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もうひとつの地球はどこに

ケプラー宇宙望遠鏡は約900パーセク(約3000光年)の距離までの天の川銀河を調べている。 Credit: nasa/Jpl-calTecH/r. HurT; ssc-calTecH

米国マサチューセッツ州ケンブリッジにあるハーバード・スミソニアン宇宙物理学センター(CFA)。取材に応じてくれた天文学者のDimitar Sasselovは、いつもはよくしゃべるのに、少し神経質になっているようだった。SasselovはNASAのケプラー惑星探索計画の共同研究責任者だ。この計画で発見された惑星候補の中で、どれが一番気に入っているかと尋ねると、彼はためらいを見せ、結局は質問に直接答えることを避けた。「私としてはすでにその段階を超えています。私の興味を引きつけるのはもはやひとつの惑星ではありません。見つかった惑星全体なのです」。

Sasselovが慎重になるのには理由がある。英国オックスフォードで2010年7月に開かれた「テクノロジー・エンターテインメント・デザイン(TED)2010年会議」での彼の講演内容に対して、研究チームの同僚から手厳しい批判を受けたからだ。彼は、見つかった惑星候補の数を研究チームが公式発表した数より多く言っただけでなく、不注意な言葉遣いをしたために、「地球に似た惑星を数百個発見」という不正確な見出しが躍る原因になったと非難されたのだ。

しかし、研究チームは今年2011年2月初め、昨年6月に発表した706個を上回る、全部で997個の惑星系の候補を発表したので、Sasselovの発言騒ぎは過去の話となった。惑星系の候補とともに、確認された惑星も多数報告された。最新の成果は、1月にNASAのウエブサイトにニュースとして掲載され(go.nature.com/aejd15を参照)、論文はNature 2011年2月3日号に掲載された1

確認された惑星の中には、岩でできているが、親星のきわめて近くを回っているために、親星に照らされた側が溶岩の海になっているに違いないものもある。また、岩あるいは氷でできた大型惑星をいくつも含んだ惑星系もあり、これらの惑星の公転周期は地球の365日よりも1桁短い数十日である。NASAエイムズ研究センター(米国カリフォルニア州モフェットフィールド)の宇宙科学者でケプラーの共同研究責任者であるJack Lissauerは、この惑星系について「とてもエキサイティングで、私たちがこれまで見たことのないタイプの惑星系です」と話す。LissauerはNatureに掲載された論文の主著者でもある。

ケプラーが観測している視野のすべて。広さは100平方度で15万個の星が含まれている。 Credit: nasa/ames/Jpl-calTecH

にもかかわらず、ケプラー計画に加わっている科学者たちの大半は慎重であり続けている。ケプラーは約15万個の恒星からの光を監視し、光の強さが一時的に減少する現象を探している。それは、その恒星の前を惑星が通過している可能性を示しているからだ。ケプラーは、惑星の候補とみられる現象を見つける点では非常に優れている。しかし、「もうひとつの地球」はまだ見つけていない。この「もうひとつの地球」とは、岩でできた小型惑星で、数百日の公転周期を持つ軌道にあり、親星からの距離が液体の水が存在でき、生命が現れうる範囲(ハビタブルゾーン=生命居住可能領域)にある惑星のことだ。実は、まだ見つかっていないのには理由がある。ケプラーが検出する光の強度のささいな減少からは、見つかった惑星の半径のみが得られ、質量がわからないのだ。つまり、通常は、惑星の密度と組成がわからない。

さらに、ケプラー計画の科学的目標は、地球に似た惑星の発見ではない。地球に似た惑星を持つ太陽とよく似た星がどのくらいあるのか、その存在比率を見積もることなのだ。これは、惑星系はどのようにできるのかという問題に対して、理解を大きく進めてくれるデータだ。NASAエイムズ研究センターの宇宙科学者でケプラーの研究責任者であるWilliam Boruckiは、「研究者たちは、どの現象が本当に惑星に対応しているのかを決めるために、大半の時間を費やしています。連星が互いを隠し合うために暗くなっているケースを除外しなければなりません。『偽陽性』の候補から、本当に惑星であるケースを選り分けるのは骨の折れる大変な作業なのです」と話す。

