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宇宙の加速膨張の発見に物理学賞

Adam Riess Credit: JOHNS HOPKINS UNIV.

宇宙論の核心部分に大きな謎の種をまいた3人の天体物理学者が、2011年のノーベル賞を受賞することになった。

ローレンスバークレー国立研究所(米国カリフォルニア州)のSaul Perlmutterは、宇宙の膨張が加速していることを発見した研究チームを率いた功績により、ノーベル物理学賞の2分の1を授与される(S. Perlmutter et al. Astrophys. J. 517, 565-586; 1999)。これとは独立に宇宙の加速を測定したオーストラリア国立大学ウエストンクリーク校(キャンベラ)のBrian Schmidtと宇宙望遠鏡科学研究所(米国メリーランド州ボルティモア)のAdam Riessは、賞の4分の1ずつを授与される(A. G. Riess et al. Astron. J. 116, 1009-1038; 1998)。彼らの発見以来、研究者らは、この現象を説明しようと努力を続けている。

Schmidtはスウェーデンからの電話取材に対して、「膝がガクガクしています、子どもが生まれたときのような感じです」と答えた。

3人の科学者たちは、遠方のIa型超新星の測定に基づいて、その結論に達した。Ia型超新星爆発はきわめて特殊な連星系で起こるもので、白色矮星が伴星から物質を剝ぎ取り、一定の質量に達したところで爆発するものだ。Ia型超新星は、そのピーク時にはほぼ同じ量の光を発するため、宇宙の「標準光源」として、超新星が出現した銀河までの距離を測定するのに利用できる。

受賞者たちは、1980年代末から1990年代初頭にかけて、新たに開発されたデジタルセンサーを用いてIa型超新星の明るさを高い精度で測定した。次に、その測定値を、超新星の赤方偏移(天体が我々から遠ざかる運動により生じる色の変化)から予想される明るさと比較した。その結果、超新星の明るさの実測値が、赤方偏移から予想される明るさよりも暗いこと、つまり、超新星の実際の位置が、赤方偏移から予想される距離よりも遠いことを見いだした。これを理解するためには、宇宙が単に膨張しているだけでなく(天文学者が最初に膨張に気づいたのは1920年代のことだった)、速度を上げながら膨張していると考える必要があった。

Schmidtは当初、この発見に「当惑させられた」と言う。天文学者の大半は、ビッグバン後の宇宙は急激に膨張しているが、遠く離れた銀河どうしを重力が引き寄せるため、徐々に失速していくだろうと予想していたからである。それにもかかわらず、彼らの発見は天文学コミュニティーによってほとんどすぐに受け入れられた。これには、かのアルバート・アインシュタインが、宇宙を押し広げる圧力という概念を提案していたことも関係している。

アインシュタインが1917年に自分の一般相対性理論を宇宙全体に適用したとき、彼の方程式にはまさにそのように外へ向かう力を記述する「宇宙定数」が含まれていた。最近10年間に行われた宇宙の大規模構造の観測は、ビッグバンのかすかな残光である宇宙マイクロ波背景放射の観測とともに、我々が、宇宙にあるエネルギーの大部分を検出できていないことを示唆している。天文学コミュニティーは現在、宇宙のエネルギーの約73%が宇宙膨張の加速につぎ込まれていることを認めている。この力はダークエネルギーと呼ばれ、その正体は謎に包まれている。カーディフ大学(英国)の天体物理学者Peter Colesは、「発見されたものが何なのか、誰も本当にはわかっていないのです」と言う。

現時点では、ダークエネルギーは宇宙の真空の量子ゆらぎから生じるという見解が支配的だが、量子論を用いてこれを記述しようとする試みはこれまでのところ失敗に終わっている。重力理論の改変など、その他の理論はほとんど受け入れられていない。

「どれも正解ではないのかもしれません」とColesは言う。しかし、「彼らの実験がなかったら、我々は今、『どれも正解ではないのかもしれない』と言うことさえできなかったのです」。

翻訳:三枝小夜子

Nature ダイジェスト Vol. 8 No. 12

DOI: 10.1038/ndigest.2011.111203

原文

Stellar performance nets physics prize
  • Nature (2011-10-06) | DOI: 10.1038/478014a
  • Geoff Brumfiel