理学者Jon Millerは、米国の天体物理学研究の将来を悲観し、こう語っている。「高エネルギー天体物理学は、投資に対する見返りの大きな分野なのですが、今、苦しみを味わっています」。しかし、NASAの天体物理学部門長のJon Morseは、NASAは、将来のミッションの打上げ率の増加という目標を達成するために、既存のミッションに関する資金収支を均衡させたいのだと説明する。

フェルミ国立加速器研究所のコライダー検出器のスポークスマンであるRob Roserは、「よき時代が戻ってくるはずだ、と自分に言い聞かせようとしています」と打ち明ける。「そうなることが私の夢ですが、今の私の想像力がどれだけ確かなものか自信がありません」。

(翻訳:菊川要)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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