食検出法

ケプラーが打ち上げられるまで、太陽系外惑星を発見するために使われていた検出方法では、小さな惑星よりも巨大な惑星が見つかる可能性が高く、サンプリングとしてはバイアスがかかった結果になっていた。この方法は、視線速度法(ドップラー分光法)と呼ばれ、恒星が惑星との重心の回りでふらつくために起こるスペクトル線の変化を見つけるというものだ。惑星が大きく、恒星に近いほど、地球に向かったり、離れたりする恒星の運動は速くなり、スペクトル線の変化が大きくなって検出が容易になる。実際、この方法で見つかったほぼすべての惑星は、木星よりも大きくて親星にとても近く、公転周期がわずか数日のものもあった。

1999年、これに代わる方法が実行可能であることが証明された。CFAの天文学者David Charbonneauらは同年9月、コロラド州ボールダーの米国立大気研究センターの駐車場の小屋から、親星の前を横切っている惑星を観測した2。翌々月、別の研究グループも同様の観測を行った3。このとき両研究グループは、視線速度法で発見され、動きが予測されていた惑星HD 209458bが、実際に恒星の前を通過することを確かめたのだった。

まもなく、恒星の前を惑星が通過する現象だけから、惑星を見つけることができるようになった。初期には、この方法でも見つかるのは大きくて親星から近い惑星だった。大きな惑星は、地球サイズの惑星よりも親星の大きな部分を覆い隠すので発見が容易だからだ。しかし、研究者たちは、宇宙望遠鏡なら地球と同様の軌道にある地球大の惑星の通過を検出できることに気付き、興奮した。そして、ケプラー計画が誕生したのだ。

ケプラーは開口部の直径が0.95mの宇宙望遠鏡であり、星からの光の変化を監視して太陽系外惑星を検出できるよう設計された。地上の大半の望遠鏡やフランス国立宇宙研究センター(CNES)の惑星探索用宇宙望遠鏡「コロー」は、目標を監視し続けられる期間が長くても数か月だったが、ケプラーは、同じ固定された視野を3~4年にわたって監視し続けるよう設計されたのだ。観測対象領域は、太陽に似た星が多いことから選ばれ、はくちょう座とこと座の15万個の星がここに含まれている。同じ視野を見続けることがケプラーの重要な特徴だ。発見した惑星の質量と組成は決定できないものの、公転周期が1年ほどの地球に似た軌道にある小さな惑星であれば、恒星の前の通過現象を3~4回にわたって繰り返し観測できる計算になる。

ケプラーは2009年3月に打ち上げられ、2010年1月に、最初に発見した数個の惑星が発表された。サンノゼ州立大学(米国カリフォルニア州)の天文学者で、ケプラーの科学チーム副リーダーであるNatalie Batalhaは、「この時点では、最も明白な例を報告したにすぎませんでした」と振り返る。この時点では観測期間はまだ短く、巨大で公転周期の短い惑星の発見に有利だった。これらは生命が居住可能であるには親星に近すぎた。発表された惑星には、3.2日から4.9日の公転周期を持つ5つの巨大惑星が含まれていた4

しかし、2010年6月に発表された706個の惑星系候補のうち、分析された306個の惑星系の惑星はこれらとは異なっていた。その大半は海王星ぐらいか、さらにもっと小さいとみられた。そのうちの40個近くは地球の大きさの2倍よりも小さかった5。うち5個は親星のハビタブルゾーンの中の軌道にあるだろう、とBatalhaは見積もっている。

Credit: source: nasa/kepler mission

しかし、「候補者」を「合格者」に変えるプロセスは煩雑だ。毎月、ケプラー宇宙望遠鏡から、目標の星からの光の強さの変化を示すデータがNASAエイムズ研究センターのコンピューターにダウンロードされる。次に、データは星からの光の強度が時間とともに変化する様子を示すグラフに変換される。ソフトウエアで光のカーブの中の2000個から3000個の減少現象に自動的に印を付け、Batalhaが委員長を務める検討委員会へ送られる。明らかな偽陽性(装置のノイズによるものなど)は却下され、残りは「ケプラー惑星候補天体」として番号を割り当てられる。研究チームは、ケプラー惑星候補天体の50%は本物の惑星だと見積もっているが、これまでに見つかった1235個のケプラー惑星候補天体のうち、確認できたのはNature 2月3日号に発表されたものを含めて15個だけだ(右グラフを参照)。

