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3日遅かった、ノーベル医学生理学賞

Nature ダイジェスト Vol. 8 No. 12 | doi : 10.1038/ndigest.2011.111202

原文:Nature (2011-10-06) | doi: 10.1038/478013a | Nobel announcement marred by winner's death

Ewen Callaway

今年のノーベル医学生理学賞は、免疫機構の解明に大きな業績を残した3人に授与された。だが、その1人、Steinmanは発表3日前に死去していた。

Bruce Beutler(左)、Ralph Steinman(右)。 | 拡大する

SCRIPPS RES. INST.(LEFT) ; ROCKEFELLER UNIV.(RIGHT)

10月3日、2011年ノーベル医学生理学賞が発表された。受賞者は、フランス国立科学研究センター細胞分子生物学研究所のJules Hoffmann、スクリプス研究所(米国)のBruce Beutler、そして、ロックフェラー大学(米国)のRalph Steinmanの3人だ。だが、まもなく残念なニュースが飛び込んできた。Steinmanは発表3日前の9月30日に死去していたのだ。通常、故人への授賞はないが、ノーベル賞選考委員会は授賞者決定の時点でSteinmanの死を知らず、結局、Steinmanへの授賞は取り消さないと決定した。

3人は、自然免疫と適応免疫という2つの免疫系の「武器」が働く仕組みの解明に貢献した。自然免疫は、感染微生物や異物に対して先天的に備わった免疫で、適応免疫は、そうした異物に対して後天的に獲得する免疫である。

Steinmanは、適応免疫系にきわめて重要な樹状細胞と呼ばれる免疫細胞を発見した。樹状細胞は、免疫応答の標的を絞り込むために、体内に侵入した病原体の種類を正しく見分ける。一方、HoffmannとBeutlerは、適応免疫系よりもすばやく防御線を張る自然免疫系に重要な「異物感知センサー分子」を発見した。このセンサー分子は、さまざまな病原体が共有する特徴を認識して警報を発する「監視員」の役目をしている。

Steinmanは1970年代前半に、ロックフェラー大学のZanvil Cohn研究室で免疫系の研究を始めた。当時、ほとんどの研究者は、マクロファージが、T細胞に特定の病原体の存在を警告していると考えていた。T細胞は警告を受けると活性化して増殖し、病原体に感染した細胞を殺したり、B細胞に病原体を阻害する抗体を産生させたりして、感染に応戦する。

そんな中、Steinmanは別の種類の免疫細胞を見つけた。その細胞には樹枝に似た突起があったので、これを「樹状細胞」と名付けた。さらに、T細胞の活性化にはマクロファージよりも樹状細胞のほうが重要なことがわかった。

「当初、樹状細胞は大したことのない細胞とみられて、その重要性を誰も認めたがりませんでした」と、オックスフォード大学(英国)の免疫学者で、CohnやSteinmanとともに研究したSiamon Gordonは振り返る。「法王が2人現れたような騒ぎになってね。樹状細胞派とマクロファージ派の対決が勃発しました」。だが、Steinmanは粘り強くデータを集め続け、ついには批判派を納得させたのだ。

一方、Hoffmannは、適応免疫系がないショウジョウバエが真菌に感染しない理由を調べていた。そして1996年、胚発生に関係するToll遺伝子が、病原体と闘うためにも重要なことを突き止めた。Toll遺伝子が変異したショウジョウバエを細菌や真菌にさらしたところ、死んでしまったのである。

同じころ、テキサス大学サウスウェスタン医療センター(米国ダラス)にいたBeutlerは、マウスで6年にわたって探していた、菌体内毒素の一種リポ多糖類(LPS)を認識する免疫系遺伝子をようやく見つけた。それはなんと、Toll遺伝子に非常によく似ていた。やがて、次々とほかのToll様受容体が発見され、病原体由来の分子を感知し、自然免疫系の重要部分を担っている分子群であることが明らかになった。

樹状細胞の発見もToll様受容体の発見も、医学にさまざまな影響を及ぼしてきた。ワクチンは通常、迅速な免疫応答を促すために金属などのアジュバント(免疫補助剤)を加えて投与されるが、いくつかの製薬会社は現在、Toll様受容体を活性化するアジュバントを開発中である。また、米国食品医薬品局にがんの細胞免疫療法薬として唯一承認されているプロベンジは、前立腺がんで作り出される分子を樹状細胞に認識させて治療するものだ。患者自身の樹状細胞を採取して培養し、前立腺がんに対する免疫を増強させる処置をしてから患者に戻すという手順を取る。

「免疫研究分野がこれほど大きく進み、臨床現場に生かされているのは、免疫系の活性化機構が解明されたおかげなのです」と、英国医学研究会議の免疫学ユニット副部長Vincenzo Cerundoloは語っている。

(翻訳:船田晶子、要約:編集部)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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