News

翼の折れたペンギンたち

Nature ダイジェスト Vol. 8 No. 3 | doi : 10.1038/ndigest.2011.110302

原文:Nature (2011-01-12) | doi: 10.1038/news.2011.15 | Band of bothers

Daniel Cressey

ペンギンの研究調査のために翼に装着した「翼帯」は、生存率を著しく低下させ、研究結果をも歪めてしまうおそれがある。

拡大する

Benoît Gineste

ペンギンの研究では、翼に個体識別用の「翼帯」と呼ばれる標識を装着することが多い。しかし、翼帯の装着によってペンギンの死亡率が上昇し、繁殖の成功率が下がる可能性が、Natureに報告された1。この発表により、30年以上前に始まった翼帯の是非をめぐる議論が再燃し、そのうえ、新たな懸念も浮かび上がってきた。翼帯は、ペンギンの生存を妨げるだけではない。ペンギンを指標にした調査から導かれたこれまでの結論を、根底から揺るがしてしまうかもしれないのだ。

翼帯よさらば!

生物学者の間ではかなり以前から、個体識別や追跡用のタグ、バンド、送信機などが、動物によからぬ影響を及ぼすのではないかという危惧はあった。すでに1970年代には、動物園の飼育係たちは、翼帯のせいで特に換羽の時期にペンギンが傷を負いやすいことに気付いていた。その後、スウォンジー大学(英国)のRory Wilsonらにより、翼帯が水中でのペンギンの流体力学にかなった姿勢や動きをじゃまして、遊泳時に余分にエネルギーを消費させてしまうおそれがあることが明らかになった2

今回、ストラスブール大学(フランス) のYvon Le Mahoらは、南インド洋のポゼッション島に棲むキングペンギンの個体群を使って調査した。個体群には、すでに小型電子タグが皮下に埋め込まれており、その中から50羽を選んで翼帯を付けた。翼帯を装着した個体は装着しない個体50羽と比較すると、授かったヒナの数が40%前後も少なく、生存率も16%低かった。論文共著者で同じくストラスブール大学のClaire Sarauxは、「たとえ種によって差があるとしても、こうした標識はあらゆる鳥類にとってマイナスになるでしょう」と話す。

Le Mahoは、生態学者は「予防原則」にのっとり、翼帯の利用をやめて新たな手法を採用すべき時期に来ていると言う。だが、生態学では、皮下埋め込み型タグなどの新しい技術がそれほど普及していないのだとも話す。

論文では、もっと広角的な問題も取り上げている。ペンギンの研究調査は、気候変動が生態系に及ぼす影響の研究にも使われているのだ。Le Mahoらは以前、電子タグを付けたキングペンギンの調査で、海面水温がわずか0.26℃上昇しただけで成鳥の生存率が9%減少するおそれがあることを報告している3。もし、こうした研究で翼帯が用いられていたなら、気候との関連を調査データからうまく推定できなかったかもしれない。

「気候との関連性について結論を推定するのは非常に難しいのです。温暖化には生態系に影響を与えるような問題が確かに存在します。しかし、翼帯を使った調査研究の場合には、データの数値を再検討すべきです」と、Le Mahoは主張する。

2個はダメ

英国南極局(ケンブリッジ)とともに調査 をしている海鳥研究者Norman Ratcliffeによれば、英国南極局は、翼帯の悪影響を示す証拠が最初に出された1980年代に翼帯装着をやめ、古い翼帯は取り外したという。「翼帯がほとんどの環境で個体群構成や行動に悪影響を及ぼすことを示す証拠が次々と得られています。翼帯を使っている研究者には、実際に翼帯の影響があるのかを確かめ、それらの結果が揺るぎないことを実証する責任があります」。Ratcliffeはこう話す。

しかし、すべての研究者がこうした意見に賛同しているわけではない。米国有数のペンギン研究者であるワシントン大学(米国シアトル)のDee Boersmaも、その1人だ。彼女は、翼帯の2個装着が雌のマゼランペンギンに有害な影響を及ぼすことは見つけたが、翼帯が1個だけなら、たとえ15年間装着し続けても大きな問題は見られなかったと報告している4

「すべての翼帯、すべてのペンギン種、すべての調査場所が同じわけではありません」と彼女は話す。「もし、ある種類の翼帯で結論付けられた問題を、すべての種類の翼帯やペンギン、場所にまで拡大できるなら、科学はもっと楽なものになるでしょうが、何か問題が生じたら、致命的になります」。

(翻訳:船田晶子、再構成:編集部)

参考文献

  1. Saraux, C. et al. Nature 469, 203-206 (2011).
  2. Culik, B. M. et al. Mar. Ecol. Prog. Ser. 98, 209-214 (1993).
  3. Le Bohec, C. et al. Proc. Natl Acad. Sci. USA 105, 2493-2497 (2008).
  4. Boersma, P. D. & Rebstock, G. A. J. Field Ornithol. 81, 195-205 (2010).
  5. 参考動画:https://www.youtube.com/watch?v=FMST8TWokDQ

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

プライバシーマーク制度