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動いているミオシン

参考インタビュー(動画あり)

構造生物学の究極的な目標は、タンパク質が動いている姿をとらえることだ。金沢大学の安藤敏夫らは、まさにそれを実現してみせた(N. Kodera et al.Nature 468, 72–76; 2010)。細胞骨格モータータンパク質「ミオシンV」が、アクチンフィラメントに沿って「歩行」するところを直接可視化したのだ。

このチームが開発した高速原子間力顕微鏡(HS-AFM)法では、光学顕微鏡法をはるかに上回る分解能でタンパク質の像を迅速に得ることができる。安藤らは、この先進的技術を応用して、ミオシンVの逐次的な動きを可視化した。このタンパク質はV字型につながった2本の脚状構造をしており、それぞれの脚は、モータードメイン(ヘッド、先端部)と長いネック(レバーアーム)からなる。2つのヘッド(先端部)がアクチンフィラメントに沿って動くが、それに必要なエネルギーはATPからADPへの加水分解で供給される。

上のHS-AFM像には、前脚の先端(L)と後脚の先端(T)がはっきりと見える。1コマ目で左からやってきたミオシンは、2コマ目と3コマ目でその全体像を見せる。4コマ目では1歩で場所を変えている。

研究チームの分析で、アクチンフィラメントに沿って36ナノメートルのステップで連続的に動くこと、その動きはハンドオーバーハンド運動(人が歩くような脚の交互前進運動)であることなど、既知の挙動が確認された。しかしそれだけでなく、「レバーアームのスイング仮説」の確かな証拠も得られた。これは、ミオシンのヘッド領域の微小な変化がレバーアームによって増幅され、ネックの反対側で大きな変位が生じ、それがタンパク質全体のアクチンフィラメントに沿った動きに変換されるというものだ。

さらに、L、Tいずれかのヘッド(先端部)がアクチンから解離して再結合するという「足踏み」のような動きも明らかになった。これはTヘッドよりLヘッドの方に多く見られるが、Tヘッドの足踏みはフィラメントに沿った前進運動につながる場合が多い。

安藤らが明らかにしたミオシンVの動きは、生体分子モーターに関与するメカニズムの解明に大きな影響を与えるだろう。また、HS-AFM技術は、生体分子のイメージング分野でますます重要な位置を占めていくであろう。

翻訳:小林盛方

Nature ダイジェスト Vol. 8 No. 2

DOI: 10.1038/ndigest.2011.110215

原文

Myosin in motion
  • Nature (2010-11-04) | DOI: 10.1038/468043a
  • Deepa Nath