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大量絶滅を引き起こした巨大火山活動

巨大火成岩岩石区(LIP:Large Igneous Province)は、地球の火山活動のスケールの大きさを雄弁に物語る地形である。この広大な火山性台地は、実に、数千km3もの玄武岩質溶岩流が何層にも積み重なってできた。実際に溶岩が噴出している様子を目撃した人はいないが、それは幸運以外の何ものでもない。この巨大火成岩岩石区での溶岩の噴出が、生物の大量絶滅や炭素循環の大変動を引き起こしたのではないか、と考えられているからだ。

図1:シベリア・トラップ
シベリアのタイミル半島プトラナにある洪水玄武岩流。この岩山は、ペルム紀末期の大量絶滅が起きたのと同じ約2億5000万年前に噴出した巨大火成岩岩石区(LIP)の一部である。Sobolevらによる新しい研究1は、噴出したマグマに大量の海洋地殻物質が含まれており、そのために膨大な量の火山ガスが発生し、このような環境危機を引き起こしたと説明する。 Credit: S. FOMINE/GLOBAL LOOK/CORBIS

しかしこれまで、巨大火成岩岩石区と環境変化との関連については、ほとんど何もわかっていなかった。今回、StephanおよびAlexander Sobolev兄弟らが、シベリア・トラップ(図1、シベリアにある巨大火成岩岩石区)での研究を通して新しい仮説1を提案しており、それが答えにつながる可能性がある。

図2:シベリア・トラップの地質分布1
濃い緑色で示したのが冷えた溶岩地帯で、黄緑色は凝灰岩(火山砕屑岩の一種)地帯を示す。火成岩の岩石区がいかに広大か、想像できるだろう。 Credit: REF.1

特定の場所の火山活動が地球規模の大災害を引き起こす場合、そこに火山ガスの放出が関与しているのは明らかだ。火山ガスに豊富に含まれる二酸化硫黄(SO2)やハロゲンは短期的な寒冷化と酸性雨を引き起こすし、二酸化炭素(CO2)は温室効果を及ぼす。火山ガスが環境を破壊する可能性があるのも明らかで、LIP(巨大火成岩岩石区)で溶岩が噴出する際に放出される火山ガスの量を計算すれば、その程度を評価することができる。原理は単純だ。最初に、現在のハワイなどで玄武岩が噴出する際に放出されるガスの量を測定し、LIPの大きさ(典型的なもので数百万km3)まで、その数字をスケールアップすればよい。

計算からはかなり大きな数字が出るが、これは、LIPの火山活動が続く100万年近い歳月の間に放出されるガスの総量である2。この点は重要だ。なぜなら、大気中に入ったガスは数年以内に除去されるため、次の噴出が始まるまで、環境が回復する時間は十分にあるからだ。CO2でさえ、数千年以内にかなりの部分が除去されて、岩石の風化、特に玄武岩流そのものの風化の際に消費される3

このように大気は速やかに回復するため、環境の破壊は、1回の溶岩噴出の間か、短い間隔で何度も溶岩噴出が起きている間に起こることになる。このような推論は、LIPで溶岩の噴出が始まった時期が大量絶滅が起きた時期とよく一致していることを明らかにした最近の研究4で裏付けられている。つまり、最初の一撃ですべての環境被害が生じるのだ。

しかし、1つ問題がある。1回の溶岩流に伴って放出されるガスの量は、大した量にはならず、人間の活動によって発生するSO2やCO2の年間排出量よりも少ないくらいなのだ2。LIPで溶岩噴出が起きた時期は環境危機の時期と一致しているのに、単純に計算したガス流量からは、火山ガスによる影響は小さいことになってしまう。これは困った話である。

Sobolevらの仮説1は、LIP(巨大火成岩岩石区)のマグマ源に関するもので、噴出が始まった時点では特に、一般に仮定されているよりはるかに多くのガスを含んでいた、と提案する。従来の理論では、LIPは地球深部で生成したマントルプルームに由来しており、一度も溶融したことのない始原的な物質が噴出したものとされてきた5。Sobolevらは、この見解には反対しないが、上昇してくるプルームに海洋地殻が含まれていることを示す地球化学的・岩石学的証拠を提示したのだ。