偽陽性を除外する最も確実な方法は、別の方法でその惑星を検出してみることだ。現在はケプラーの参加科学者の一人であるCharbonneauは、赤外線放射を観測できるNASAのスピッツァー宇宙望遠鏡を使ってケプラー惑星候補天体を詳しく調べている。スピッツァーは、「ブレンド」と呼ばれるタイプの偽陽性を除外するには理想的な望遠鏡だ。ブレンドとは、比較的暗い連星と同じ視線上にずっと明るい星があり、時折、1つの星がほかの星を隠すというケースだ。「ケプラーから見ると、ブレンドは木星の大きさの惑星が通過する時と同じように見える可能性があります」とCharbonneauは話す。しかし、スピッツァーならそんなことはない。なぜなら、3つの星は赤外線と可視光の波長域でスペクトルの構成比が異なっているはずだからだ。

候補が複数の惑星からなる惑星系の一部である場合は、ケプラーのデータだけで惑星だと確かめることができる。例えば2010年、同じ星をほぼ規則正しい間隔で通過する2つの惑星を含む惑星系が見つかった。CFAの宇宙物理学者で、ケプラーの研究チームの一員であるMatthew Holmanは、「この惑星系に特に注目したのは、恒星面を通過するタイミングが変化していることに気付いたからです」と話す。それは、惑星が本物であるというサインだった。複数の惑星が重力によって互いに相互作用しているとき、恒星面を通過するタイミングは1周期当たり数分も変化することがある。これは、太陽の周りの地球の公転周期が毎年数時間変化するのと同じ現象だ。この新しい惑星はケプラー9bとケプラー9cと名付けられ、半径はいずれも木星の約0.8倍、公転周期は19日と39日だった6。惑星の重力相互作用をモデル化することにより、研究チームは2つの惑星の質量が土星の質量に近いと推定した。惑星の質量と半径がわかったため、惑星の組成は水素とヘリウムに富んでいて、巨大ガス惑星である土星と木星によく似ていると推定された。

ケプラー9は、同じ恒星の前を複数の惑星が通過していることがわかった最初の惑星系だ。Nature 2月3日号53ページの論文1は、同タイプの2番目の惑星系ケプラー11について報告している。この惑星系では6個もの惑星が同じ恒星の前を通過し、10、13、22、31、46、118日の公転周期と、地球の2.3倍から300倍以上までの質量を持っている。外側の4つは巨大ガス惑星だが、内側の2つは海王星のような巨大氷惑星である可能性がある。あるいはスーパーアース(巨大地球型惑星)である可能性もある。スーパーアースは地球よりも数倍大きいが、岩とガスの混合物でできている惑星だ。Lissauerは「私たちは、同じ星の前を6個もの惑星が通過していることを知って驚きました。しかも、内側の惑星の軌道は狭い範囲に詰め込まれていて、もしもそれ以上詰め込まれていたら、これらの惑星の軌道は安定ではなかったはずだ、ということがわかって、さらにびっくりしました。これは驚くべき惑星系です」と話す。

岩でできた惑星

ケプラー11bから11gまでの6惑星が報告されたのは、2011年1月のケプラー10bの発見の発表のすぐ後だった。ケプラー10bは太陽に似た星を回る密度の高い惑星で、公転周期は0.84日。ケプラー10bの場合、観測できる通過タイミングの変化はないが、親星に近いため、地上での視線速度測定で惑星と確認することができた。惑星の質量も視線速度測定でわかった。質量は地球の4.6倍だが半径はわずか1.4倍で、密度は高く、岩でできていることは間違いない。ただし、親星に近いため、その一方の側は常に岩が熱で溶けた状態になっているだろう。ケプラーチームは、親星の注意深い研究と1年分のデータの分析によって、惑星通過によって親星が暗くなる効果だけでなく、軌道を回る惑星が地球に昼の側を見せるときと夜の側を見せるときとで、光が明るくなったり、暗くなったりする効果も検出することができた。「こうした微妙な効果が検出できたのは驚くべきことです」とBatalhaは話す。この研究は、ケプラーの観測によって予想もしなかったことがわかる可能性を示している。「この惑星は、岩でできた惑星を研究した最初の例となるでしょう。とても意義のある成果でした」とBatalhaは話す。

