Editorial

ヨーロッパの電力系統整備

Nature ダイジェスト Vol. 8 No. 3 | doi : 10.1038/ndigest.2011.110333

原文:Nature (2010-12-02) | doi: 10.1038/468599a | An end to gridlock?

ヨーロッパ各国が、空前絶後の電力系統整備に取りかかることになった。その真剣な姿勢を民間部門に確信させるため、各国は、今以上に行動する必要がある。

一般人にとってはスイッチを入れて明かりがつけば十分で、発電や送電方式に関心を持つ人は少ない。だから、ヨーロッパや米国でエネルギーインフラの老朽化が深刻化しているのに、注目がほとんど集まらない。ところが北海海底送電網建設計画は、歓迎すべき例外だ。2010年12月3日、フランス、ドイツ、英国などヨーロッパ10か国のエネルギー大臣が覚書に署名する。

この世界初の沖合送電網には、多くのメリットが予想される。例えばヨーロッパ北部の送電網が広域接続されて価格競争が生じ、ノルウェーの水力発電による大量の電力を利用できる国々が増え、沖合での風力、波力、潮力発電による電力を内陸部に送るためのルートが確保される。

この送電網は、欧州委員会が11月に発表したヨーロッパの最重要エネルギーインフラ整備事業のうちの1つだ。全事業に必要な投資額は今後10年間に2000億ユーロ(約22兆円)とされ、半分は民間から調達される。北海送電網の総事業費は約200億ユーロ(約2兆2000億円)とされている。

同様のインフラ課題に直面している国や地域は多い。例えば米国では、グーグルが主導するコンソーシアムが、総工費50億ドル(約4200億円)の沖合送電網を建設し、洋上風力発電施設から送電し、老朽化した東海岸の送電網を補強する構想を発表した。また、11月に米国物理学協会が公表した報告書によれば、米国内のほとんどの州で、建設の決まった再生可能エネルギー施設からの送電網が整備されていないという。

北海送電網に関する覚書は、実際の建設に向けた小さな一歩にすぎない。エネルギープロジェクトには大きな経済的利害がからんでおり、真の課題が議論されないことが多く、エネルギー政策は難解な政治ゲームになっているのだ。英国のキャメロン首相、ドイツのメルケル首相、フランスのサルコジ大統領の中道右派政権にとって、程度の差こそあれ、北海送電網に関連する再生可能エネルギー源の開発より、原子力発電の維持と開発のほうが優先課題だと思われる。ただし、それを積極的に公表するとは思 えない。

それでも、覚書に署名する各国政府は、電力供給源を確保し、炭素排出量目標値を達成するうえで、少なくとも市場原理だけではインフラ投資が確保できないことを認めることになる。かなり最近まで、多くの政治指導者は、適切なエネルギー源と必要なインフラは「市場が決める」という愚かな主張をしてきた。しかし現実には、エネルギー部門に対する民間投資は、政府が定めるルールと目標に大きく依存しており、愚かな主張は破たんしたのだ。

特に国際的な送電線の建設地に関する決定は、最終的には政治的な決定となる。そして、採算性をもつ発電施設の最適配置は、ほとんどの場合、送電網の容量によって決まる。もし50年前のヨーロッパで、送電網の計画・建設・資金をすべて民間部門に任せていたならば、送電網は全く機能しなかったはずだ。同様に、将来の送電網建設を民間資金に全面依存すれば、数十年間も公共投資の行われていない米国の送電網のように、頻発する停電を覚悟しなければならないことを知るべきだ。

送電網整備には研究開発も必要で、その多くが、ほとんど注目されていない分野にある(Nature 2010年12月2日号624ページ参照)。海底送電網のコスト低減と効率向上のためには、高圧直流変換機と制御システムのような技術が必要となる。ストラスクライド大学(英国グラスゴー)では、1億ポンド(約130億円)の予算で、イノベーションと再生可能エネルギーに特化した研究センターの建設を計画しており、こうした研究機関が、必要な技術を提供することになる。

新たなエネルギーインフラを整備するための資金を民間から集め、公的支出を抑制するには、各国政府が、力強いメッセージを一貫して発信する必要がある。北海送電網に関与する各国は、電力の取引を可能にするために、期限を定めて、国内法を改正するのが、まずは出発点になる。ヨーロッパが史上初の電力系統の更新に着手すれば、炭素排出量の削減、電気代の低減、停電の解消といった恩恵が期待できる。

(翻訳:菊川要)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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