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宇宙のモンスターの目覚め

Nature ダイジェスト Vol. 8 No. 11 | doi : 10.1038/ndigest.2011.111122

原文:Nature (2011-08-25) | doi: 10.1038/476405a | The awakening of a cosmic monster

Davide Lazzati

多くの銀河の中心部には巨大なブラックホールがある。静かなブラックホールがある一方で、大量の放射線を出しているものもある。今回、「ブラックホールの目覚め」ともいえる現象が初めて観測された。静かなブラックホールが、近くの星をばらばらに壊して飲み込み、突然、大量の放射線を出すブラックホールへと変身したのだ。

2011年3月28日、米国航空宇宙局(NASA)の宇宙望遠鏡スウィフト(SWIFT)を使って観測を進めていた天文学者チームは、警戒態勢に入った。新しいガンマ線源が天球の北半球に現れたからだ。スウィフトは、ガンマ線バースト、つまり、高速で自転する大質量星が死を迎えるときに起こすすさまじい一時的放射現象を探すために、設計されていた。今回の現象は当初、スウィフトにとってはさほど大きなニュースではなかった。しかし、観測を続けるうちに、何か全く新しいことが起こっていることが明らかになった。

ガンマ線バーストは普通、明るい時期が長続きせず、なだらかに減衰していく。ところが、ペンシルベニア州立大学(米国ユニバーシティパーク)天文・宇宙物理学科のD.N.Burrowsらが観察した放射源は、きわめて高い光度を1か月以上にもわたって維持し、変動も大きかった。Burrowsらは観測結果をNature 2011年8月25日号421ページに報告した1

さらに、ハーバード・スミソニアン宇宙物理学センター(米国マサチューセッツ州)のB. A. Zaudererらは、電波波長帯で追跡観測を行い、この新たな放射源が、自然界で許される最高速度である光速に近い速度で拡大していたことを見つけ、同号425ページに報告した2。また、光学望遠鏡による観測で、この放射源が遠方の銀河の中心にあることがわかり、ガンマ線バーストであるという当初の見方とは全く異なる現象であることが明らかになった3

この新しい放射源は「Swift J164449.3+573451」と名付けられた。現在、これは銀河の中心にある大質量ブラックホールが星の潮汐破壊を引き起こし、そこで起こった現象から出る電磁波が見えているのだ、と考えられている。その解釈が正しければ、このブラックホールは太陽の約100万倍の質量を持っていることになる1,2。この質量は、私たちの天の川銀河の中心にあるブラックホールの質量に匹敵する4。しかし、太陽の10億倍以上の質量を持つブラックホールもあり、そうしたものに比べれば比較的軽い。

大質量ブラックホールの潮汐力によって星が破壊される現象は、理論的に予言されている5-7。また、その現象が起こった結果とみられるものも、過去にいくつか観測されている8-10。しかし、この現象がまさに始まるところが観測されたことは、これまでなかった。今回の観測では、予測よりも1万倍も明るいX線と、予想よりずっと高い振動数の光子が観測され、観測者も理論研究者も驚いた。予想外の現象がもたらされた原因は、星破壊プロセスの動力学と、星を作っていた物質のブラックホールへの降着にある。

ある星が大質量ブラックホールに接近すると、星のブラックホールに近い側に働く力は、遠い側に働く力よりもずっと大きくなる。その結果、地球における海の潮汐とよく似たプロセスによって、星が引き伸ばされる。そして、星がブラックホールに近づきすぎると、この作用は非常に強くなり、星自身が破壊されてしまうのだ。星を構成していた物質は大きな角運動量を持っているので、ブラックホールに雨のように降り注ぐことはできず、ブラックホールの上にゆっくりと降着する円盤ができる。このゆっくりした降着が大量の電磁放射を引き起こす。これが「ブラックホールの目覚め」なのだ。

図1:相対論的ジェットの想像図
相対論的ジェットは粒子と電磁放射の噴出現象で、回転するブラックホールにガスや星が落ち込むときに形成される。Burrowsら1とZaudererら2は、超大質量ブラックホールを擁する銀河の中心での相対論的ジェットの誕生を観測した。 | 拡大する

D. BERRY(宇宙望遠鏡科学研究所)

この降着プロセスにより、高速の(相対論的な)ジェットができることがBurrowsら1とZaudererら2の観測で明らかになったが、ブラックホールによる星の潮汐破壊に関する理論モデルでは、それが考慮されていなかったのだ5-7。相対論的ジェットは、宇宙物理学においてはきわめてありふれた現象である11,12。それは、粒子や電磁場、あるいはその両方の噴出現象で、ブラックホールの回転軸に沿う方向に集中している(図1)。

Swift J164449.3+573451の場合、幸運なことに、地球にいる私たちはジェットの軸方向から系を観測することができた。地球方向を向いている相対論的ジェットは、光子の相対論的コリメーション(平行化)のために、視線方向に垂直なジェットよりずっと明るく見える。さらに、ドップラー効果のために、地球に向いているジェットは向いていないジェットよりも高い振動数で輝く。Swift J164449.3+573451の場合、ジェットは光速の99.5%の速度で運動していると見積もられた2。だから、予測されていたのは可視光波長での比較的低光度の一時的現象だったが5-7、実際に観測されたのは、電波波長からガンマ線光子までにわたる、すべての波長域での極端に明るい電磁放射だったのだ。

しかし、BurrowsらとZaudererらの観測結果は、宇宙物理学者たちを単に驚かせているだけではない。今回の観測結果は、銀河の中心のようすとそこで活動している物理プロセスの解明にも役立つかもしれない。すでに述べたように、軌道を回る人工衛星と地球上の望遠鏡が、Swift J164449.3+573451を複数の波長で観測し、スペクトルの変化や時間的変化を追っている。今回のガンマ線の噴出が潮汐力で破壊された星によって生じたのなら、星を作っていた物質のすべてがブラックホールに飲み込まれれば、放射源はやがて衰えるはずだ。

さらに、今後の観測でこの種の噴出現象がさらに見つかる可能性が高い。それが起こる比率がわかれば、大質量ブラックホールを持っている銀河の比率、ブラックホールの性質、銀河の中心部にある星の密度について知ることができるだろう。相対論的ジェットの誕生と初期の進化を観測することで、ジェット形成プロセスそのものについて、また、ジェットが銀河の星間物質中に噴き出す際に周囲の物質とどのような相互作用をするのかについて、たくさんの情報がもたらされるはずだ。

(翻訳:新庄直樹)

Davide Lazzati、ノースカロライナ州立大学物理学科(米国)。

参考文献

  1. Burrows, D. N. et al. Nature 476, 421–424 (2011).
  2. Zauderer, B. A. et al. Nature 476, 425–428 (2011).
  3. Levan, A. J. et al. Science 333, 199–202 (2011).
  4. Ghez, A. M., Klein, B. L., Morris, M. & Becklin, E. E. Astrophys. J. 509, 678–686 (1998).
  5. Rees, M. J. Nature 333, 523–528 (1988).
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  7. Strubbe, L. E. & Quataert, E. Mon. Not. R. Astron. Soc. 400, 2070–2084 (2009).
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  9. Gezari, S. et al. Astrophys. J. 676, 944–969 (2008).
  10. Maksym, W. P., Ulmer, M. P. & Eracleous, M. A. Astrophys. J. 722, 1035–1050 (2010).
  11. Bridle, A. H. & Perley, R. A. Annu. Rev. Astron. Astrophys. 22, 319–358 (1984).
  12. Mirabel, I. F. & Rodríguez, L. F. Nature 371, 46–48 (1994).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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