この海洋地殻は、海溝を経由してマントルへとリサイクルされ、プルームの成分の最大20%を占めている可能性がある。その影響は甚大だ。プルームに含まれる海洋地殻は、マグマが地表に到達する機構を変え、放出されるガスの量を大幅に増やすからである。

これまでは、高温で浮力の大きいマントルプルームが地殻のすぐ下まで上がってくると、隆起と伸張が起きて、マグマが噴出できるようになると考えられてきた6。しかし、海洋地殻成分を含むプルームは、マントル物質のみからなるプルームに比べてかなり密度が高いため、その上昇は純粋に熱的なプロセスではなく、力学的なプロセスが加わってくる。すなわち、マントルの最上部と地殻を「侵食」していくのだ。

地殻の下部の熱的・力学的な侵食が起こるためには、従来のモデルよりも多くのマグマが必要となり、その分、ガスの量も多くなる(ガスはリサイクルされた海洋地殻から発生する)。Sobolevらのモデルでは1、玄武岩の溶融が起こる先端部から揮発性の火山ガスが抜けていくので、LIPの火山活動は大量のガス噴出から始まることになる。こうした大規模な爆発が活動初期にあったことは、大量絶滅イベントと密接に関連しているシベリア・トラップや峨眉山トラップなど複数のLIPの調査で裏付けられている4

Sobolevらのモデルは、従来の理論で不足していた火山ガスの発生量を増やし、大量絶滅とLIPでの溶岩噴出の開始時期との相関を説明し、多くのLIPで溶岩噴出前の隆起(熱的なドーム形成)が見られないという問題7を解決するなど、優れた点がいくつもある。そのうえ、LIPでの溶岩噴出と同じ時期に、炭素同位体記録に記された炭素循環が大きく変化していることも説明できるのだ。

マントルのCO2の同位体組成は、海洋–大気系のCO2の同位体組成に比べて、炭素12(12C)の比率がわずかに高いものの、それほど大きな違いはない。これは、火山の噴火に由来する膨大な量のCO2でさえ、同位体記録にはほとんど痕跡が残らないことを意味している。ところが、ほとんどのLIPで溶岩が噴出していた時期、特に、大量絶滅と関連付けられている時期は、炭素同位体比が突然大きく変動する時期、すなわち、12C に富むCO2が大気中に到達したと考えられる時期と一致しているのだ。海洋地殻に由来する炭素は、純粋なマントル物質に由来する炭素に比べて12Cを豊富に含んでいるため、炭素同位体記録に痕跡を残しているのは、この炭素かもしれない訳だ。

Sobolevらによる研究1は、シベリア・トラップに注目したものであり、その活動時期は、約2億5000万年前のペルム紀末期の大量絶滅の時期と一致している。小規模な絶滅イベントが起きた時期に活動していたカルー・フェラー岩石区や、地球規模の生物相に全く影響を及ぼさなかったパラナ・エテンデカ岩石区など、ほかの巨大火成岩岩石区(LIP)を調べて、このモデルをさらに検証するのは有益なはずだ。巨大火成岩岩石区が環境に影響を及ぼす場合と及ぼさない場合があることを説明するため、現在、各種の複雑な仮説8が提案されている。この関係に欠けていた変数は、地表に向かって上昇するプルームに含まれるリサイクルされた海洋地殻の割合なのかもしれない。

翻訳:三枝小夜子

Nature ダイジェスト Vol. 8 No. 12

DOI: 10.1038/ndigest.2011.111230

原文

Lethal volcanism
  • Nature (2011-09-15) | DOI: 10.1038/477285a
  • Paul B. Wignall
  • Paul B. Wignall、リーズ大学地球環境大学院(英国)。

参考文献

  1. Sobolev, S. V. et al. Nature 477, 312-316 (2011).
  2. Self, S., Widdowson, M., Thordarson, T. & Jay, A. E. Earth Planet. Sci. Lett. 248, 518-532 (2006).
  3. Schaller, M. F., Wright, J. D. & Kent, D. V. Science 331, 1404-1409 (2011).
  4. Wignall, P. B. et al. Science 324, 1179-1182 (2009).
  5. Jackson, M. G. & Carlson, R. W. Nature 476, 316-319 (2011).
  6. Saunders, A. D. et al. Chem. Geol. 241, 282-318 (2007).
  7. Sun, Y. et al. Lithos 119, 20-33 (2010).
  8. Wignall, P. Elements 1, 293-297 (2005).