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高温超伝導フィーバーから25年

Nature ダイジェスト Vol. 8 No. 10 | doi : 10.1038/ndigest.2011.111026

原文:Nature (2011-07-21) | doi: 10.1038/475280a | High-temperature superconductivity at 25: Still in suspense

Adam Mann

高温超伝導の発見から四半世紀が経過した。しかし、あれだけの大騒ぎにもかかわらず、この種の材料がいかにして超伝導状態となるのか、その機構はなお未解明のままだ。

「我々の評判はナイトクラブの用心棒にまで知られていたんですよ」。1987年3月に米国物理学会(APS)の会議が開かれたニューヨークの雰囲気について、Paul Grantはこう回想する。

宣伝は十分だった。会議の数か月前から、新聞や雑誌、テレビのトーク番組までもが、超伝導の驚くべき発表を伝えていたからだ。エネルギー損失なしの送電線、磁気浮上列車、超小型コンピューターといった夢を語り、そんな時代がすぐにでも来るかのようにあおっていた。現在はW2AGZ Technologies社(米国カリフォルニア州サンノゼ)というエネルギーコンサルティング会社の物理学者であるGrantによれば、いよいよ会議が始まってから、夜にAPSのバッジを付けて最新流行のクラブに行くと、行列のいちばん前に案内されたという。店の名前は、まさにぴったりの「ライムライト」(脚光)だった。

物理学のウッドストック

そんな世間の興奮も、物理学者たちの熱狂に比べれば可愛いものだった。3月18日水曜日の夕方、ヒルトン・ニューヨークのボールルームにぎゅうぎゅう詰めになった1800人以上のAPS参加者は、7時間以上に及ぶマラソン発表を見守った。シンポジウムは時々騒然となり、「物理学のウッドストック」と呼ばれた。ウッドストックとはもちろん、1969年8月に50万人を動員した伝説のロックフェスティバルのことだ。研究者たちは、彼らにとって最も意外な発見、つまり、ある種の材料が高温で超伝導を示すという最新の知見に聞き入った。

ここでの「高温」とは相対的な意味である。超伝導現象が極低温で起こることはよく知られており、当時の理論では、その転移温度の上限は30K(−243℃)とされていた。ところが新発見の超伝導物質は、3倍以上の93Kという「高温」で電気抵抗がゼロになったのだ。ボールルームにいた誰もが、何が起きているにしても、それは全く新しい現象であることを知っていた。

93Kという温度には別の意味もあった。それまでの材料では、超伝導転移温度より下げるには、高価な液体ヘリウム冷媒が必要だった。ところが93Kなら、安価で大量に入手できる液体窒素が使えるのだ。だから、無損失超伝導送電のような応用が急に現実味を帯びてきたわけだ。会議の参加者の間では、さらに刺激的なアイディアがささやかれていた。ひょっとすると、冷却する必要のない「室温超伝導材料」もあるのではないか?

高温超伝導の最初の論文1が発表されてから、早くも四半世紀、25年が経過した。しかし、室温超伝導は夢のままだし、さまざまな応用の大半もまだ実現していない。そもそも、そこで起きていることの本質的な解明さえ進んでいない。実験技術はますます洗練され、20万本近い論文が発表されているが、物理学者たちはまだ高温超伝導現象を説明する完全な理論を手にしていない。「理論がないというのではありません。たくさんあるのですが、多くの人が同意できる理論が1つもないのです」と、ブルックヘブン国立研究所(米国ニューヨーク州アプトン)の物理学者John Tranquadaは指摘する。

超伝導の歴史

ただ、歴史を見ればあせる必要はないこともわかる。物理学者が従来型の超伝導を初めて理解できたとき、それは発見から50年も経っていた。超伝導は、今から100年前に、ライデン大学(オランダ)のHeike Kamerlingh Onnesの研究室で発見された。1911年4月8日、3Kまで冷却した水銀サンプルの電気抵抗を測定したOnnesは「Kwik nagenoeg nul(水銀ではほぼゼロ)」と記録した。これが、超伝導の最初の観察となった。

