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奇妙な三角関係にある天の川銀河

Nature ダイジェスト Vol. 8 No. 3 | doi : 10.1038/ndigest.2011.110330

原文:Nature (2010-12-16) | doi: 10.1038/468901a | A strange ménage à trois

Sidney van den Bergh

大小マゼラン雲は、私たちが住む銀河である天の川銀河(銀河系)のかなり近くにある。この2つの銀河が天の川銀河に合流したのは、かなり最近のことなのかもしれない。これら3つの銀河は、大小マゼラン雲の光度という点でも、また大小マゼラン雲の天の川銀河への近さという点でも、宇宙の大部分の銀河集団と著しく異なっていることがわかった。

現代の私たちは地動説を信じている。だから、天の川銀河は典型的な銀河の1つであり、周囲の天体もごくありふれたものだろうと考えている。こうした考えのうち、典型的な銀河であるという点はそのとおりだ。天の川銀河は、巻き方がかなり緩やかな渦状腕を持つ比較的普通の巨大銀河(ハッブル分類のSbc)であるか、あるいは中心に星が棒状に集まった領域を持つ渦巻状の巨大銀河(同分類のSBbc)とみられる。しかし、周囲の天体がありふれたものという予測は正しくなかった。天の川銀河近傍の天体は変わっていて、かつて期待されていたのとはかなり異なっているのだ。

確かに、天の川銀河が所属している局部銀河群は、小集団で、周辺の銀河群の多くとよく似ている。しかし、最近の観測によって、天の川銀河の最も近い隣人は際立った性質を持っていることがわかってきた。今回、Monthly Notices of the Royal Astronomical Societyに発表された論文1と、プレプリント(予稿)サーバー「arXiv」に投稿された論文2は、こうした観測結果をさらに裏付けるものだ。

アンドロメダ銀河を含む3大部分の銀河の場合、最も近くにある伴銀河(親銀河の周囲を公転する銀河)は、楕円銀河かレンズ状銀河(楕円銀河と渦巻銀河の中間のタイプ)である。一方、もっと遠くにある伴銀河は、巻き方が緩やかな渦状腕を持つ渦巻銀河か不規則な形をした銀河だ。ところが、大マゼラン雲と小マゼラン雲は、天の川銀河に最も近い2つの大きな伴銀河にもかかわらず、不規則銀河なのだ。

この事実は、大小マゼラン雲は以前から天の川銀河に近い伴銀河であったわけではなく、局部銀河群の外縁部で形成された天体であって、現在、たまたま天の川銀河の近くを通過しているだけなのかもしれないことを示している4。最近の計算では、「マゼラン雲が重力に引かれて天の川銀河に近づいたのは過去10億年以内」という確率は約72%、また、大小マゼラン雲がほぼ同時期(10億年以内)に天の川銀河に近づいた確率も約50%と見積もられた5

マゼラン雲の2つ目の特殊性は、大マゼラン雲が、マゼラン雲に似た不規則銀河としては非常に明るいことだ。宇宙の周辺領域で、大マゼラン雲に匹敵する光度を持っていて、マゼラン雲とよく似た不規則銀河はほかに2つしかない(NGC4214とNGC4449)。言い換えれば、大マゼラン雲の光度は、マゼラン雲に似た不規則銀河としては、その上限に近いらしいのだ。

これは重要なことである。なぜなら、渦巻銀河とマゼラン雲に似た不規則銀河には、根本的な形の違いがあるからだ。渦巻銀河の光度には大きな幅があり、すべての渦巻銀河に中心核がある。一方、マゼラン雲に似た不規則銀河は、その大部分はかなり暗く、中心核がない。ただし、この光度に上限があるという話は、マゼラン雲に似た不規則銀河にのみ当てはまり、巨大な銀河の衝突や合体でできた可能性のある、独特で混沌とした不規則銀河には当てはまらない。この点は強調しておくべきだろう。

1969年、スウェーデンの天文学者Erik Holmbergは、米国のパロマー天文台の観測プロジェクト「スカイサーベイ」で撮影された写真を使って、近くの銀河の伴銀河を探した6。そして、意外なことにマゼラン雲に似た明るい伴銀河がかなりまれであることを発見した。このHolmbergの結論が、今回、英国のリバプール・ジョン・ムーアズ大学のPhil JamesとClare Ivoryの研究1や、米国のスタンフォード大学カブリ粒子宇宙物理学・宇宙論研究所(KIPAC)のLulu Liuらの研究2によって補強され、確かめられた。

JamesとIvoryは、天の川銀河に匹敵する明るさを持つ143個の渦巻銀河について、波長帯の狭い画像を使って、星を形成中の伴銀河を探した。彼らは、マゼラン雲と似た、星を形成中の明るい伴銀河はかなりまれであり、天の川銀河の2個の最も明るい伴銀河(大小マゼラン雲)は、光度においても近さにおいても異例だと結論した。

Liuらは別の方法をとった2。彼らは、米日独の国際観測プロジェクト「スローン・デジタル・スカイサーベイ」(SDSS)で得られた莫大なデータを使って、天の川銀河と似た親銀河の150キロパーセク以内にマゼラン雲の光度に近い伴銀河があるケースを探した。ちなみに、大マゼラン雲は天の川銀河から50キロパーセク、小マゼラン雲は60キロパーセクしか離れていない。Liuらは、天の川銀河に似た銀河2万2581個を調べ、その結果、マゼラン雲ほど明るい伴銀河を持たない親銀河が81%に上ること、また、そのような銀河を1個だけ持つ銀河は11%であり、2個持っているのはわずか3.5%にすぎないことを見いだした。

米国の天文学者エドウィン・ハッブルは何十年も前に、「銀河系があるグループの一員であるのはとても幸運な偶然だ」と述べている7。その表現を借りれば、天の川銀河が大マゼラン雲ほど明るい不規則銀河を伴っていることは、ほとんど奇跡なのだ。

(翻訳:新庄直樹)

Sidney van den Berghは、カナダのブリティッシュコロンビア州ヴィクトリアにあるカナダ国家研究会議ヘルツベルグ宇宙物理学研究所ドミニオン宇宙物理学天文台に所属。

参考文献

  1. James, P. A. & Ivory, C. F. Mon. Not. R. Astron. Soc. (in the press); preprint at http://arxiv.org/abs/1009.2875 (2010).
  2. Liu, L. et al. Preprint at http://arxiv.org/abs/1011.2255v2 (2010).
  3. Einasto, J. et al. Nature 252, 111–113 (1974).
  4. van den Bergh, S. Astron. J. 132, 1571–1574 (2006).
  5. Busha, M. T. et al. Preprint at http://arxiv.org/abs/1011.2203v2 (2010).
  6. Holmberg, E. Ark. Astron. 5, 305–343 (1969).
  7. Hubble, E. The Realm of the Nebulae (Yale univ. Press, 1936).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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