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汝の隣人を愛せ

共同研究プロジェクトに従事したことがある人なら誰でも、主要なメンバーどうしが近くにいるほど、良好な結果が出ると感じているのではないだろうか。このほど、共同研究者間の距離の近さと論文の影響力との関係が調べられ、その直観が裏付けられた。

ハーバード大学医学系大学院生物医学情報学センター(米国マサチューセッツ州ボストン)の共同所長であるIsaac Kohaneは、2005年に同大学院管理部長のRichard Millsとセンターのレイアウトについて議論した末、この直観を検証することを決めた。彼は10人以上の学生の協力を得て、1999~2003年に発表された生物医学分野の論文を検索し、著者にハーバード大学の研究者が含まれている、3万5000本の論文を特定した。そして、2年をかけて、ひとりひとりの研究者がハーバード大学内のどこで研究を行っているかを、オフィスや研究室のレベルまで明らかにした。

PLoS ONEに発表された研究結果によると(K.Lee et al. PLoS ONE 5,e14279; 2010)、共著論文のファーストオーサー(筆頭著者)とラストオーサー(末尾著者)が地理的に近いほど、その論文の引用回数が多くなることが明らかになった。多くの場合、ファーストオーサーは研究の中心的人物であり、ラストオーサーは組織のリーダーであるが、どちらも研究プロジェクトで重要な役割を果たしている。ミドルオーサーについてはそうした傾向は見られず、ほかの研究者と遠く離れていても、論文の引用回数に明確な差はなかった。

ハーバード大学医学系大学院ロングウッドキャンパスの各研究棟から発表された論文の引用回数の平均値(高さ)と、ファーストオーサーとラストオーサーが同じ研究棟内にいる論文の割合(灰色から青みが増すほど大きい)を組み合わせた図。青いビルほど高くなっている。 Credit: K. LEE ET AL. PLOS ONE 5, E14279; 2010

Kohaneらはまた、ハーバード大学で生命科学研究が行われている4つのキャンパス内にある個々の研究棟についても調査を行った。その結果、同じ建物内での共同研究が多い研究棟から発表される論文は、ほかの場所にいる研究者との共同研究が多い研究棟から発表される論文に比べて、引用回数が多いことが明らかになった(右図参照)。すなわち、研究者は、画期的な研究をするときには、自分の研究室内か、特に関係の深い研究者と組みたがるということだ。

ライデン大学(オランダ)のAnthony van Raanは、論文の引用回数を分析して研究者の生産性とその影響力について調べる専門家である。彼は、今回の研究を、共同研究者間の距離の近さと論文の影響力との関係を実証する最初の試みであるとみている。研究者間の空間的な距離と論文の影響力との関係を調べる既存の研究のほとんどは、国内共同研究と国際共同研究を比較するもので、国際共同研究の論文は国内共同研究の論文よりも引用回数が多いという結果が何度も出ている。これはおそらく、研究の規模が大きく、範囲も広いことと関係しているのだろう。

Kohaneは、国際共同研究も、ファーストオーサーとラストオーサーが非常に近いところで研究しているなら、もっとうまくいくのではないかと推測している。ただし、まだ検証はされていない。もちろん彼は、自ら持論を実践している。この論文のラストオーサーである彼は、学生による実態調査のまとめ役をしたファーストオーサーのKyungjoon Leeと同じフロアで仕事をしている。「研究当初、私たちは別々のフロアにいました。Joonいわく、彼のフロアに移動してからの私は、非常に協力的になったということです」とKohaneは語っている。

翻訳:三枝小夜子

Nature ダイジェスト Vol. 8 No. 3

DOI: 10.1038/ndigest.2011.110308

原文

Love thy lab neighbour
  • Nature (2010-12-23) | DOI: 10.1038/4681011a
  • Richard Van Noorden