超伝導の説明が一歩前進したのは、量子力学が発展して、一般的な金属の構造の基礎となるモデルが提出された1920年代のことだった。これによると、金属原子は整列して規則的な結晶格子を作っている。個々の原子が持つ電子のうち、内側にある電子は原子核に強く束縛されて、格子上に固定されている。しかし、外側にある電子は原子核の束縛をのがれて自由に動き回ることができ、こうした自由電子が無数に集まって「電子の海」を形成している。電場の影響下で、格子の浮かんだ自由電子の海のすみずみにまで波が伝わり、電気伝導の基礎となるわけだ。

通常の金属では、自由電子の運動は必ずしも予測可能ではない。どんなに低温まで冷却しても、ランダムな熱のゆらぎが電子を散乱させ、その前進を妨げ、エネルギーを散逸させて、電気抵抗を作り出すからだ。しかし、ある種の金属が絶対零度に近い温度まで冷却されると、その電子は突然、高度に秩序立った状態へとシフトし、経路から逸れることなく集合的に進むようになる。それぞれに固有の臨界温度より低い温度まで冷却されると、電気抵抗はゼロになり、電流がほぼ永遠に流れ続けるようになる。つまり、超伝導体になるのだ。

それではなぜ、このような秩序立った状態が形成されるのだろうか? 1957年2月、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校(米国)に所属する3人の物理学者、John Bardeen、Leon Cooper、Robert Schriefferが、その完全な答えを発表した2

彼らが提案したBCS理論によれば、正に帯電した原子核からなる格子の中を1個の電子が移動すると、格子には小さな歪みが残る。それは、マットレスの上でボーリングの玉を転がすと、変形した跡が残るのとよく似ている。格子に残った歪みがもう1個の電子を引きつけると、2つの電子はいわゆるクーパー対(Cooper pair)を形成する。極低温でクーパー対が多数形成されると、その量子力学的な波動関数がそろって、1つの集団的な状態(凝縮状態)になる。ひとたびこの状態に入ると、クーパー対は互いにその状態を維持し合うようになる。なぜなら、1つのクーパー対が引き裂かれると、ほかのすべてのクーパー対のエネルギーが高くなってしまうからだ。そのため、すべてのクーパー対が妨害を受けることなく一緒に整然と流れ、超伝導現象を示すことになるわけだ。

この理論は非常にうまくいった。多くの予測を出し、それらはすぐに実験によって確認されたのだった。しかし同時にわかったのは、クーパー対を結びつける力は非常に弱く、極低温に保たないと、熱振動によって簡単に引き裂かれてしまうということだった。ライデン大学の理論物理学者Jan Zaanenは、「1950年代と60年代には、多くの研究者が、転移温度を高める研究に取り組みました」と言う。「しかし彼らはまもなく、25Kないし30Kよりも高い温度では超伝導現象を引き起こせないことを理解しました」。これだけの極低温を作り出すには、沸点4.2Kの液体ヘリウムを使った、複雑な冷却装置が必要だった。

なお、複雑な冷却装置が必要であっても、高価な応用であればそれほど問題にはならない。現に、この旧来型の超伝導材料は、超伝導ワイヤーや超伝導検出器などとして、医療用MRI装置や粒子衝突型加速器に応用されている。しかし、費用を考えると応用範囲は限定される。

狂気が支配した時代

1986年6月、IBMチューリヒ研究所(スイス)の物理学者Georg BednorzとAlex Müllerは、35Kで超伝導を示す材料を作成したと報告した1。このほとんど注目されなかった論文が、日本人研究者による追試実験で確認され、そこから燎原の火のごとく全世界に広がっていった。1987年1月には、米国の物理学者たちが93Kで超伝導を示す材料を発見した3。物理学のウッドストックは、その2か月後に開催されたのだった。

BednorzとMüllerの研究には驚くべき点がいくつもあった。その1つは、彼らが目を付けた材料が、金属ではなく銅酸化物という絶縁体だったことである。彼らは、銅と酸素からなる結晶格子にランタンやバリウムをドープしたとき、何が起こるかを調べていた。その結果、ドープした外来原子が一部の銅原子の外側の電子を解放し、それらが格子中を動くことを発見した。この銅酸化物を十分に冷却すると(その温度はどれだけドープされたかによって決まる)、電子は自由に流れるようになり、材料は超伝導状態になったのだ。まさに驚きであった。