ケプラー計画で発見された惑星には、質量を決定できないものもある。一例がケプラー9dで、ケプラー9bやケプラー9cと同じ惑星系にあるスーパーアースだ。CFAの天文学者Guillermo Torresらによるコンピューターシミュレーションで、ケプラー9の後方か前方に連星があるために光が変化していると仮定した場合の光の予想カーブよりも、親星であるケプラー9の前をスーパーアースが通過していると仮定した場合の予想カーブの方が、観測結果に合うことがわかったのだ。

The Astrophysical Journalに発表されたこの研究チームの論文は、ケプラーで見つかった惑星候補のいずれにも応用できる一般的な方法を示したものであり、それを使って惑星であることを確かめた最初の例だという。「恒星面通過のタイミングに変化がなく、視線速度法を使って調べるには親星から遠すぎる場合にも応用可能」だとしている7。Torresは「惑星である確率は偽陽性である確率よりも高い。統計学的な根拠があるのです」と話す。この方法は、ケプラー11の6番目の惑星候補、ケプラー11gが惑星であることを示すのにも使われた。ケプラー11gは、すでに述べたように118日の公転周期を持つ巨大ガス惑星だ。ほかの惑星から遠く、恒星面通過タイミングの変化はわずかで観測できなかった。

ケプラーの贈り物

親星から地球と同様の距離にある惑星を繰り返し観測するには時間がかかる。ケプラー計画の研究者たちが、宇宙における惑星の存在比率を推定できるまでには何年もかかるだろう。しかし、ほかの科学者たちが予備的な見積もりをすることは可能だ。例えばカリフォルニア大学バークレー校の天文学者Andrew Howardが率いる研究グループは2010年、視線速度法で見つかった惑星の大きさの分布を調べ、質量の小さい惑星の存在比率を外挿法で推定した。その結果、恒星の約22%は地球大の惑星を従えていることがケプラーの観測で判明するだろうと予測した8

この結果にBoruckiは懐疑的だ。「Howardらは外挿法を使っています。はなからダメとは言いませんが、それに近いと思います」と彼は話す。しかし、Lissauerはもっと楽天的だ。「最終的には、視線速度法による観測結果は惑星の前面通過による観測結果と組み合わせることができます。その結果、岩でできた地球型惑星からガスでできた木星型惑星まで、さまざまな大きさ、質量、組成の惑星の存在比率を、観測結果に基づいて得ることができるはずです」と話す。そのデータは、天の川銀河のいたるところでの惑星系の起源と進化を理解するうえで、貴重なものになるだろう。「そのように研究を進めれば、価値ある研究がたくさん行えるはずです」とLissauerは言う。

Batalhaは「ケプラーは、徹底的に研究する価値のあるたくさんの天体のリストを将来の世代に残してくれることは間違いありません。それがケプラーの贈り物です。人々はこのデータを数十年にわたって使うことになるでしょう」と話している。

翻訳:新庄直樹

Nature ダイジェスト Vol. 8 No. 5

DOI: 10.1038/ndigest.2011.110510

原文

Beyond the stars
  • Nature (2011-02-03) | DOI: 10.1038/470024a
  • Eugenie Samuel Reich
  • Eugenie Samuel Reichは米国マサチューセッツ州ボストンのネイチャー記者。

参考文献

  1. Lissauer, J. L. et al. Nature 470, 53–58 (2011).
  2. Charbonneau, D., Brown, t. m., Latham, D. W. & mayor, m. Astrophys. J. 529, L45–L48 (2000).
  3. henry, G. W., marcy, G. W., Butler, R. P. & Vogt, S. S. Astrophys. J. 529, L41–L44 (2000).
  4. Borucki, W. J. et al. Science 327, 977–980 (2010).
  5. Borucki, W. J. et al. Preprint at (2010).
  6. Holman, m. J. et al. Science 330, 51–54 (2010).
  7. Torres, G. et al. Astrophys. J. 727, 24 (2011).
  8. Howard, A. W. et al. Science 330, 653–655 (2010).