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抗がん剤の効果を、蛍光イメージング技術で可視化! (宮脇 敦史)

宮脇 敦史

Nature ダイジェスト Vol. 8 No. 5 | doi : 10.1038/ndigest.2011.110518

細胞内の微細な構造や分子などを蛍光で標識し、可視化する「蛍光イメージング技術」。分化や発生などの基礎生物学領域から、創薬、がんの診断や治療といった医療分野まで、幅広い応用が期待されており、研究開発が急速に展開している。この分野の第一人者である理化学研究所の宮脇敦史チームリーダーは、このほど、独自の細胞周期プローブを使って、がん細胞の増殖動態を可視化することに成功。抗がん剤の濃度に依存した細胞応答の特性を、単一細胞のレベルで明らかにした。

細胞周期を可視化するFucci

––Natureダイジェスト:一貫して蛍光イメージングを研究テーマにされていますね。

宮脇:発端は、医学部の学生時代に、蛍光のエネルギー移動(FRET)に関する総説に出会ったことです。当時、蛍光色素を用いた分子ラベルは一部の研究者に限られていた感じでした。私はFRETに憧れ、タンパク質を自在に蛍光でラベルしたいと夢見ていました。その後、1990年代に、アメリカのダグラス・プレーシャーらが、オワンクラゲGFPの遺伝子をクローニングしました。そして1997年に、私が、GFPの変異体を用いて、FRETを使ったカルシウムセンサーを開発することに成功しました。

以後、蛍光プローブやバイオイメージング技術の開発を進め、また沖縄の海で採集したサンゴ類を材料に、新規蛍光タンパク質の単離も行ってきました。細胞内のカルシウム濃度を色分けして可視化できる「カメレオン」、特定の波長の光を照射して蛍光の特性を可逆的に変えられる「ドロンパ」、不可逆的に変えられる「カエデ」、励起波長と蛍光波長が飛躍的に離れている「ケイマ」などの蛍光プローブを開発しています。

––今回は、どのようなことをされたのでしょう?

Fucciという細胞周期プローブを開発し、抗がん剤にさらされた培養細胞の細胞周期変化を観察しました。阪上‐沢野朝子研究員が中心となって行った研究の成果です。Fucciプローブが含む赤と緑の蛍光タンパク質は、私たちが沖縄で採集したサンゴに由来しています。すでに、Fucciプローブの遺伝子を導入した細胞株やマウスも開発済みでした。

図1:細胞周期とFucciの蛍光シグナル。細胞周期は、分裂期(M期)、複製前準備期(G1期)、DNA複製期(S期)、分裂前準備期(G2期)からなる。Fucciは、G1期の核を赤く、S期〜G2期の核を緑色に蛍光標識することができる。 | 拡大する

細胞は、分裂期(M期)、複製前準備期(G1期)、DNA複製期(S期)、分裂前準備期(G2期)を1サイクルとし、細胞周期を回しています(分化を終えた細胞は、G1期から休眠期(G0期)に移行すると考えられている)。細胞周期の進行は、さまざまなポイントで止まるように制御されています。Fucciは、分裂後からDNA複製前の時期(G1期)にある細胞の核を赤色に、DNA複製から分裂前の時期(S期~G2期)にある細胞の核を緑色に標識します。つまり、「G1からSへの移行のタイミング」をはっきりと可視化することができます(図1)。

増殖のさかんな細胞にFucci技術を適用すると、赤と緑の蛍光がシーソーのように交互に現れます(S期突入の境目では黄色になる)。一方、筋肉や神経細胞のように分化して増殖を停止した細胞(NMuMG細胞)に用いると、核は赤いままとなります。今回は、がん細胞の代表といえるHeLa(ヒーラ)細胞とマウス由来の良性腫瘍細胞(NMuMG細胞)にFucciを用い、それぞれの細胞に「エトポシド」という抗がん剤をさまざまな濃度で投与して、細胞周期進行のようすを可視化してみました。エトポシドは、G2期からM期への移行(G2チェックポイント)を止めることが知られています。

抗がん剤に抵抗する実態が見えた

––その結果、どのようなことがわかったのでしょう?