絶縁体が超伝導を示すという奇妙な現象に直面した物理学者たちは、直ちに、固体凝縮系に関する基本的な概念の再検討に取りかかった。しかし、きちんとサンプルを調整しないで実験した論文が山ほどあり、結果を再現するのにも難航した。マサチューセッツ工科大学(米国ケンブリッジ)の物理学者Patrick Leeは、「数年間は混乱をきわめていました」と述懐する。奇妙で突拍子もない仮説がいくつも誕生したが、裏付けとなる証拠が不十分なものも少なくなかったのだ。

まもなく、研究者がいくつかのグループに分かれて、それぞれ異なる理論を主張して対抗し合うようになった。科学の原則はどこかに追いやられ、自分が支持する理論と相いれないデータを無視し、神がかり的に自分たちの理論に執着し、ほかの理論を信じる人々を攻撃したのだ。

スタンフォード大学(米国カリフォルニア州)の物理学者Kathryn Molerは、ある討論集会での奇怪な光景を覚えている。聴衆の中から1人の科学者が立ち上がって発言者を指さし、「嘘つき! 嘘つき! 皆さん、この男は嘘つきです。彼の言葉を信じてはいけません!」と叫んだのだ。また、米国海軍研究所(ワシントンD.C.)の物理学者Igor Mazinは、1989年の学会で、異なる理論を支持する物理学者たちが、ステージ上で小学生のようにどなり合っているのを見たという。

2つの高温超伝導理論が登場

やがて、不協和音を奏でていたこれらの理論は2つの理論へと整理され、現在は、ほとんどの物理学者がそのどちらかに沿って研究を進めている。第一の共鳴原子価結合(RVB)理論4は、プリンストン大学(米国ニュージャージー州)の凝縮系物理学者Philip Andersonによってほとんどの枠組みが作られた。この理論によると、電子対形成の機構は、銅酸化物の構造に刻み込まれているという。隣り合う銅原子どうしは、逆向きのスピンを持つ電子を共有する化学的原子価結合を通じて、結びつくことができる。典型的には、この結合によりスピン対が決まった場所に固定され、電流が流れるのを阻止することになる。しかし、材料がドープされるとスピン対が動けるようになり、原子価結合はクーパー対になって、それが凝縮して超伝導を示すという。

第二の理論はスピンゆらぎ理論と呼ばれ5、物理学コミュニティーでは最も多くの支持を受けている。この理論を考案したのは、エディンバラ大学(英国)のPhilippe Monthoux、ロスアラモス国立研究所(米国ニューメキシコ州)のAlexander Balatsky、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校のDavid Pinesである。この理論によると、ドープされていない銅酸化物は、反強磁性という秩序ある状態に固定されているという。このとき、個々の銅原子の外側の電子は、隣の電子とスピンの向きが逆になるように整列している。ある電子のスピンが上向きなら、その隣の電子のスピンは下向き、さらにその隣の電子のスピンは上向き……という具合である。このスピンが作り出す磁場が、電子をその場に固定する。これに対して、ドープされた銅酸化物では、交互に並んだ厳格なパターンが外来原子によって破壊され、スピンがゆらぐ余地ができる。ここを電子が通りすぎると、従来型超伝導における格子の変形に似た、脈打つようなパターンがスピンに生じる。この乱れが、動いている電子を互いに引き寄せてクーパー対を形成させ、超伝導状態にするというわけだ。

初期の頃には、これら2つの理論を支持する人々も、互いに衝突していたとTranquadaは言う。しかし、しばらくすると「少しリラックスして、意見が一致している点はどこで、一致しない点はどこなのか、という議論を始められるようになりました。そして、支持する理論の違いを超え、役に立ちそうな一部の実験や計算について合意することで、前に進むことができたのです」。現在、大部分の研究者は、磁気相互作用の重要性など、多くの点についてはおおむね合意している。

全体が落ち着くとともに、実験技術が改良され、突拍子もない理論が否定され、残った理論が洗練されていった。例えば、高エネルギー光子を利用して電子の挙動を探る角度分解光電子分光(ARPES)なども大きく進歩した。ARPESを使って研究を進めているスタンフォード大学の物理学者Zhi-Xun Shenは言う。「1993年には、12時間かけて4つのスペクトルをとるのがやっとでしたが、今では同じ実験は3秒で終わります」。

