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東北地方太平洋沖地震の真相

Nature ダイジェスト Vol. 8 No. 10 | doi : 10.1038/ndigest.2011.111034

原文:Nature (2011-07-21) | doi: 10.1038/nature10265 | The lessons of Tohoku-Oki

Jean-Philippe Avouac

3.11東北地方太平洋沖地震の観測データは異例なほどよくそろっているため、早くも、地震前、地震時、地震後の地殻変動の詳細が明らかになってきた。その一方で、地震と津波の危険を評価するためのモデルは、完成にはほど遠い水準にある。

図1:東北地方太平洋沖地震の震央域
2011年3月に発生した東北地方太平洋沖地震(震央は★)では、太平洋プレートが1年に8cmのスピードで本州北部の下にもぐり込んでいるプレート境界面が破壊された。小沢らの分析1の結果、破壊された領域とすべり量の分布(黒の等値線で示す)が、プレート境界面上で数十年前から固着していた部分(仙台沖の色付けされた部分)とだいたい一致していることが明らかになった8。震源域は非常にコンパクトで、深さ20km未満の比較的浅いところで非常に大きなすべりが起きたため、巨大な津波が発生した。この領域の北のほうにも強く固着した領域があり、過去の巨大地震(特に、1896年に発生したMw8.5の明治三陸地震と、1968年に発生したMw8.2の十勝沖地震)で破壊が起きた領域とよく一致している。 | 拡大する

プレートの境界や大きい断層で起こる地殻変動を測定できる宇宙技術が開発され、地震科学は新しい時代に入っている。日本は世界に先駆けてこうした技術を導入しており、15年も前からGPS連続観測網GeoNetの運用が始まっている。2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震についても、6月にはその観測データを分析した論文が発表され始めた。Nature 2011年7月21日号p.373には、国土地理院の小沢慎三郎らの論文1が掲載されている。

東北地方太平洋沖地震のモーメントマグニチュード(Mw)は9.0で、これまでに記録された地震の中で最大級のものである。GeoNetの観測局で収集されたデータ1からは、今回の地震は、太平洋プレートがオホーツクプレート(本州北部はこのプレートの上に乗っている)の下にもぐり込むプレート境界面の、南北400km、東西200kmという非常にコンパクトな領域が突然すべったことで発生したと考えられる。破壊された領域(図1)は本州の沖に位置し、その東にある日本海溝の付近にまで広がっている。巨大な津波が発生したのはそのためだ。

ほかの新しい論文2,3は、さらなる情報を提供している。GPS計測と水中音響測距を組み合わせた観測の結果2は、震央域の海底が沖に向かって24mも移動し、約3m隆起したことを示唆している。それゆえ、地下のプレート境界面でのすべり量は、GeoNetのデータから見積もられた27mという最大値1を上回っているはずである。GeoNetのデータと海底水圧計による津波高の記録を組み合わせたモデル3が示唆するように、50mを超えている可能性さえある。ちなみにこの数値は、2004年のスマトラ島沖地震(Mw 9.4)や2010年のチリ地震(Mw 9.0)などの巨大地震について推定されているすべり量の最大値の約2倍であり、さらに、記録のある地震の中では最も大きく、チリ南部の沖合のプレート境界面が1000km以上にわたって破壊された1960年のチリ地震(Mw 9.5)でのすべり量の推定値4よりも大きいのだ。

GeoNetの運用が始まってから今回の地震が発生するまでの15年間に収集されたデータ5は、本州にゆっくりとひずみが蓄積してきていることを示していた。本州の下に沈み込む太平洋プレートが、本州の東端を圧迫し、引きずり下ろしているからだ。けれども、本州の海岸は、長期的には隆起していることがわかっている。ならば、「地震間(地震と地震の間)」に蓄積されるこのひずみのかなりの部分が、突然の隆起によって解消される必要がある。

現在のモデルでは、地震間に上のプレートに蓄積されるひずみは完全に弾性的であり、それはプレート境界型地震に伴う破壊によって「回復」し、長期的に見れば上のプレートは変形しないとされている6。この仮定に基づき、プレート境界面でのすべりは、地震間に上のプレートに蓄積されるひずみとの間で関係付けられる。したがって、プレート境界面でクリープ(非地震性のすべり)が起きているところでは、上のプレートに蓄積するひずみは無視できるほど小さい。しかし、プレート境界面が固着しているところでは、上のプレートが圧迫され、引きずり下ろされて弾性ひずみがどんどん蓄積していき、ついに固着域がすべったときにひずみが解放されることになる。

この仮定は、これまでに行われたいくつかの研究で採用され5,7,8、本州で観測されているひずみを説明するには、仙台沖に大きな固着域が存在している必要があることを明らかにした(図1)。東北地方太平洋沖地震でプレート境界面が破壊された場所は、この固着域とよく一致している3。ただ不一致もあり、注目すべき点は、破壊された領域が日本海溝付近まで広がっていたことだ。ここは、地震間固着域のモデルでは、ほとんど固着していないとされていた場所であった。

今回の地震では、浅い場所での広範にわたるすべりが見られたが、その原因の1つとして、日本海溝に到達しなかった「以前のプレート境界面破壊」で、解放されなかった高い地震前応力が残っていたことが考えられる。もう1つの原因としては、地震学調査の結果が示唆しているように9、プレート境界面の性質が特殊だったことが考えられる。いずれにせよ、今回観測されたすべりを説明するには、地震前に、プレート境界面の浅いところが、少なくとも部分的には固着していた必要がある。