培養皿上やヌードマウスの皮下で、悪性のHeLa細胞は「赤→黄→緑→赤…」の変化を限りなく繰り返し、増殖の制御機構が破綻していることがよくわかります。一方、NMuMG細胞は、培養皿一面に広がると増殖を止め、赤い核を保持したままとどまりました1

図2:さまざまな濃度のエトポシド投与によるNMuMGの数と蛍光反応。0.1μMまでの濃度では、ほとんどの細胞は分裂を停止し、緑色に蛍光したままになった。1μM付近では、M期への突入とともに核が分断する状態がみられた。10μMより高い濃度では、細胞はM期をスキップしたままDNA複製を繰り返す現象がみられた。こうしたDNA増幅ががん細胞で起きることで、エトポシドへの耐性獲得をもたらすと考えられる。 | 拡大する

次に、NMuMG細胞にさまざまな濃度のエトポシドを加えたところ、興味深い現象が観察されました。まず、約0.1µMまでの濃度では、細胞周期がG2で停止し、緑色の状態にとどまっていました。約1µMでは、M期への突入とともに核が分断する状態が見られました。ところが10µM以上になると、細胞はM期をスキップしたままDNA複製を繰り返す、すなわち「細胞が分裂しないまま、核の色が赤と緑の間の往復する現象」がみられました(図2)2。臨床的に、がん細胞が核内DNAを倍増させることによって抗がん剤への耐性を獲得してしまう現象が知られています。今回、こうした現象が起こる過程を目撃することができたといえます。なお、同様にしてHeLa細胞にもエトポシドを投与したところ、こちらは低濃度でも高濃度でも、細胞周期がG2で停止しました。

––成果は、医療や産業での応用が可能でしょうか?

はい。抗がん剤のスクリーニングや評価に使えます。現在のやり方は、何万個もの細胞を扱うFACS技術が中心です。具体的には、抗がん剤投与後のがん細胞の核内DNA量を解析するのですが、これだけでは細胞が見せる多様な応答をしっかりカバーできません。個々の細胞の細胞周期の位相情報を加えることができれば、倍化する細胞を感度よく検出できるはずです。

私たちの方法は、FACS技術と相補することで、きわめて有用性の高いものになると期待されます。すでに、がんの研究者や製薬企業など、さまざまな方面から技術提供や共同研究のオファーを受けており、汎用化に努めたいと考えています。さらに、胚発生、器官形成、血球・リンパ球の動態、iPS細胞のモニタリング、組織幹細胞の同定など、さまざまな分野で使ってほしいと思っています。

蛍光イメージング技術の可能性

––今後の課題と目標は?

Fucci技術の展開として、「DNAを3色に色分けする」、「S期からG2期への移行を可視化する」ことが可能なプローブをめざして改良を加えています。また、ゼブラフィッシュのような透明なモデル生物にFucci技術を適用する実験も進めており、形態形成における増殖と分化の協調を解析したいと考えています。

一方で、生物界に蛍光タンパク質を探索するプロジェクトも続けたいと考えています。「なぜ蛍光を発するのか」という疑問を突き詰めると、40億年にわたって、あらゆる生物が太陽光の影響を受けながら進化してきた事実に行き当たり、わくわくします。私の研究室には、生化学のバックグラウンドをもつ者が多いのですが、自分の得意分野を持ちつつ、学際的にリーチアウトすることを私は勧めています。

新たなプローブとしては、細胞死に向かう様相をとらえるものを開発中です。Fucciイメージングと組み合わせて、細胞の死生観とでもいうべき問題に迫ってみたいですね。そう遠くない未来に、蛍光イメージング技術が、ヒトにも応用できるようになっていることと思います。

また、生命科学だけでなく、材料科学分野においても、蛍光タンパク質の研究成果を活用したいと思っています。例えば、カエデを使うと、特定の波長の光照射で色が変わる機能材料が開発できます。このような応用研究を支えるのは、蛍光タンパク質の構造・機能に関する基礎的研究です。私たちは、蛍光タンパク質の発色団にある「パイ電子の心」をつかむべく、毎日奮闘しているのです。

––ありがとうございました。

聞き手は西村尚子(サイエンスライター)

参考文献

  1. Sakaue-Sawano, A., et al. Cell 132:487-498 (2008).
  2. Sakaue-Sawano, A., et al. BMC Cell Biology 12:2 (2011).

Author Profile

宮脇 敦史(みやわき・あつし)

独立行政法人 理化学研究所 脳科学総合研究センター副センター長、独立行政法人科学技術振興機構ERATO「生命時空間情報」プロジェクト研究総括。1991年、大阪大学医学部大学院医学研究科博士課程修了、医学博士。日本学術振興会特別研究員ののち、1993年4月より東京大学医科学研究所助手。1995年10月よりカリフォルニア大学サンディエゴ校博士研究員。1999年1月から、独立行政法人理化学研究所脳科学総合研究センター先端技術開発グループ細胞機能探索技術開発チーム チームリーダー。2004年1月、同センターグループディレクター、2008年4月、同センター副センター長。2006年10月より独立行政法人科学技術振興機構ERATO「生命時空間情報」プロジェクト研究総括。

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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