細野秀雄・東工大教授の発見

こうした中で新たな発見がもたらされた。2008年に、東京工業大学(東京都目黒区)の細野秀雄とその同僚らが、第二のクラスの高温超伝導材料を発見したのだ。これは鉄とヒ素を含むもので、鉄ニクタイドと呼ばれている6。これらの材料が超伝導を示す温度は、たいていの銅酸化物よりも低く、40Kより低いものが多い。けれども理論家たちは、この発見により自分のアイデアを検証する新しい舞台を手に入れた。

オークリッジ国立研究所(米国テネシー州)の物理学者Thomas Maierは、「検算のようなものです」と言う。鉄ニクタイドは銅酸化物よりも複雑な構造をしているが、どの現象が高温超伝導にとって重要で、どの現象が銅酸化物の構造に由来しているにすぎないのかを明らかにするうえで、大事なヒントを与えてくれる可能性がある。

鉄ニクタイドの発見は、研究者たちに、ほかの種類の高温超伝導材料が見つかるかもしれないという希望を与えた。その発見から、さらなる情報がもたらされるだけでなく、ひょっとすると、なかなか実現しない室温超伝導への道筋さえ見えてくるかもしれない。コロンビア大学(ニューヨーク)の物理学者Andrew Millisは、「2つ見つかったのですから、もっとたくさんある確率は高いでしょう」と言う。

応用技術のほうも前進している。例えばこの5年間で、ひも状の銅酸化物材料から、液体窒素で冷却できる送電ケーブルやMRI装置に使える超伝導テープが作成されている。

結局のところ、何もわかっていない?

しかし、近いうちに高温超伝導が完全に解明されるだろうと予想している研究者はいない。主な理由は、高温超伝導を完全に理解できたと主張するには、膨大な数の論文で提起されているさまざまな課題を、説明しなければならないからだ。Pinesは、「よい理論と評価されるためには、都合のいい話だけでなく、すべての知見を説明できなければならないのです」と言う。

しかし、何を説明する必要があるのかは、必ずしも明らかでない。例えば15年ほど前に、一部の高温超伝導材料で、転移温度よりも高い温度で電子対が形成されることが明らかになった。この「擬ギャップ」状態では、材料は自発的に縞状に組織される。すなわち、電子が固定されている絶縁性の領域の中に、電子対を運ぶ川のような細い領域ができるのだ。プリンストン大学の物理学者Ali Yazdaniは、「これは超伝導状態の前駆状態であり、問題理解の基礎となります」と言うが、Pinesはそうではないと言う。彼は、擬ギャップ状態は「超伝導を妨げているのであり、その原因ではない」と考えているからだ。

物理学者たちはかつて、旧来型の金属超伝導の秘密を解き明かすために、高度に発達した量子力学のツールが手に入るのを待たなければならなかった。同じように、今日の研究者たちの仕事を完成させるためには、未来のアイディアが必要なのかもしれない。

25年前の激しい論争はほとんど無意味だったが、決意の固い研究者だけを生き残らせたことは確かだ。現在残っている人々は、経験上、自分の小ささをよく知っている。「我々にとって最大の問題は、人間の誤りやすさでした」とAndersonは言う。こうした初期の困難は、時の試練に耐えうる理論へと鍛え上げるのには役立ったはずだ。「最終的には、よきライバルの存在が、我々を強くしてくれるのです」とShenは語っている。

(翻訳:三枝小夜子)

Adam Mannは、米国カリフォルニア州オークランド在住のフリーライター。

参考文献

  1. Bednorz, J. G. & Müller, K. A. Z. Phys. 64, 189–193 (1986).
  2. Bardeen, J., Cooper, L. N. & Schrieffer, J. R. Phys Rev. 106, 162–164 (1957).
  3. Wu, M. K. et al. Phys. Rev. Lett. 58, 908–910 (1987).
  4. Anderson, P. W. Science 235, 1196–1198 (1987).
  5. Monthoux, P., Balatsky, A. V. & Pines, D. Phys. Rev. Lett. 67, 3448–3451 (1991).
  6. Takahashi, H. et al. Nature 453, 376–378 (2008).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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