これまでに発表されている地震間固着域のモデル5,7,8では、プレート境界面の浅いところではほとんど固着がないとされているが、これは、モデルに組み込まれた仮定に由来するところが大きい。従来のモデルは、陸に近い場所で収集したデータのみに基づいて構築されており、沖合のプレート境界面の浅いところの状態については、確かな根拠があるわけではないのだ1。そのため、今回のような浅い場所での広範にわたるすべりについては、その発生確率を過小評価してしまうおそれがある。だとすれば、海底測地測量による直接的なデータなしにモデルを構築する場合には、プレート境界面の浅いところでは固着が最大になると仮定したほうがよいのかもしれない。実際、地震間の測定データは、仙台沖の固着域が日本海溝のプレート境界面の浅いところまで続いている可能性を否定しない。それはともかく、このような仮定は、東北地方太平洋沖地震クラスの巨大地震の発生頻度の評価に疑問を投げかける。

過去数百年間に起きた地震によって本州北部沖のプレート境界面で発生したと推定されるすべり量は、同じ期間の地震間固着により蓄積されたはずの「すべり欠損」を解消するにはかなり小さい。つまりひずみが蓄積過剰状態なのだ。だから、そろそろこの場所で大地震が発生する時期が来ていた、と考えることができるかもしれない。実際、これまでに発表されている地震間固着域のモデルでは、ここのプレート境界面にひずみが蓄積するペースは非常に速く、わずか数百年間でMw9.0の地震を発生させるだけのひずみが蓄積するとされている。ひずみ蓄積モデルを構築する際に、プレート境界面の浅いところでも固着が起きていると仮定すれば、大地震の発生頻度はさらに高くなるはずだ。

対照的に、歴史記録や古代の津波記録に基づく見積もり10では、大地震の発生頻度は1000年に1度か、それよりさらにまれだとされている。この食い違いをどう理解すればよいのか、解決策はまだ見えてこない。東北地方太平洋沖で大きな非地震性のすべりが特に頻繁に起きているという証拠はないし、地震後の余効すべりは、それなりの大きさはあるものの1、すべり欠損と釣り合うには小さすぎる。そう考えると、地震間に蓄積するすべり欠損は、あるいは過大評価されているのかもしれない(例えば、地震間のひずみの一部が回復不可能な場合には、そのようなことになる)。それとも、この10年余りの間に測定された測地学的速度に基づいて、数百年ないしは1000年間のひずみの蓄積を推定すること自体が間違っているのかもしれない。

モデルによる予想と合わない観測結果はもう1つあり、おそらく今述べた問題とも関連している。それは、今回の地震によって、海岸が全体に1m以上も沈下したことである。予想では、地震間に毎年5mmのペースで起きていた沈下と釣り合うだけの「隆起」が起こるはずだったのだ。長期的に見て海岸が隆起していくという現実を説明するには、この毎年の沈下を解消するだけの大規模かつ頻繁な地殻変動が起こる必要がある。もしかすると、上のプレートの地震間の変形が完全に弾性的であるという仮定と、地震間の弾性的なひずみがプレート境界型地震のみによって解消されるという推定の両方を、考え直す必要があるのかもしれない。

最後に、東北地方太平洋沖地震の地震前5,7,8と地震後1に得られた測地学的データは、今回破壊された領域より南にあるプレート境界部分が、もっぱら非地震的に(つまり地震によるエネルギーの解放なしに)、クリープしていることを示唆している。したがって、東京を脅かすおそれのあるプレート境界部分には、大きなひずみは蓄積されていないと考えられる。測地学的観測網は、プレート境界面や大きな断層において、ひずみの蓄積や地震による解放を観測するうえで、大いに役に立っている。しかし、これらのデータを利用して地震や津波の危険を評価するための理論は、まだ完成度が十分ではないと言える。

(翻訳:三枝小夜子)

Jean-Philippe Avouacは、カリフォルニア工科大学(米国パサデナ)の地質学・惑星科学科に所属

*小沢らの論文1およびこの解説記事は、2011年6月15日に、印刷版に先立ちオンライン版に掲載された。

参考文献

  1. Ozawa, S. et al. Nature 475, 373–376 (2011).
  2. Sato, M. et al. Science doi:10.1126/science.1207401 (2011).
  3. Simons, M. et al. Science doi:10.1126/science.1206731 (2011).
  4. Moreno, M. S. et al. Geophys. Res. Lett. 36, L16310, doi:10.1029/2009gl039276 (2009).
  5. Suwa, Y. et al. J. Geophys. Res. 111, B04402, doi:10.1029/2004JB003203 (2006).
  6. Savage, J. C. Annu. Rev. Earth Planet. Sci. 11, 11–43 (1983).
  7. Hashimoto, C. et al. Nature Geosci. 2, 141–144 (2009).
  8. Loveless, J. P. & Meade, B. J. J. Geophys. Res. Solid Earth 115, B02410, doi:10.1029/2008jb006248 (2010).
  9. Ide, S., Baltay, A. & Beroza, G. C. Sciencedoi:10.1126/science.1207020 (2011).
  10. Sawai, Y. et al. Holocene 18, 517–528 (2008).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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