Editorial

スペースシャトル退役後の懸念

Nature ダイジェスト Vol. 8 No. 10 | doi : 10.1038/ndigest.2011.111032

原文:Nature (2011-07-07) | doi: 10.1038/475006a | Up and away

スペースシャトルの最終ミッションは、今後の宇宙科学の厳しい日々を暗示している。

スペースシャトルの引退に喝采を送る科学者は多い。スペースシャトルは、すばらしいハッブル宇宙望遠鏡の打ち上げ・修理・保守に重要な役割を果たしたものの、それ以外には、科学に対する特筆すべき貢献はなかった。投じられた数十億ドルを、ほかの惑星のロボット探査、宇宙望遠鏡、あるいは同様の価値ある目的に振り向けたらよかったのに、と思う科学者は少なくない。しかしその退役を歓迎するのは早計だ。これが、宇宙科学の暗黒時代の前兆となるかもしれないからだ。

スペースシャトルの科学計画が宣伝どおりに進んだことは一度もなかった。それどころか、最初期には、宇宙での実験がHIVやがんの研究に役立つかもしれないなどという、とんでもない主張が計画の推進者からなされていた。さすがに最近では、こうした主張は慎重になされるようになり、科学研究については厳重なピアレビューが行われるようになった。ただし、今回の最後の「アトランティス」の飛行計画には、相変わらず質の低い研究テーマが並んでいる。ゼロ重力における微生物の毒性の研究、無重力状態のマウスを用いた実験、国際宇宙ステーションのアプリを装備したiPhoneといった具合だ。

確かに、スペースシャトルは科学プロジェクトではなかった。ニクソン政権下で生まれたスペースシャトル計画は、米国航空宇宙局(NASA)に存在理由を与えることが目的であって、当時は、次のステップへの必然的な前段階と考えられた。その次なるステップとは完全な再使用型を実現することで、これによって、宇宙の入り口まで手早く安価に旅する乗り物ができるはずだった。だが、簡単には進まなかった。

当初は年間50ミッションという構想だったが、実際には、これほど頻繁に打ち上げることはできず、1回の飛行に要する費用も見積額を大きく上回った。また、軌道上を周回する翼を持った宇宙船であるスペースシャトルが単独で打ち上げられることはなく、大型ブースターロケットと船外燃料タンクを用いて軌道に乗るための推進力を確保していた。この補助システムが1986年のチャレンジャー号事故の原因となった。2003年のコロンビア号の事故では、剥落した発泡断熱材による機械損傷が原因であった。いずれの場合も、スペースシャトルの運用上の問題が指摘された。

このように数多くの欠点はあったが、しし鼻のシャトルを研究の一大汚点だと非難するのは正しくない。好むと好まざるとにかかわらず、シャトルは、最も認知された科学技術のシンボルとして一世代を築いた。計画には多額の費用がかかったが、それによってNASAの集中力が維持され、スペースシャトルは常に議会と国民の注目の的だった。

スペースシャトル計画の終了で、NASAとその強力な宇宙科学が枯れ果ててしまう懸念がある。NASAの旗艦プロジェクトであるジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、途方もないほどの予算オーバーとなっており、何年も遅れる可能性が高い。その次の米欧共同ミッションである「マーズ・ローバー」も費用が高騰しており、最近になって、当局者が、予算増加の問題を理由として、計画の延期を発表した。また、地球を監視するプロジェクトは、この2年間に2機の有名な気候衛星が失われたことでつまずいている。

しかし、現在の宇宙科学は、かつてないほど大きな可能性を秘めている。もし重力検出衛星を宇宙に打ち上げられれば、宇宙の最初期を調べることができ、一連の宇宙望遠鏡を設置できれば、遠くまで広がる恒星系に関するてがかりが得られるかもしれない。より近いところでは、着陸船と惑星探査機によって太陽系の歴史と進化に関する理解が深まるかもしれないし、地球観測衛星は、我々の気候変動の理解と対応能力を高めるだろう。これらのプロジェクトのいずれにも宇宙飛行士は関係しないが、その成功には、強力で活発なNASAの存在が必要だ。

NASAは、最終的には、スペースシャトルの代わりとなる別の有人宇宙船を建造するか、研究コミュニティーの要望に近づけたミッションを計画するかもしれない。しかしNASAの現状は漂流状態だと言わざるを得ない。

(翻訳:菊川要)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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