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血液から明かされるエピゲノム

Nature ダイジェスト Vol. 8 No. 12 | doi : 10.1038/ndigest.2011.111221

原文:Nature (2011-09-29) | doi: 10.1038/477518a | Europe to map the human epigenome

Alison Abbott

ヨーロッパで、血液を利用したエピゲノムの参照ライブラリーの構築がスタートした。

今年10月、欧州委員会の衛生研究部門が3000万ユーロ(約32億円)を投じて、ヒトのエピゲノムを明らかにする史上最大のプロジェクトがスタートした。エピゲノムとは、後天的なDNA修飾のことで、遺伝子の発現を調節している。BLUEPRINTと呼ばれるこのプロジェクトは、ヨーロッパ全域の41の施設と50人以上の主要な研究者を結びつけて、エピゲノムの参照ライブラリーを構築しようという計画だ。

すでに昨年、エピゲノムが健康や疾病にどのような影響を与えているのかを明らかにするために、国際ヒトエピゲノムコンソーシアム(IHEC)が立ち上げられており、今後7~10年間で参照エピゲノムを1000組集める計画がある。これに対し、BLUEPRINTは、2020年までに100組を超える参照エピゲノムを集める予定だ。ヨーロッパは、BLUEPRINTで、IHECの主役になろうとしているのだ。

1人の人間を作り上げている細胞はすべて、同じ受精卵から生じ、同じゲノムを持っている。しかし、発生の過程で、細胞内のDNAが化学的に修飾されて固いコイル状の三次元構造が変化し、これにより、どの時点のどの細胞でどの遺伝子が活性化あるいは抑制されるのかが左右される。その後エピゲノムは基本的に安定化するが、環境の変化に反応してわずかながら絶えず変化し、また、がんなどの疾患でも変化する。

健康や疾病に対するエピゲノムの重要性は、徐々に明らかにされつつある。しかし、研究者は巨大な障壁にぶつかっている。新しいデータを突き合わせるための、定量的で質が高く、信頼できる参照エピゲノムのライブラリーがまだないのだ。1人の個人内あるいは個人間の細胞の間で、通常、エピゲノムがどれほど異なっているのかさえ、ほとんどわかっていない。

BLUEPRINTは特に、血液系に焦点を絞った。診断検査の多くは血液検体に依存しており、臨床応用への近道になるのだ。ナイメーヘン分子生命科学センター(オランダ)に所属するBLUEPRINTの取りまとめ役、Henk Stunnenbergは、「血液は、バイオバンクに貯蔵されていて、ゲノム解析にも利用されています」と語る。

さらに、血球は常に新しいものと入れ替わっており、血液はさまざまな成熟段階の細胞の混合体となっているという利点がある。「血球のエピゲノムから、細胞の発達について何らかの一般則が明らかになるかもしれません」とStunnenbergは期待する。

BLUEPRINTでは、英国の国立血液バンクに貯蔵されている健常者の血液から採った60種類の細胞から参照エピゲノムを得ようとしている。それぞれのエピゲノムには、全ゲノム配列とともに、9種類のエピジェネティックマーカーの存在と分布に関するゲノム全体の定量的データが含まれている。

また、健常者のエピゲノムと比較するため、60種類を超える血液がん細胞の参照エピゲノムも得る予定だ。さらに、エピゲノムがどの程度子孫に受け継がれるのかをマウスで調べたり、健常者100人に由来する2種類の血球から低分解能のエピゲノムを得て、もともと個人が持っている変異を定量的に示そうとしたりする計画である。

IHECの立ち上げに尽力した南カリフォルニア大学(米国ロサンゼルス)のPeter Jonesによれば、「BLUEPRINTは、IHECの目的に合うよう特別に作られた最初の大きなエピゲノムプロジェクト」なのだという。「血液幹細胞が分化する仕組みに関してはとてもよく知られています。一方、疾患につながるプロセスに関与するエピジェネティックな事象の流れはほとんど明らかにされていません。それゆえに、血液エピゲノムは非常に興味深いのです」 。

(翻訳:小林盛方)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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